Vステラ×ココロックSS「ココロックとチョコレートケーキと悪夢」
このSSは、「イドラ ファンタシースターサーガ(©SEGA)」の二次創作です。当たり前のようにカプを組んでいますが、公式カプではないのでご留意ください。
「ロウパーティがやられた!」
「オレたちの出番だ!」
旅団バトル。
名の通り、旅団単位で試合が組まれ、互いに戦う。
この世界、ヴァンドールで、恐らく最も熱いスポーツだ。
オレたちのパーティと戦っているのは、アイドル衣装を着た大商会の首魁、青いナイトドレスの広報隊、キャンシードから逃亡してきた少女。そして。
「飛ばしていくよ! ついてきて!」
アイボリーとチョコレートの色を基調とした、リボンの多く動きやすいドレスを着た、長いツインテールの少女。
名前は確か、ステラ。
右手甲には誓痕がある。つまり、カオスだ。
オレ……ココロックは、首のスカーフを締めなおし、トントン、と爪先で地面を叩く。
「ココロック、頼りにしているわ」
オデットはオレの頭をなでてから(くすぐったい)銃に装填を済ませ、アストライアはいつでもリュートを弾ける状態に。ゲルダはエレメントを集め、いつでも供給できるように準備している。
オレがみんなの盾になっている間、みんなが暴れる戦術だ。
「行くぞ、みんな!」
最後に、誓痕と右腕のヒーターシールドに触れるおまじない。
準備は……できていた、はずだった。
「ポポナがんばる!」
オレたちが戦線に上がった瞬間、ハトに乗ったポポナが超高速で襲いかかる。
要は単純な体当たりだが、速度が乗っているので物理的に痛い。
「支援の護り、持っていくねー!」
さらに、体当たりの際に対支援消去のお守りを一枚奪われる。これが厄介なことこの上ないのだ。
当然、みんなはこんな攻撃を何度も受けていられない。
「みんな、恐らく追撃が来る! ここはオレに任せろ! ノームの根性舐めんなよ……!」
相手からの攻撃を全て受けきれるよう、結界を張る。さあ、来い……!
動いたのは、ステラ。
「張り切って作るよ! えーい!」
彼女は真鍮のフォーク型をした槍を振り、術を唱える。
「……?」
正面からは何も飛んでこないが。
「ココロック! 上!」
オデットの叫びを受け、上を見ると。
ケーキだ。
巨大なケーキが上空に生成され、落ちてきている。
「しまった……!」
オレはノームの俊敏性を活かし、飛ぶ。
ケーキが近づき、より大きくなっていく。
オレは壁を蹴ってさらに飛び、盾を構える。
ケーキは更に大きくなっていく。
更に。
更に大きく。
(なんか思ってたのと違う……!?)
ケーキに衝突する。
「わぷ」
「「「ココロックー!?」」」
オレは……ケーキに下から突き刺さり、埋まった。
◆◆
「うーん……」
ぼんやりしており、体が重い。
「あっ、目覚めた!」
体の上に、誰か居る。
「ステラ……?」
「そうだよ、ココロック。ステラです」
ステラは、ウィンクし、体の上から退く。
部屋はチョコレート色をしており、ケーキの本棚、飴の時計、そしてキャラメルで編んだ布に覆われる、カステラの机が目に入る。
強烈な甘い香りが鼻につく。
「そうだ、みんなは!」
「安心して、無事だよ。でも、ここから無事に帰るために、ココロックには言うことを聞いてもらいます」
どういうことだろうか。
昔オデットに読んでもらったマンガに、こういうシチュエーションがあった気がする。
「オレを脅して後悔しても知らねえぞ。何をすればいいんだ?」
「今からココロックには、私の作ったケーキを食べてもらいます」
やっぱり、よくわからない。
「そのくらいだったらいつでもやってやるぜ!」
「ふふ、どこまでその意気が持つかな?」
ステラは一回転し、キャラメルの布を剥がす。
「うっ……!」
ずらり、とケーキが並んでいる。
「これ全部食べろっていうのか?」
「もちろん。全部食べきったら君の勝ち。食べきれなかったら……」
オデットとココロックは私のものです、と囁く。
「……やるしか、ないんだな」
覚悟を決めた。
