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【番外編】”ハンコください”ってなんですか!?外国ルーツの学生向け。日本での就職活動ガイド

こんにちは。認定NPO法人Living in Peaceです。
就活支援で難民の方々と接するたびに実感することがあります。それは日本の企業文化って何かとハイコンテクスト!ということ。

ハイコンテクストとは・・・
「Don't think! Feel!(考えるな感じろ)」が当たり前に求められるさま※
※執筆者の個人的な見解です。

一般的には「実際に言葉として表現された内容よりも、言葉にされていないのに相手に理解される内容のほうが豊かな伝達方式(Wikipedia「高・低文脈文化」より)という定義のようです。暗黙のルールが多く、言葉になっていない部分を補う必要があります。この概念を提唱したエドワード・T・ホールは、日本語を”最もハイコンテクストな言語のひとつ”として挙げています

とあるコメディアンではないですが、よく考えると「Why?! Japanese People, Why?!」なことが、実は身の回りにはたくさんあります。

今回は、外国ルーツの学生向けに日本企業にありがちだけど明文化されていないルールや基礎情報について少しでも知っていただけるよう「ハンコ」についてお話しします。

日本育ちの方も、日本の企業文化を考えるきっかけにしていただければ幸いです。

◆ハンコとは

日本の会社に入るとかならず必要になるもの(2021年現在)。それがハンコです。

日本社会において「ハンコ」には、大きく3つの意味があります。

①印章(いんしょう)・・・物体としてのハンコ
②印影(いんえい)・・・紙にハンコを押したあとのスタンプ
③印鑑(いんかん)・・・公的に届出をしたハンコの印影。不動産取引などに必要

ただし、「印鑑」は文脈によって①や②を指す場合もあるので注意が必要です。このあいまいさが、まさにハイコンテクスト!

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印章(ハンコ)をスタンプして紙に写したものが印影(ハンコ)です。日本社会において「ハンコ(印影)」は海外における署名と同じレベルの、とても重要な意思表明となります。

◆自分のハンコ(印章)を買う

その大切な「ハンコ」は、いつ、どうやって買うのでしょうか。

親切な会社であれば入社時にハンコを用意してくれます。また、学校の卒業記念や成人の記念でハンコをもらえることもあるでしょう。

そうではない場合は自分で購入する必要があります。100円ショップで買えますし、インターネットで「ハンコ作成」と検索すると数百円程度から作成できるショップがたくさん見つかります。

ハンコは、場面に応じて使い分けが必要なため、社会人になったら2,3種類は持っておくのが良いでしょう。(後述)

ただし、新入社員は大きいサイズ(12mm以上)の印章は避けましょう!
ハンコの大きさは、社内における権力を表現しています。これを知らずに上司より大きいハンコを使うと「生意気だ」と理不尽な批判を受ける場合がありますので、まずは10.5mmサイズの印章が無難です。

私のように会社の発注ミスで大きいサイズのハンコが配られたケースでも容赦なく「生意気な新人」という批判を受けます。注意しましょう。

暗黙のルールを理解した行動が求められる日本企業において、「生意気」というワードは「組織の秩序に敵対的」「先輩をナメんなよ!」という警告かもしれません。言われたらすぐ信頼回復に努めましょう。

◆個人のハンコ(印章)の種類

ハンコ(印章)は使う場面によって、種類を使い分けます。

会社の書類に使うハンコは「認印」と呼ばれます。そのほかに、「実印」「銀行印」と呼ばれるハンコがあります。ただし、「認印」「実印」「銀行員」という種類のハンコが売られているわけではありません!

①実印:役所に届け出ることで、法的効力を持つハンコ
②銀行印:金融機関での口座開設のときに届け出るハンコ
③認印:契約申込や、仕事の書類で使う(会社でよく使う)ハンコ

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出典:https://namae.kaiunya.jp/2013/12/syuruitoyouto/

用途によって、それぞれ呼び名が決まっているのです。大切なハンコ(実印・銀行印)を日常的に書類に押してしまわないように注意しましょう!

また、ハンコには「シャチハタ」と一般的に呼ばれる種類のものがあります。印章は「朱肉」と呼ばれるスタンプパッドが必要ですが、シャチハタはインクが内蔵されており押すだけで印影をスタンプできます。

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シャチハタはとても便利ですが、同じ印影のものが多く流通しているため、公的な書類では使用不可とされていることがあるので注意しましょう。多くの人の目に触れる宅配便や、回覧書類には、シャチハタを押すことが多いです。

【豆知識】シャチハタは「インクが内蔵されたハンコ」のメーカーの名前です。
その本社が名古屋にあります。名古屋といえば名古屋城のシャチホコ。
シャチホコの旗が会社のトレードマークだったため「シャチハタ」です。

◆会社のハンコ(印章)の種類

会社として契約を交わすには「社印」と呼ばれる、会社としてのハンコが必要です。

多くの会社で「社印」は課長や部長といったマネージャークラスだけにスタンプする権限があります。「社印」が必要な場合はマネージャーに依頼し、勝手に契約書に「社印」を押さないようにしましょう。「社印」は歴史を感じさせるような、おしゃれなデザインのものが多いです。

