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Skyward 10話


リクオとアーツは床に土下座するレオン、そしてライリーとマックスと呼ばれた男たちを見下ろしていた。
バタバタと追いかけっこをしていたので、船内の警備員に何事かと驚かれたが、リクオが適当にごまかし、事なきを得た。
リクオとアーツが泊まっている部屋に押し込まれ、レオンら3人は土下座をしながら平謝りしている。
「じゃあお前は身内の面倒ごとに、オレたちを巻き込んだってことか?」
「い、いや!結果的にそうなっちまったけど、わざとじゃない!決してっ!!」
レオンは首と手を同時に左右に振った。「こいつらが勝手にしたことであって、オレは知らなかったんだ!」
「そ、そうでございます!」
ライリーと呼ばれた顎ヒゲを生やした男が、レオンをかばうように割って入った。「全ては我々の…、ほとんど我々が独断でやったこと!すべての責任はこの私にッ!」
「そうそう!全部ライリーのせいってことで」
レオンの言葉に、リクオはため息をつく。「いや、だってさあ、人騒がせなのはこいつらだろ~?」
レオンがライリーとマックス、2人を指さす。
「坊っちゃんが勝手に行動し過ぎなんですよ」
比較的若めに見える男、マックスが溜め息をつく。「オレたちの身にもなってください。何かあったら責任を取るのは先輩のライリーさんなんですよ?」
「おい!いやいや、おまえもだよマックス!」
ライリーが突っ込みを入れる。マックスは目を見開いた。
「えっ!オレも?うそでしょライリーさん。何かあれば全部あなたが責任取るって…!」
「言ってないだろ!」
「言いましたよ!」
言い争うライリーとマックスを横目に、リクオはまた溜め息をつきながらライリーとマックスに乗車券とIDカードを出させ、確認する。
「警護って…、そんなに重要人物なのか?レオンは」
「ルース博士からしたら、大事なご子息ですからね」
「ルース博士?」
「脳科学者のワイスバーン・ルース博士ですよ。人間の脳に隠されている力を、ほんの数%でも引き…」
「あんまり言うなよ、大抵の人間はうさん臭がるんだからさ」
レオンはライリーの発言を止めた。「ま、映画みたいな、ウソのような、そんな研究だよ」
「オレたちには難しくてよくわからないんですが、普段は研究所の警備をすることもありますが、坊っちゃんの警護が多いですかね。今回の船上パーティーでも坊っちゃんを任されたので」
マックスが説明した。
アーツはなんだかすごそうな研究に、目をパチクリしながら聞いていた。
「船上パーティー?」
リクオが口を開くと、レオンは頷く。
「ああ、父さんの知り合いとか、仕事の関係者とか。その辺の人達を呼んで、交流してるんだよ。オレは父さんに一緒に来るよう言われてたけど、面倒だしホントは来るつもりなかったんだ。でも、ネヴィルが話す『孫』ってのに会ってみたくなってさ。それがちょうど同じ船ってんだから、すごい偶然だよな」
「じゃあつまり、レオンは本当にレオン・グラバースキーって名前で、科学者のお父さんと一緒にこの船に乗ってるってことで、間違いないんですね?」
アーツが言った。「でもレオンの警護のあなたたちが、人の写真を盗むなんて……」
「ぬ、盗んだわけではございませんよ、ロイジャー殿!」
ライリーは慌てている。「ちょっと、お灸をすえてやろうかと…。なんてったってレオン坊っちゃんは、もう、ほんと~~~に、い~~~っつも私たちの目を盗んで、どこかへ行ってしまうものですから。あっちの街へフラフラ、こっちの村にフラフラ。何度言っても坊っちゃんには解って頂けないので、お知り合いの方に相談しましたところ、見失ったフリをしてこっそり乗船し、写真を失くしたと思わせれば、少しは反省するんじゃなかろうかと…」
「知り合い?」
レオンはいぶかしげな顔をした。「そんなこと言ってきたのは、どこの誰だよ」
しかしマックスがフフンと笑う。
「それは、秘密です」
レオンはマックスの腕を取った。
「言えよ」
「い、痛いですよ坊っちゃん!ネヴィルさんですよー!」
「ちぇっ!だろうと想ったぜ」
「ネヴィルって、祖父ちゃん?」
アーツが驚いて聞き返す。
「え?お祖父さん?」
ライリーとマックスも聞き返す。「じゃあお孫さんてのは…」
「ネヴィルのやつ、旅に出ろって言ったくせに。ったく、どっちの味方なんだか」
レオンはふてくされた。