「頑張ってね。いざという時は食べさせてあげます」
聞き流し、フォークを手に取る。
目の前にあるケーキは、とにかく種類が多い。
こんな状況でなければ、とても嬉しかっただろうと思う。
「迷ってる、迷ってる」
数十秒考え、最初に手にとったのはカップケーキだ。
ふわふわのスポンジに、蜜漬けのアーモンドが乗っている。
もぐもぐと食べ進めると、チョコレート片の混ざったクリームが顔を出す。
二回ほどスポンジとクリームの層を掘り、食べきる。
「美味しかった?」
「悔しいけど美味い」
素直に声に出すと、ステラは嬉しそうにしていた。
二つ目はチョコレートのショートケーキ。
苺の酸味に頼りながら、薄氷のように儚く平たいチョコチップ、まったりとしたチョコクリーム、しっとり濡れたチョコスポンジを崩していく。
食べながらステラの方を見ると、両頬に手を当て、穏やかに微笑んでいる。
……オデットを巻き込むわけには行かない。なんとしてでも食べきってやる。
三つ目。そろそろ甘さに飽きてきた。
また暫く迷っていると、助け舟が出される。
「じゃあ、ココロック。こっちの苦いのはどう?」
ステラが運んできた小皿に乗っているのは、小さく黒いチョコレート。
「これは……?」
「カカオを濃くしておまけにコーヒーも混ぜた、苦い苦いショコラだよ。ココロックは食べきれるかな」
「子供扱いするなっての」
さあさあ、と勧められ、齧る。
「苦ッ……!」
ヒュドラの毒を思わせるような、強烈な苦さにたじろぐ。
そして、見るからに甘そうな淡い色のブラウニーを手に取り、無心で食べる。
「舌の方はまだまだ子供なんだね」
「……うるさい」
ペースが、崩れる。
レアチーズ、生チョコレート、タルト。
満腹感に耐えながら次々と口に運ぶ。
コロネ、パイ、そしてラミントンを食べきる頃には、ほとんど限界に近かった。
「ココロックのお腹、大きくなっちゃったね」
普段の食事ではありえない膨らみをしたお腹を、ステラは「つぅ……」とさする。
「撫でる……なあ……!」
「残りは一つ。体を動かすのもつらそうだから、私が食べさせてあげるね」
そう言ってステラはフォークを手に取る。
ほとんど空になったテーブルの上、最後に残ったケーキはミルフィーユ。
皿を近くに寄せ、彼女は密着する。
香水だろうか、柑橘の香りが、ふわっと舞う。
一口、また一口と、ゆっくり様子を見ながら食べさせる。
オレを嵌めたとは言うものの、その動きは、とても優しい。
慣れない経験に緊張しながらも、ついには、完食した。
「おめでとう、ココロック!」
ステラはパチパチ、と拍手する。
「これでみんなを自由にしてくれるんだよな……? うっぷ」
「白羊家当主は約束を守ります。これでココロックは」
突然、部屋の入口のドアが勢いよく開く!
「ステラさん! 二次会用のケーキ届きました!」
そして、ワゴンと山積みになったケーキを押しながらポポナが現れる!
「ポポナ、ありがとう!」
「お安い御用です! ステラさん! パーッと楽しみましょう!」
その声を聞きながら。
「……オデット、助けて……」
オレは、気を失った。
◆◆
「ココロック! ココロック!」
「うーん……?」
目が覚めると、テントの中。
オデットがオレの右手に両手を重ねている。
恐らくは救護室だろう。
「オレは一体……?」
「ケーキに突っ込んでいった時は、窒息したかと思いました……! ココロックが無事で良かった……!」
どうやらあの後、旅団バトルは負けたらしい。
「ごめん、オレが不甲斐なくて」
「そんなことはないですわ! あの時守って頂けなかったら、全員ケーキに潰されていたはずですの」
「ケーキ……うっ」
悪夢が、蘇る。
「どうなさいましたの?」
「なんでもねえよ。行こうぜ、打ち上げ!」
「わかりましたわ。行きましょう!」
ココロックは、何度でも立ち上がる。
ただ、打ち上げでもケーキが出されたことは、思い出したくない。
〈完〉
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