見出し画像

Skyward 8話


「こんなところで立ち話もなんだからさ、あんたたちの部屋、入れてくれない?」
レオンに言われ、アーツとリクオは顔を見合わせる。「こんなところで話してたら、誰が聞いてるかわからないぜ!ここって他のフロアへの通り道も近いから誰に…、あっ!」
通路の奥から人が歩いてくる姿を見て驚き、アーツの後ろに身を隠しながらそう話すレオンに、リクオは怪訝な顔をする。
遠くから来るのが男女の老夫婦らしき姿だとわかると、レオンはホッとした表情で2人に向き直った。「ほら、な?人が多いから…」
「おまえ、レオン・シルバーバーク本人なんだろうな?誰かから逃げ回ってるとかじゃないのか?」
リクオが目を細める。レオンは首と手を大きく横に振った。
「まさかぁ!オレは正真正銘レオン・シルバーバークだって!ほらっ、IDと写真もオレだからちゃんと見てよ!」
そう言ってレオンは、小さなカバンからカードを出して見せてくる。この船に乗っている人は全員持っている、乗船券と一緒に必要な本人確認の証明カードだ。
「確かに、顔と名前は彼だね」
アーツがレオンとカードを交互に見て頷いている。
「な?とりあえず、部屋に入れてくれよ。中で説明はちゃんとするからさ!」

2人は自分たちの泊まる部屋にレオンを入れ、椅子に座らせると、レオンと向き合う形でアーツとリクオはそれぞれベッドに腰を下ろした。
「さっき言ってたIIB本局の事故が別の理由って、何の話だ?」
リクオが尋ねる。レオンはニヤッと笑った。
「気になってる?」
「変なことを触れ回ってると、危険人物として目を付けられるぞ」
「友達が言ってたんだよ、怪しいってさ」
「友達?」
リクオは呆れた顔をする。「やれやれ。楽しそうで何よりだな」
「あ、馬鹿にしてるだろ?オレの友達は信頼できるんだぞ!」
「わかったよ。じゃあ次は、荷物検査だ」
リクオが言うと、レオンは目を丸くする。
「おいおい、なんでそこまで疑り深いんだよ。今ID確認しただろ?」
「カディフポートで色々あったから、慎重になってるんだよ、オレたち」
苦笑しながら話すアーツを見て、レオンは肩をすくめた。
「やれやれ…。リクオの方にはすぐには信用されないかも、とは言われてたけど、孫の方もか」
「…ん?」
アーツはレオンを見ながら一瞬、動きが止まる。「孫…?」
「どういう意味だ?」
リクオはますます表情が険しくなった。
レオンは椅子に寄りかかっていた身体を起こして、ニヤリと笑う。
「あんたロイジャーだろ?アーツ・ロイジャー。んで、そっちがリクオ・ワディス」
レオンはアーツとリクオをそれぞれ指さしながら、フルネームを言い当てた。
「なんで知ってるんだ?」
アーツもさすがに怪訝な表情だ。
「それは、オレがネヴィル・ロイジャーと友達だからだよ」
えっ?とアーツは声にならない声を上げる。
「じ、祖父ちゃんと?」
「友達?」
アーツとリクオが同時に言った。
「そう、だからこの船にアーツが乗ることもネヴィルから聞いてたんだ」
「え?ど、どういうこと?なんで?」
「説明になってないぞ。ちゃんと順を追え」
「あれ?わかりにくい?うーん、どう言ったらいいかな」
レオンは腕を組んで悩み始めた。
「そもそも、ネヴィルとどういう接点があるんだ?」
リクオが問うと、レオンは「ああ!」と表情を明るくする。
「なるほど、そこから話せば良いのか。すっとばし過ぎたね」
「ネヴィルと知り合いだという証拠はあるのか?」
「は?証拠ぉ~?」
レオは苦笑した。「ま、仕方ないか。いいよ、証拠見せますよ~」
レオンはカバンをゴソゴソと探り出した。「リクオはIIBだから疑り深いかもって、ネヴィルの言ったとおりだな。持ってきて良かったぜ。けど、オレから見ればネヴィルだって似たようなもんだけどね」
独り言なのかこちらに話しかけているのか、わからない音量でレオンはブツブツ言っている。
「ねぇ祖父ちゃんと友達って、どこで知り合ったの?」
アーツが尋ねた。レオンはカバンをまさぐる手はそのままに、顔を上げて口を開く。
「オレの母さんも刑事なんだよ。ネヴィルと母さんは同じチームだったんだ」
「レオンのお母さんとじいちゃんが?そうか、だから祖父ちゃんを知ってたのか。科学者と刑事の息子なんて、なんかすごいな、レオン」
アーツが感心したように言った。
「別にすごくなんかないさ。科学者って言っても、父さんは何やってるのかよくわからないし…」
レオンは急に真剣な表情となってため息をついたが、頭を振るとまた明るい表情に戻る。「ネヴィルが刑事を辞めたあと、オレの家庭教師だったんだけどさ」
レオンの話に、アーツは「えっ、家庭教師?じいちゃんが?」と驚きながら頷いている。
「って言っても、学校の勉強じゃなくて、教育係みたいな…。本には載ってない世界の勉強を、色々教えてくれたわけよ。机にかじりついてばかりじゃダメだ、外に出て空を見上げろ、旅に出て自分の足で歩けってさ」
「へぇ~!祖父ちゃん、いい事言うなぁ」
アーツは微笑んだ。
「けど、親父とは合わなかったみたい。いつの間にかネヴィルは辞めさせられてた。ま、今は母さんたち離婚したから、ネヴィルとも逢えるようになったんだけどさ」
レオンは話ながら、ずっとカバンを探っている。「おかしいな…。どこに入れたかな」
「さっきから、何を探してるんだよ」
リクオが問う。
「写真。ネヴィルと一緒に撮ったやつ。これ見せれば信用するだろうってネヴィルが言うから持ってきたんだけど…」
自分のカバンひっくり返したり、何度も中を覗き込んだりしている。
「持ってきたはずなんだぜ。おかしいなあ」
「どっかに落としたんじゃないか?」
「だとしたらマズいな。ネヴィルとの写真、父さんに見られたら怒られそうだし」
何度カバンに手を突っ込んでも、それらしいものは見つからない。
「それがないと、2人はオレのこと信用してくれないんだよな?」
「祖父ちゃんに電話して確認してもいいんだけど…、でも写真を船内に落としてるかもしれないなら、そのままには出来ないよな。自分の部屋に置いてきてたりは?」
アーツも一緒に、レオンのカバンの中を覗いている。
「カバンに入れたのは確かだよ」
「誰が拾うかもわからないし、探した方が良いな」
リクオが言った。「ここへ来る前、どこへ寄った?」
「どこって、あんたらを探して船内を歩いてただけだよ」
レオは頭を抱えて記憶を探っている。「船に乗るときにあんたらを見失ったから、船のスタッフにあんたたちのこと聞いたけど教えてくれなくて。この船のひと部屋ひと部屋探すしかないか~って思って、甲板で一休みしてたらいつの間にか寝てて、それで起きて……」
「ちょっと待った!」
アーツとリクオは同時に声を上げた。「甲板で寝てた?」



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?