わたしは昔視線で客を殺すメイドだった
暇があればパチンカーたちをウォッチングしにいく、ってのがもう最近の日課になっている。
バアさんにジイさんに会社サボってるサラリーマンや若い子達がボタンを連打し目まぐるしく変わり続けるアニメ映像と脳髄に鉄槌を食らわしてくる衝撃波のような音楽に揺られて、もう何も考えないで、外のことなんかどうでもよくって、ジャラジャラ玉と戯れて、でも、
彼らは無意味だって自覚してる。
それでもパチンコをしてる。
無意味だから。
わたしもわりとあらゆることを無意味だって思う人間だから、なんとかしたいってわけじゃないけど、結果意味になりそーな、裸一貫で手軽に自分のエンタメ性の濃度ってのを上げられるかのようなバイトと親和性が高かった。風俗はなかったけど、高校の時は暇すぎてキャバクラの面接に行きまくるっていう奇行を繰り返してた。別に働きはしないし「あなた貧乳だから、ごめん」という衝撃的な文言で落とされたりしてたんだけど。あとはメイドカフェではちょっと働いてみた。時給よかったし。
なにをやろうが。
ねえ。
日々痛烈に感じる「無意味さ」ってなかなか拭えないよね??当たり前だけど、暇潰しなのに、何を期待してた?!?!
ってなグルグルした思いを、パチンカーたちもきっと共有してんじゃないかな?って妄想しながら椅子に座って、ボーっと彼らの百転び零起きを見てる。バアさんがボタンを連打する。
シュパパパパパパパァン!!!
「お帰りなさいませ~」
ご主人様ってつけろよ!と言われてたけどわたしは最後クビになるまでつけなかった。
そこのメイドカフェはテーブルひとつにつき1人のメイドがつく。軽くラリっていた面接で「特技なんかある」と言われて全力鳥居みゆきのヒットエンドランをしたわたしはアッサリみゆきちゃん、ということになり、客からもみゆきちゃん、と呼ばれるようになった。
最初にわたしがクビになった理由を思い返してみる……視線、萌え萌えじゃんけん、オムライス。
勝手にパチンコの喫煙所を人生のリラックススペースにして長居してることに対する店員の目が気になるところではあるけど、それはいい。毎日この時間に来て、毎日この時間にコーヒー買って一服する、もはや意識の朦朧としている80ぐらいのジイさんと世間話する時間を奪う権利は店員であろうとマサイ族であろうとない。
まず、わたしはすげー目付きが悪かった。
17のときは、もうこの世の全てにイラついていて、暇を潰す手段に飢えてて、どうしようもなくて、よくわからない焦燥にかられまくっていて、
「萌え萌えじゃんけんじゃんけんぽん!」
イカレてる。
こんなのは。
無意味だ。
なんだってこんなキモオタはわたしなんかとじゃんけんしてリアクションして、もうお前らこの店とわたしに騙されてるから!!!と泣きそうになって、いや逆に、こんなボロいことで金を貰ってるわたしへの回り回っての批判かなんかかな?
「みゆきちゃん、強い~。なんでえ~?」
客の唇はでろでろした涎で潤っている。このじゃんけんは、マジで、負けなきゃいけないやつなのだが、また勝ってしまった。クソッ!何を勘違いしているのか、いや、人生の全てを間違えてるな、客は上目遣いで、アヒル口にして、わたしを見上げている。
「あの……ハンターハンターって漫画知ってますか」
……。
沈黙が訪れた。
「わたし、あれ、好きで。主人公のゴンってやつが、凄いじゃんけん強くて。まああの、絶妙に後だしするってやつなんですけど。それ真似したくて。YouTubeとかでじゃんけんの動画見ながら練習してて」
「は~い!ご主人様ぁ~。今日は萌え萌えキュンキュンオムライスがおすすめですぅ~。」
超絶可愛い先輩がテーブルに割り込んできた。そんで、わたしを睨み付け、耳元で「オムライス持ってこい。んで、好きって書く」とドスのきいた声で言った。
そして、わたしは頑張った。
オムライスの表面に「好き」と書くのを。
そんで、上ずった声で、
「お待たせしました!萌え萌えキュンキュンオムライスです!」
とテーブルに置いた。
空気が凍った。
字が汚すぎて文字が読めなかった。
「……あ、ありがとー」
と客は答えて、食べ始めた。先輩も凍っていた。わたしは自分の無能さにうちひしがれていた。
客は半分ぐらい食べ終わったあと、「みゆきちゃんってさ、」と笑いながら、
「人を殺しそうな視線するよね」
ま、ぼくはそれがよくて来てたりするんだけど。
その日の上がりに、オーナーに「そういうことがしたいんなら、SMとか、行ったほうがいいよ」と誤解されて、「そういうメイドもいていいとは思うけど、うちとは方向性がさ、あの、ちょっと違うから。ね」
と言われてクビになって帰って寝た。
シュパパパパパパパァン!
挫折で転び倒れた人たちの最後の楽園で一服。
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