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誰がためにオタは推す? 山口真帆事件から考える


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警察によりますと、先月8日「NGT48」のメンバー、山口真帆さんの新潟市内にある自宅の玄関先ファンの男2人が押しかけ、帰宅した山口さんの顔をつかむなどしたとして暴行の疑いで逮捕されました。
2人はいずれも25歳の無職と男子大学生で、調べに対し「山口さんと話がしたかった。大ごとになるとは思わなかった」と供述する一方、暴行の容疑については否認していたということで、その後、不起訴になり釈放されています。
NHK-ファン2人がアイドル宅押しかけ
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今回はこの事件について、私の見解を書こうと思う。

1.不起訴について


この事件では山口さんの家に押し入った男2人は、逮捕された後、不起訴処分で釈放になった。
超絶ざっくり説明すると、通常、逮捕された場合は、被害者の起訴によって裁判にかけられ、裁判手続きによって刑が確定される。
つまり、不起訴による釈放は、被害者側の意思によって、加害者側の責任を問わないということになる。
この判断を行ったのが、山口さん本人なのか事務所なのかはどうでもいいが、今回のアイドルと運営側の行動は今後同じようなことがあったときに何度も参考にされることになる。
アイドルの自宅に押しかけることはセーフ。そんな印象が植え付けられてしまう可能性がある。

今回の対応よりも、きちんと起訴するとか、示談にするとかして男に責任を取らせるとか、他のオタが今後道を踏み外しかけた時に
運営はこうする準備がある。明日は我が身と、オタのモラルの向上につながったかもしれないし、何より、運営はアイドルをちゃんと守る覚悟があるんだというメッセージになったと思うし、そっちの方がカッコよくて僕はエモいと思う。

2.なぜ起きてしまったのか?


とは言っても、判断と処理はもう下されてしまった。この事件への対応の是非をとやかく書くことがこの文の本旨ではない。
なぜ、このような事件が起こるのか、その構造に迫ることで、これからのアイドルとオタクの関係、ひいては人前にでて応援されるものとするものの関係性について考え、議論し、今後につなげることを目的とする。
私が思うに、今回の今回の事件に限らず、熱狂的なファンがエスカレートしてストーカー化したり、プライベートの空間に押し入ったりするという現象は今に始まったことではない。
それを、アイドルと推すものという2つの構造をみることでひも解いていきたい

3.推しは「存在するもの」、オタクは「行動するもの」


「会いに行けるアイドル」


NGT48はじめ、今やアイドルの代名詞となったAKB48のコンセプトだ。
いままでアイドルは、テレビというお茶の間と分断された「向こう側の世界」の住人だった。そして、ライブやイベントといった特別な機会にしか接点を設けないことでブランド化した。
それまでのアイドルビジネスと違い、高頻度で定期的に開かれる劇場公演と握手会というシステムを導入することで、アイドルと会うことの敷居をさげ、会う中で関係性を高めていくことで継続的な集客につなげていくモデルを生み出した画期的なシステムを象徴する言葉、それが「会いに行けるアイドル」だ。

しかし、これらは運営側の方法論の革新である。
オタクやファンにとってはその目的やコミュニケーションの密度の変化はあるものの、
まず「会いに行く」というオタク側に要請される条件は本質的に変わっていない。

確かに、大阪や東京など大都市圏のファンにとって、AKBの「会いに行けば密なコミュニケーションがとれる」システムは画期的だった。
しかし、田舎のお金もない草食系男子高校生にとっては、そもそも「会いに行けない」あるいは、会いに行くためのハードルが極めて高いことに変わりはなかった。
(筆者がその代表例)

しかも、定期的な公演やイベントの頻度の向上は、それだけ「遠征」(遠方から推しのイベントに出向くこと)の頻度の向上を意味するし、移動費だけでもその負担はオタにとって少なくない。

その一方で、アイドルにとって拠点となる劇場の存在や公演の頻度の向上は、その分ファンに「見つかる」チャンスになるのでいいこと捉えるのが一般的だ。

私はここに関しても、少し違う意見を持つ。
それは単にアイドルのチャンス向上につながるだけでなく、「いかにして売れるか」というアイドル側の戦略の選択肢の多様化を意味するし、それだけアイドルには細かな戦略自己プロデュース能力が求められるようになる。

一時代前の大きなイベントでバシッと決めてくれるスターアイドル(注1)だけが成功の形なのではなく、たとえ現役時代にそこまで高い人気がなくても、卒業後のセカンドキャリアを充実させるアイドル(注2)
こまめなSNS更新によりコツコツとコアなファンを増やしていき気が付くと一大勢力となって写真集発売といった目標を達成する、雨だれが石をも穿つ系のアイドル(注3)という形もまた成功という風にとらえられるだろう。

