早速裁判

ネットサーヒィンをしていたら突然画面が切り替わり、「会員登録完了!」と表示されていた。

併せて、「登録料30万円を12時間以内に下記の口座に振り込んでください。振り込みが確認できない場合は、法的措置を取らせていただくことがあります。」と書いてあった。

今時、こんな詐欺に騙される人はいない。

無視すればおしまいだよ。

ワシはバツボタンを連打してウインドウを閉じた。

連打してたら本来閲覧していたウインドウまで消してしまってイラついた。

イラつきながらもう一度、検索フォームにワードを打ち込もうとしたら肘がコップに当たってアイスコーヒーが溢れた。

ワシは呆れて、3秒固まってから大きなため息をつき、雑巾を取りに行こうと椅子から立ち上がった。

そのとき、床にビニール袋が落ちていたようで、それを踏んづけて足を滑らせ、転んじゃった。

不意に転んでしまったため十分に受け身が取れず激痛に悶えた。

痛みと怒りでつい叫んでしまった。

「オオオオオオオオオン!」

すると、なんつーかニャンチュウかてめえは!?と下の階の住人が怒鳴り込んできた。

ワシは誠心誠意、即座に謝った。

「いや、大声出してしまって申し訳ございません。以後気をつけ奉ります」

「素直に謝ってくれたのはいいけども。こちとら一度怒ってしまった手前、もう収まりがつかないよ…」

「え、と言いますと…?」

「訴訟させてもらいます」

「え、訴訟なんて!本当に申し訳ないと思っていますし、今後ちゃんと気をつけますから!」

「いや、気持ちはわかるし、こっちだってしたくないんですけど…はあ、こっちだってそりゃさぁ…」

隣人はなぜか涙ぐんでいるようだった。

ワシは尋ねた。

「あの、何かどうしても訴訟に発展させないといけない理由でもあるんですか…?」

「なに!?話をちゃんと聞いてなかったのか!?」

「え?」

「一度怒っちゃった手前、訴訟に発展させるしかなくなっちゃったって言ってんだろう!あーまた怒っちゃった、さすがに発展させるしかないよもうこりゃこりゃ…」

なんじゃそりゃあ…とワシは心の中で思ったが、ワシはしっかりした大人なので「なんじゃそりゃあ…」とつぶやく程度にしといた。


翌朝、早速裁判所から電話がかかってきた。

もしもし、と出ると、

「どうも早速裁判所です。隣人騒音事件に係る民事裁判をこれから執り行いますので裁判所に来てくださいね」

「わっ…かりました。あ、弁護士は?弁護士がいないと無理ですよ!」

「はい!そう来ると思って最強弁護士の西京さんをあてがっておりますゆえ!」

よかった〜。とワシは安堵した。

最強弁護士が味方なら大丈夫だ。

ワシは気分が良くなったので、おめかしして裁判所に登場した。

早速裁判が始まった。

「えー、静粛に。早速ではありますが裁判します。」

裁判長の重厚な声色に、ゴクリ、と唾を飲み込んだ。

何しろ裁判なんて人生初だ。

裁判長が続ける。

「えー、まずは弁護士の紹介です。被告側の弁護士さんは、最強弁護士の西京さん!」

傍聴席からオオーと声が上がる。

やはり強さで有名のようだな、とワシは自信を深めた。

「次に原告側の弁護士さんは、無敵弁護士の田中さん!」

こちらも、オオーと観客席が沸いた。

まさか、相手は無敵だなんて。

ワシはとても心配になってきた。

最強と無敵、どっちが勝つことになるんだ…?

