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華麗にボタンつけのはずが

大学時代は吹奏楽部に所属していた。
吹奏楽は一般的には「文化」のカテゴリーに入りそうなものだが、多くの大学では応援団に付随するものという扱いで「体育会」になる。

入学したとき、本当はオーケストラに入りたかった。でも当時はいわゆる左派傾向の強かった文化会の所属ということでなのか、特定思想のからむ集会のビラ配りなどもしているようで避けた。
「吹奏楽なんてただの応援団だし、入ったら頭が筋肉になるよ」みたいなことを平気で口にするのも気に入らなかった。

というわけで結局、吹奏楽部を選んだ。
応援団につくとはいえ、実際は普通の吹奏楽団である。外部から本職の指揮者も招かれ、それなりに音楽を楽しんだ。

当時、体育会では所属部の中から毎年数人の役員を募ることなっていて、私は3年のときにその女子枠の職を引き受けた。数的に少数派である女子が活動しやすくなるようにと作られたポストだ。

体育会の本部というところは男中心の世界で非常にむさ苦しいところではあったが、意外にそこには男尊女卑的なものはなかった。(前に記事にした拾った財布のお礼にもらったチョコレートを持って行ったのもここだ)

さて、同じくそこで仕事をしていた同期の男子学生で、なかなか爽やかでスポーツ万能、男女問わず誰からも好かれる好青年がいた。
いつもは学生服(当時でいう「長ラン」)を着ているが、その日はスーツを持ってきていた。夕方からお姉さんの結納があるのだという。初夏の気持ちのよい日だった。

「じゃ、着替えて行ってくる」と更衣室に向かった彼が、数分後に戻ってきた。

「シャツの袖のボタンが取れた」

本部室にはむさ苦しい男子らと私。
ボタンつけは女の仕事、とはまったく思わないが、たまたまバッグには携帯用ソーイングセットが入っていたし、「ここでささっとやったらかっこいいかも」という下心がなかったとは言わない。笑

スマートに、華麗に、手際よくボタンをつけてクールに渡す。我ながらきれいにできた。
その様子をじっと見ていた後輩男子学生たちが「おおお」という面持ちでいるのがわかり、「ふふん」と気分がいい。

ところが。
また数分後、その同期の彼が戻ってきた。

「おまえさー……」と爆笑している。

なんと、私はボタンをカフスの裏表反対につけていたのだった。
ボタンをとめようとしたらそこにはなく、裏側についていた、というわけだ。くそー。
シンデレラの魔法は一瞬にして解けた。

「やっぱり先輩はおもしろいっすね」
と声を殺して笑っている後輩を、「うるさい!腹筋20回」と蹴散らした。

そこで言われた通り腹筋をしている後輩も十分におもしろいのだった。



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