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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延期に入ったことで世界から注目される日本の動向

暗いニュースばかり続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですが、日本がどのように対応していくのか、世界が注目しています。
目に見えない恐怖の中、誰かがマスクなしで咳をすると恐怖が見えるようになり、混乱を起こすという報道もなされています。かかってしまった方やその周囲の人は命に関わるのか不安になり、現場で日々対応に追われる医療従事者もまた、自分のリスクが不安になります。そうした毎日を送るのは非常にストレスもたまることです。
アメリカはまだ蔓延していませんが、対岸の火事とも言えない状況です。「現代の流行性疾患は旅行する」と言われるように、いつどういった形で蔓延するのかわからないからです。

水際対策から感染蔓延期に入って試される日本の医療・公衆衛生システム

医師・医療従事者を対象にした二次情報サービス・ケアネット(CareNet)に

「COVID-19、世界は収束の方向だが日本の状況を不安視」WHO進藤氏

という記事が、2月18日に掲載されました。

アメリカで猛威を振るっているインフルエンザに隠れて、実はすでに
新型コロナウイルス感染症が蔓延しているのでは?

などなどいろいろな憶測が流れていますし、まだまだ真の全貌は見えにくいのですが、中国国内での新規感染者数はピークに達したと考えられるデータもあり、WHOによると、世界的にはコントロールされ始めているとする意見もあるようです。

一方で、中国では「症例の定義」が変わって、PCR法で確定していない例もカウントするようになったため、報告される症例数が増えました。

このように、数え方、見方によって印象が随分と変わるため、実態がさらにつかみにくくなっているとも思われます。

そんな中、新規患者数が増えている日本がどのように対応していくのか、その動向に注目が集まっています。

というのも、日本はいわゆる感染症が始まる初期の水際対策期から、感染蔓延期に入ったといえるからです。

日本感染症学会と日本環境感染学会の出した提言が実際の現状に即してマトを得ていると思います。すでにいくつかの学会や学術機関を中心にデータベース化が始まっており、治療状況もシェアされています。

この段階になると、誰が感染しているのかを正確に把握するよりも、誰が重症になるリスクが高いのかを見積もって、重症者を救命することが重要になります。その点で、先日中国が行った、未確定例も報告し、全貌を把握しようとする努力は重要といえるでしょう。

これは、まだ蔓延期に入っていないと思われる国(例えばアメリカ)の対策とは違います。だからこそ、中国や日本の対応が、世界がどのように対応するべきかの指標になるとも考えられます。

特に、日本は世界一とも言われる医療機関へのアクセスの良さがあります。
日本に住んでいると考えられませんが、他の国は医療機関にかかったり、検査するのはそんなに簡単ではありません。アメリカでいうと、開業医にかかるのは予約が必要ですし(当日予約が取れることはありますが、取れないことも多い)、ちょっとでも重症の可能性があると、基本的に病院の救急外来を受診するように指示されます。これは、病院の外来でも一緒で、急性疾患にかかっている可能性がある場合は、病院の救急外来へ回されます。そして医療保険のない人はなかなか受診せず、かなり重症になった状態で搬送されたりします。

つまり、日本は誰でもどこかの医療機関に受診しやすい環境なので、重症患者を見つけて対処するまでの時間が短く、適切な対処ができる可能性があると考えられます。

そういう意味で、日本がどのようにこの難局に対応していくのかが非常に注目されているといえるでしょう。

ここで、今回の記事ではGlobal Health Security Indexという指標から見えてくる日本の現在の立ち位置とその課題について考えてみたいと思います。

Global Health Security(GHS) Indexとは

これはアメリカとイギリスの機関によって提唱されている、公衆衛生的な危機が訪れた際に対応する各国の危機管理能力を測るスカウターのようなものです。
GHSインデックスを開発した3つの機関は:
   NTI(Nuclear Threat Initiative)
   Johns Hopkins Center of Health Security
   The Economist Intelligence Unit

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という、危機管理、公衆衛生、そして経済動向に特化した専門機関によるチームです。

そしてそこに資金提供しているのは、Bill & Melinda Gates Foundationという、かの有名なMicrosoft Windowsの創始者であるビルゲイツ財団、そして知る人ぞ知るRobertson Foundationという、ロバートソン一族が運営する慈善事業団体です。

