一発ゾンビ
大学を卒業し、晴れてアンブレラ社の製薬部門に就職したワシ。
初日の入社式を終え、その夜は同期と懇親会。
世界の人々を救える薬を作りたいと思ってこの会社を選んだほど、ワシは献身的だ。
だから、懇親会でもみんなを楽しませられるように、ギャグを考えてきた。
本当はそんなタイプじゃないが、みんなのためさ。
夜7時、懇親会が始まった。
乾杯!と同時に、同期たちがガヤガヤと賑わい出す。
それと同時に、そろそろギャグタイムかなと思ってしっかりと声を張った。
「はい皆さん!宴もたけなわでございますが!ここでワシのギャグで締めたいと思います!」
会場からは、「え、なになに」とか「いきなり締め?」とかヘイターが湧き出した。
みんなのために一肌脱いでいるのに、ヘイターが湧くもんだから、人間ってむずかしいな。
でも、ワシはギャグで皆を一つにしたいと思っているので、逆風なんてなんのその。
「さあ皆さん行きますよ!一発ギャグ、ゾンビ化したフレディ・マーキュリー!『マ"...マ"マ"!ゥゥウ"〜〜〜!』」
ワシは白目を向いて、口に含んだワインをこぼしながら渾身のギャグを披露した。
会は流れ解散となった。
会社では、新規採用者の研修が始まった。
同期がいくつかの班に分けられ、グループワークなんかをしながら研修が行われる。
ワシは三班になった。
「やあみんな、よろしくな!」
と挨拶したが、うちの班はみんな元気がない。
懇親会でのワシのギャグに関連した、そういうボケだろうと思い、
「なんだあ、暗いよお。ウォーキングデッドかっ!」
と言って、一人の頭をはたきながらツッコミをした。
「…ってぇな。くそ…」
と言われ、
「いやゾンビに痛みはないやろがーい!」
と言って、再度頭をはたき追いツッコミをすると、
「おいなんなんだてめえ!」
と言われ、研修会場が少しざわめいた。
ワシが、
「どした、どした?落ち着いて、深呼吸深呼吸。」
と言って背中をさすってあげると、
ぶんっ、と腕を振って、乱暴に振り払ってきた。
その腕がたまたま机の上にあったペンケースに当たり、ペンケースが飛んでいって講師にぶつかった。
ワシは呆れて言った。
「よかったよ、この会社に入って。バカにつける薬を開発したいもんだ。」
「うるせえな、このバケモン野郎が!」
騒ぎになり、研修は延期となった。
延期された研修も終わり、本格的に仕事が始まる。
ワシは生物実験係に配属された。
配属先のどの先輩職員さんも優秀な方々だった。
「先輩たち、バケモンみたいに優秀ですね。仕事量もすごいし、まるで不死身すか?」
そう言うと、先輩たちは苦笑いを浮かべていた。
「あ、すんません、バケモンみたいだなんて言っちゃって。褒め言葉ですので」
相変わらず先輩たちは苦笑いだった。
一人の先輩に呼ばれた。
「新人君、ちょっと新しい仕事を任せたいんだ」
「はい、喜んで!」
「地下の生物実験施設での仕事なんだけどいいかな?」
「喜んで、はい!」
ワシは地下に連れて行かれた。
「じゃあ我々はここから指示を出すから、新人君はそのドアから中に入ってくれるかな?」
「承知しました!」
そう言って中に入ると、ドアが自動で締まり、ガチャっとロックがかかった。
ハイテクやな〜、と感心していると、向こうから人が歩いてきた。
「あ、どうも、新人の者です!」
と挨拶すると、
「あ〜〜〜」
と言いながら近づいてくる。
研修で学んだばかりの名刺の渡し方を試すチャンス!と思って名刺を差し出し、渡そうとした。
すると、その人は突然ワシに噛み付いてきた。
「いででで!」
と言ってワシはそいつを振り払った。
「お前マナー研修受けてないんか!?名刺交換もできねえのか!?」
そう言って怒鳴っていると、怒りのせいか、異様に体が熱くなってきた。
しばらくして、ガラス窓にうつった自分の姿を見ると、なんだかゾンビみたいではないか。
せっかくなので、とりあえず一発ギャグを練習してみた。
「マ"...ママ"〜〜〜!ゥゥウ"〜〜〜!」
なんだかギャグのクオリティが格段に上がったようだ。
ワシは今度の懇親会がすごく楽しみになってきた。
#小説 #エッセイ #バイオハザード #ゾンビ #QUEEN #フレディマーキュリー #ママ #新入社員 #同期最高
ワシのことを超一流であり続けさせてくださる読者の皆様に、いつも心からありがとうと言いたいです。