「はい、それではですね、最強と無敵ということでですね、なかなか難しいとは思うんだけども、“最強“と“無敵“はどっちが強いのか、皆さんなりに言い争ってください」

ついに論戦タイムが始まったようだ。

まずは最強さんが切り出した。

「私は最強弁護士である。最強は、読んで字の如く、最も強いのだ!だから一番強いに決まってる!」

田中さんが切り返す。

「あの〜、それを言うならこっちこそ敵無しなのだが。無敵弁護士なのだが。誰も寄せ付けないのだが…(笑)」

両者一歩も引かぬ攻防だ。

激論が5分程度続いたところで、裁判長が叫んだ。

「っはぁーーーーーーーーーーーい!!」

みんなの視線が裁判長に集まる。

「判決を下したい所存。判決は…無敵弁護士の田中さんの勝ちぃ!原告は慰謝料30万円獲得ぅ!これにて閉廷」

ワシは負けてしまった。

がっくりと肩を落としてATMに向かい、金をおろして30万円を隣人さんに渡した。

疲れ切ったワシは家に帰り、布団に横になった。

最悪な気分だ、もう何もかも忘れて一生眠っていたい。

そう思って目を閉じた。


トゥルティントンティン…トゥルティントンティン…

ワシは電話の着信音で目覚めた。

「度々どうも!早速裁判所ですけれども。有料会員登録をしたのに料金払ってないちゅうことで訴えられてるので、早速裁判所に来てください」

なんと悪徳サイトは実際に法的手続きに踏み切ったらしい。

とはいえそもそもが違法な請求なんだから裁判したってこっちが勝つのは自明の理。

絶対ぶっ飛ばしてやらあ!

ワシは意気込んで裁判所に向かった。

裁判所に入るなり裁判が始まった。

「えー、それでは早速裁判を始めます!」

ワシは、ゴクリ、と唾を飲み込む。

「まずは弁護士の発表から!被告側の弁護士は、最強弁護士の西京さんだ!」

オオオオオオオ、と観客がどよめく。

よしよし今度こそ勝つに違いない、ワシは安心してきた。

「次に原告側の弁護士は…無敵弁護士の田中さんだ!!」

オオオオオオオ、とまた観客がどよめく。

どよめかれると、ちと不安になるのだが、いくらなんでも法的に相手がおかしいんだから負けるはずなし。

ワシは誇らしげに腕を組んで胸を張って、相手を見下ろすような構えだ。

裁判長が叫ぶ。

「それでは…っ始めぇええい!」

さあさあ痛めつけてやるよ。

と思った矢先、裁判長からの驚きの言葉が続いた。

「と、言いたいところなんですが、ついこの前、このマッチアップやったよね?あの、西京さんと田中さんの。ほいで、田中さんの方が強いということになったよね?だから、今回も田中さんの勝ちだね。これにて早速閉廷!」

観客が、なるほど〜とざわめいている。

ワシはそんな馬鹿な話があるかと思った。

「あ、言い忘れてた!原告側は慰謝料15,638,057円獲得ぅー!」

ワシはがっくりと肩を落とし金をおろしに行った。

きっちり15,638,057円を払うと、残高はぴったり0円になった。

最悪な気分で帰ろうとすると、悪徳サイト業者が肩を叩いてきた。

「あの、まだ登録料の30万円をいただいてませんのでくださいませ」

「もうワシの金は尽きた!払いたくても払えねえよ」

「…払ってもらえないなら法的措置を取ります」

「くそめが!」

「当社のルールでして…。すみません」

「くそめが…」

ワシはまた同じ判決を下されて、15,638,057円を追加で払わされるのはごめんなので、仕方なく消費者金融で金を借りた。

この30万円の借金に利子もついて膨れていく中、一文なしのこの状況から、一体いつ完済できるというのか。

その間にまたも裁判沙汰になり負けないとも限らない。

この法律に厳しく支配された社会で、どうしたらこれからの人生を安心して生きられるだろうか、ワシは少し悩んだが、答えはすぐに出た。

ワシは、「スーパーウルトラ無敵最強レジェンド天才唯一無二天井天下唯我独尊何でも一番負け知らず絶対にだ弁護士」を目指すことにした。

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ワシのことを超一流であり続けさせてくださる読者の皆様に、いつも心からありがとうと言いたいです。