見出し画像

森での不思議なお話

夫は週末によく森を歩く。

私も森が好きで一緒に行くことが多いが、私はせいぜい10km...…
しかも、「なるべく勾配のきつくないところ」とか、「一応、道になっているところ」「今日は暑いから日陰で」「栗を拾いたい」など、注文が多い。
夫は一帯の森を熟知していて、その時の要望に合ったコースを選んでくれるので助かる。

とはいえ、夫にとっては、毎回そんな散歩みたいなものでは物足りないだろうと、たまにはひとりで行ってもらうようにしている。

この前の休みもひとりで森に行ってきた夫。
とても不思議なことがあったと話してくれた。

そこは林道として整備された道ではあるものの、ほとんど人のいない場所。
生い茂る木々の奥になにやら物音を聞いた。

このあたりは野生の動物も生息しているので、立ち止まって耳をすますと、かすかに男性と思われるふたりの声が。

こんなところに変だな、と思いつつ再び歩き始めると、声のした方向にうっすらと煙が立ち上がるのが見えた。
なかには森でお湯を沸かしたりソーセージを焼いたりする人もいるようだが、基本的に山で火を起こすのは禁止である。

それも気になるし、もしかしたら怪我をしていたりするのかもしれない。
道の先は右へ曲がるいわゆるヘアピンカーブになっており、このまま進めば、木々の茂みの反対側に出られそうだ。そちら側からならなにか見えるかもしれない、とそのあたりまで行ってみた。

反対側からはいくらか見通せたが、人の姿は見えず、煙も消えていた。

木々の間から、二頭の鹿が走り去るのが見えた。

聞き間違い、見間違いだったのだろうが、まるで童話に出てくる情景のようだ。

森には、そんなゆらぎの中に存在する世界があるのかも、と思わせる空気がある。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?