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GHSは、世界195カ国各国の流行疾患・パンデミックに対する危機管理能力・予防能力を6つのカテゴリーに分類しています。そして、各カテゴリーを評価するために、140の質問から34の指標、85の副次指標を弾き出し、スコア・ランキングをつけています。委員会は13カ国から選出された21人の専門家・エキスパートからなります。

GHSの6つのカテゴリー

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GHSが重視する6つの主要項目です:
1. Prevention 予防
2. Detection and Reporting 早期検出と公衆・国際的に報告
3. Rapid Response 早期対応と感染の拡がりへの対応
4. Health System 治療と医療従事者を保護する医療システム
5. Compliance with International Norms 自国のキャパを把握し世界基準を目指す
6. Risk Environment 国自体の感染症に対するリスク・脆弱性

これらを点数化して、ランキングを作成しています。


日本の立ち位置(2018年)

日本のスコアとランクです。6つのカテゴリーのランクは一番下段のOverall Rankの数字です。6つをざっくり平均すると30位くらいでしょうか?

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実際の国ごとのランキングになります。

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日本は全体では21位でした。

おいおい、ランキングを作っているアメリカ・イギリスが最高位!?
これはルールを作った者が勝つ社会の常識?

というのは置いておいて、、、

学術的に感染管理で有名なオランダ、オーストラリア、カナダが上位に入っているので、そこそこ信用できるデータの切り口なのかなと思います。

日本は悪くないけど良くもない、という立ち位置。
東アジアで2位、アジア全体で4位。タイ、韓国、マレーシアが日本よりも評価されています。

日本の特徴として、
Health System 治療と医療従事者を保護する医療システム
Compliance with International Norms 自国のキャパを把握し世界基準を目指す
が上位ですので、やはり医療機関のアクセスの良さ、医療資源が割とまんべんなく行き渡っていると評価されているのでしょうか。


まとめ・ GHSの目指すもの・GHSから学ぶこと

これをみて、『日本の対策がなっていない』とか、『アメリカやイギリスが上位に来るような見方で指標を作っているだけだ』とか、そういった単なる批評は意味がないでしょう。

なぜこの指標を取り上げたのか?というと、実はこのGHSのデータ収集は、各国が公表しているオープンソースの情報のみで評価しているからです。
オープンソース、ということですから、誰でもアクセスできる情報です。

つまり、見方を変えると、『国がどれだけ素直に国民と海外に情報を提供していて、どれだけ自国のキャパシティを把握できているのか』というのを表しているとも言えます。

どれだけ素晴らしいシステムを持っていても、それが周知されていて、使えなければ意味がありません。もちろん、公衆衛生的な防御能力というのは、ともすると国防にも関わる部分ですので、全ての情報を提供することが安全とは言えないでしょう。

しかし、国民がどのくらいその国を信用していいのか?という一つの目安にはなると思います。
そして、日本が他の国に追いついていない分野があれば、この機会に見直して強化するきっかけになると思います。

水際対策のみで収束する国もあるかもしれませんし、ゆっくり蔓延する国、あっという間に蔓延する国、いろいろあると思いますが、個人的に、COVID-19がすぐにコントロールされることはなく、世界中の国に蔓延するリスクがあると思います。
蔓延期は患者さんが増えていきますので、その中で軽症で済む人、重症になる人をしっかりと判別する基準を見つけ出すこと、そして重症患者さんにきちんとした治療を施すことが重要となります。

きっとアメリカで蔓延したら、医療機関へのアクセスがよくない地域や医療保険のない方を中心に重症患者が増えてしまうのでは、と懸念しています。実際にハワイにきた日本人が発症した、とのことですので、日本からの持ち込みなのか、ハワイの他の旅行者経由なのか、それともすでにハワイにも患者さんがいるのか、その辺りは潜伏期間が地味に長いので、何とも言えないところですし、検査すれば見つかる可能性が高い気がします。

日本は医療システムは非常に優れている(欠点はもちろんありますが)ので、それを現場と国がどのように有効利用して、感染症クライシスを乗り切るのか、そしてそれが世界中の人を救うきっかけになるのかもしれない、そういった期待と注目が集まっていると思います。

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