また、アイドルの体調不良等の事情によって人前の出ることができないアクシデントが起こったとして、それでチャンスが潰れるかといえばそうでもなく、SNSを通じてアイドル本人がファンに事情を説明したり、ファンがアイドルに直接応援を送ったりできるようになったことで、アクシデントの後の対応のほうがむしろ、そのアイドルとファン、また運営の真価が問われる時代になりつつあると私は感じるし、そういう逆境のときにオタに支えられるファン、推しを信じて応援し続けるオタのほうがかっこいいと思うし、その関係性が構築できることこそがアイドルというジャンルのオタであると私は思う。

話を戻すと、秋元康が考案したAKB48の「会いに行ける」システムとSNSの相乗効果によってアイドル象とオタの在り方の2つは多様な在り方をすることが可能になり、
そのことが「ただ存在してくれるだけで尊い」アイドルと「常に行動を求められる」オタという性質を強化してしまった

アイドルとファンという限定された関係性のなかであれば、足繁く推しのもとに通うという行為は「熱心なオタ・ファン」としてよいものとされるが、
その線引きを誤ると今回のような「アイドルとオタク」が「被害者と加害者」として引き裂かれてしまう、両者にとって悲しい事態に陥ってしまう。

4.アイドルのメディア回帰としての乃木坂46


アイドルとオタという関係性を越えて個人同士で関わりをもってしまう、いわゆる「オタ繋がり」という現象がAKBの画期的なシステムの副産物として認識されるようになった後、
その状況を逆手にとってアイドル業界、ひいてはメディア業界を席巻したのは、、これまた秋元康プロデュースの乃木坂46だった。
彼女たちはAKBの初の公式ライバルとして、発足し、現在メディアの露出やオタ以外の社会認知度はライバルAKBを超えている。
彼女たちをここまでに仕立て上げた戦略というのは、これまでの身近さを売りにしたアイドルとは時代を逆行する、徹底したメディア回帰だった。
定期的な握手会はAKBを踏襲するものの、専用の劇場をもたず、SNSも運営の許可のもと限られた媒体でしか発信しないという徹底ぶりだ。
しかし、その戦略は当時の「オタ繋がり」に常におびえオタをやめていくオタたちのユートピアとして機能した。
さらに、これまでの男性中心から女性にもファンの層を広げたことも乃木坂の功績といえる。

そんな彼女たちの18枚目のシングル「逃げ水」には、筆者のカッコいいと思う理想のオタの心構えが歌われている。
最後にそちらを紹介したい。

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大事なものはいつだって あやふやな存在
手を伸ばしても 何も触れられない
でもそこにあるってこと 信じるまっすぐさが
生きてく力だよ
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ミラージュ 僕が見ているもの
それが真実でも幻でも構わない
今 確かに 僕の目に映るなら
逃げてしまっても 追いかけたい この恋
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追記(1/19
(注1)「大きなイベントでバシッと決めてくれるスターアイドル」
いわゆる「トップアイドル」というものを頭に思い浮かべた時、思い浮かぶのはこのタイプのアイドルだろう。
おニャン子クラブの国生さゆり、AKBの前田敦子、乃木坂の白石麻衣、欅坂の平手友梨奈などがこれにあたる。

(注2)「卒業後のセカンドキャリアを充実させるアイドル」
筆者は元SKEの松井玲奈や元AKBの川栄李奈など、女優やバラエティ業で卒業後も活躍する面々をイメージして書いたが
これらのメンバーもやはりグループ所属時代より一定の地位を築いてきた結果今の仕事につながっているともいえる。

(注3)「雨だれが石に穴を開ける系のアイドル
上記2つのタイプのアイドルに対して、世間の認知度はまだそこまで高くないのに、地道な活動でコアなファンの獲得に
成功した例がある。筆者が想起したのはAKB48の大西桃香である。彼女はチーム8の奈良県代表としてグループに参加。
2018年6月発表の第10回総選挙で、38位に初ランクインするまでずっとランクイン圏外のメンバーであった。
しかし、彼女はライブ配信アプリSHOWROOMで毎朝早朝に配信を行い、「朝5時半の女」としてネットで話題に。
圏外であった2017年の総選挙であったが、選抜総選挙期間に行われたShowroomイベントのポイントランキングでは、1位を獲得した。
2018年10月3日 1st写真集 「夢の叶えかた。」発売中。
エケペディアより一部引用)

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written by エモ中秀政(@hidemasaemonaka)

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