社印にも、複数の種類があります。印影の形から角印、丸印と呼ばれることが多いです。

①角印:主に請求書や領収書など、企業の名前で発行する書類に押されます。個人のハンコの「認印」のような存在です。
②丸印:法人設立時に法務局への登録が求められているもので、重要な契約などに押されます。「代表者印」や「会社実印」などとも呼ばれます。個人のハンコの「実印」のような存在です。

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ただし、会社によっても使い分けている種類の多さは異なります。

◆「ハンコください」は指定の場所にスタンプしろという意味

日本の会社で働くと、書類の上や下に以下のような枠のついた書類を渡されることがあります。

図2

この枠が付いた書類を渡された場合、自分の名前が書かれた□(四角)に自分のハンコをスタンプして、次に名前のある人に渡せという意味です。

場合にもよりますが、次の人が休暇で出社していない場合でもスキップしてその次の人に渡してはいけません。役職が下の者から順番に合意した、ということが大事なのです。こうしたルールは職場によって違うので、わからないときは周りの人に相談しましょう。

図3

【豆知識】日本文化では、横一列に並んだものは向かって左ほど地位が高いという意味があります。日本企業にはこうした暗黙のヒエラルキーがあるので注意が必要です。
並び順にこだわらない会社もありますので会社の雰囲気にあわせましょう

図4

なお、こうした枠付きの書類を渡される際に「ハンコください」と言われることがありますが、要求されているのは印影ですので、物体としてのハンコである印章を相手に渡してはいけません。

◆ハンコの押し方

ハンコは基本的にまっすぐスタンプします。傾いてしまったり、上下逆になってしまってはいけません。

まちがえた場合は、その上に「=」のマークを書くことで無効化できます。無効化したら、余白にもう一度正しくハンコをスタンプしましょう。

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なお、よりヒエラルキーを強調するために独自のハンコルールを持つ会社もあるようです。そのひとつが「おじぎ印」です。地位が低い人たちが、おじぎをするかのように傾けてハンコを押す方式です。

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私は、「おじぎ印」について、そんな無意味なことをさせる会社は、さすがにないだろうと勝手に作り話だと思っていました。
しかし、電子印鑑システムに「一部の企業からリクエストがあった」ということで「おじぎ印」ができる機能が追加された、というニュースがありましたので、どうやら事実のようです・・・。

会社によってカルチャーは様々なので、わからない場合は必ず聞くようにしましょう。

◆ハンコもデジタル化の流れ

このようにどこか「形式的」な要素があるハンコですが、2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、状況が変わってきています。

感染リスクを抑えるために出社を抑制することが全国的に求められたのですが、契約行為にハンコ(主に「社印」)が必要とされているため、ハンコを押すためだけに命がけで出勤しなければならないという笑うに笑えない状況が生じたのです。

これに対して国も問題意識を持っています。行政手続きにおいては、押印不要とする動きが急速に進んでいます。

また、多くの会社が物理的なハンコから、デジタル署名への移行を進めるようになっています。ハンコを完全に廃止した企業も出ています。

今後はハンコといえばデジタル署名、という時代になるかもしれませんね。

なお、中国・韓国・台湾でもハンコ文化がありますが、行政への登録制度がすでに廃止されており、日常的な手続きは署名が基本のようです。

◆ハンコの歴史は7000年以上

最後に、ハンコそのものは長い歴史と文化のあるものです。世界で最初のハンコは、紀元前7,000年~6,000年頃の中東の遺跡から発掘されたものとされています。(wikipedia「印章」より)

こうした長い歴史があるのも、かつては文字を書ける人が少なかった、という背景があります。現代でも、手に障がいのある方などにとってはサインよりもハンコのほうが便利なこともあります。

日本で現在のようにハンコが重要なものとして扱われるようになったのも、明治時代の近代化において、現代のように識字率がほぼ100%ではなかったことや紙の書類があまりにも多かったことが背景のようです。

また、ハンコには文化的な側面も多くあります。

お寺や神社のスタンプである「御朱印」は私も出かけるたびに集めていますが、旅の記念にもなりますし、さまざまなデザインのハンコは見ているだけでも楽しいです。

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承認行為としてのハンコはサインやデジタル署名に変わっていくかもしれませんが、ハンコの芸術性や文字が書けなくても使える機能性は、何らかの形で残っていくのではないでしょうか。

ちなみに10月1日は「印章の日」とされており、使われなくなったハンコのお葬式である「印鑑供養」が各地の神社で行われます。こうした、物を擬人化して大切に使う文化も大事に残していきたいですね。

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以上、日本での就職活動ガイド【番外編】は、ハンコについてお届けしました。この後も以下のような「明文化されていないけど知っておいた方が良いもの」を更新していきます。ぜひ「スキ(ページ下部のハートマークをクリック)」で応援してください!

・とにかくあいさつが大事
・出社時間と退社時間、残業と有給休暇
・明記されていないけど若い人にやってほしいと思われていること
・遠回しなNO「持ち帰って検討します」
・ラジオ体操と5S
・電話「Aさんいますか」は「Aさんと話したいから代わってくれ」
・万能の言葉「よろしく」
…etc.

執筆:向井 加筆:宮本(Living in Peace)

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