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強風にさらされた風前の灯火

5月から6月にかけて、薔薇が最も美しく輝く季節です。

と、妻は言っています。

夕食を終えてくつろいでいると、俄かに風が強くなってきました。
低気圧の通過で、地域によっては大雨になる予想が出ています。
あまりの強風で、外をいろんな物が飛んで行く音が聞こえます。

「なんだか世の中は大変みたいだなあ」
私が言うと、妻がはっと顔を上げました。

「バラが大変かも」
バラの鉢植えは、木が高く大きく育ちます。
だから、強風で倒れてしまうことがあるのです。

懐中電灯をもって飛び出す妻の後ろ姿をぼんやり見ていた私も、なんだか心配になってきました。
倒れたバラを助けようとした妻も、一緒に風に飛ばされてしまうかもしれない。
バラは仕方ないけれど、妻がいなくなるのは少しだけ困ります。
私も服を着替えて長靴を履いて、遅ればせながら、よたよたと外に出ました。

妻は黄色い合羽を着て、懸命に鉢植えを避難させています。
バラの花は強風にあおられて、いまにもちぎれそうです。
すでにいくつかの鉢は無残に倒れて、中の泥が飛び散っていました。
重心の高い倒れそうな薔薇は、よいこらしょと抱えて、ガレージに収納します。

そしてさらに、近所にある職場のクリーニング店にも向かいます。
そこに並べてあるバラも救出しなくてはならないのです。
お店の鉢植えは大量にあります。
これは大変なことになったぞと思いましたが、こちらは建物の風裏になっていたため大事には至りませんでした。

そして、あくる日。
台風一過のような晴天となりました。
恐る恐る外に出てみると、バラは何もなかったかのように、つんとすまして綺麗な花を輝かせていました。

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大きな被害もなくめでたしめでたしでした。


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