「外の世界を知ることは大事ですが、やり方が困るのですよ、坊っちゃんは」
ライリーとマックスは、「何はともあれ丸く収まってよかった、よかった」とお互いに握手をしている。
リクオが肩をすくめたので、アーツは苦笑した。
「ねえ、リクオさん。どうしてライリーさんたちが盗んだってわかったの?」
アーツはリクオに尋ねた。
「ん?ああ。レオンのやつが、荷物をわざとどっかに置いておけば、また犯人が戻って来るんじゃないかって、ホールの椅子の上に何も入っていない荷物を置いて、離れたところから見てたんだと。そううまく引っかかるか半信半疑だったが、ライリーはレオンのカバンの所に戻ってきたらしい。『オレの写真!』ってレオンの声が聞こえたんで、駆けつけたんだ。ライリーは写真をレオンに返すため、荷物に入れていたみたいだが、オレと目が合った途端に逃げ出したんで、反射的に追いかけてたってわけだ」
「いや~、リクオさんのお顔見たら、本能的に逃げなければと…。なんだか怖かったんですよね~」
「ま、これでオレがアーツたちを騙したわけじゃないってことも証明できたし、万事丸く収まったな!」
レオンはライリーとマックスの肩に腕を回して、あっはっはっと笑った。警護の2人も、「よかった、よかった」と笑っている。
アーツとリクオは、呆れた表情で3人を見ていた。

その後、自身の客室に強制連行されたレオンは、外への扉の前に立ちはだかる2人の護衛、ライリー&マックスと睨み合っていた。
なぜか連れてこられたアーツとリクオも同じく部屋から出るに出られず、仕方なく、ソファに腰掛けている。
ここは多分、スイートルームの類いだろう。
1人部屋にしてはとにかく広く、窓から見える海の景色が最高だ。
広さは違うがリクオが取ってくれた部屋も海に面しており、もちろんアーツは気に入っている。
「レオン。もしかして、おまえノアの店にちょくちょく顔を出してるのか?」
リクオがソファで足を組みながら、尋ねる。しばらく出られはしないだろうと、諦めムードだ。
ライリーたちとにらみ合いをしていたレオンが、肩をすくめて振り返る。
「こいつら頑固だと思わない?もう外に出す気ないってよー。んー、ノアの店?時々な。世界を知るためには、自分の足で歩かないと」
自信満々に胸を張るレオンを見ながら、リクオが続ける。
「世界を知ることは大事だが、親父さんの立場も考えた方が良い。ネヴィルだって、周囲を心配させながら世界を見ろと言ってるわけじゃないだろう」
「リックーはネヴィルをわかってないなぁ。ネヴィルはさ…」
「…リックーって誰だ」
「え?リックーはあんただけど?」
レオンに指を差され、リクオは固まっている。「ネヴィルは、考えてるヒマがあったら動けってタイプだからね。捜査も足で稼ぐタイプだったみたいだし。さすが元ドゥイスバークの刑事って感じだろ?」
「そうなんだ」
アーツは、感心している。「祖父ちゃん、オレにも刑事になれとは言うけど、自分の話はあまりしないからなぁ」
「へー!いいじゃん、アーツ刑事!母さんとアーツがチーム組むのも楽しそうじゃん!ネヴィルと母さんは同じチームだったらしいけど、母さんたちのチームは仲が良かったみたいで、よくうちで食事会もやってたぜ。父さんがいないときだけど」
レオンの言葉に、護衛2人は大きくうなずく。「私らも食事会に呼んで頂いたこともありますが、特にネヴィルさんが育てたチームは優秀だったようですよ。以前チームメイトの一人が、厳しく育ててもらったから結果が出せたと思うって話してました」
懐かしそうに話すライリー。
「まぁ、最後は色々あったみたいですけどねぇ…」
マックスが言うと、アーツが首を傾げた。
「色々って?」
「余計な話はするな!」
マックスがライリーに叩(はた)かれる。
「……?」
アーツは、聞いちゃマズい話かな?とそれ以上訊くのは遠慮することにした。
レオンはベッドに横になりながら、口を開く。
「『pause』のノア、あの人も元ドゥイスバークの警官らしいぜ」
「ノアがそう言ったのか?」
リクオが尋ねた。
「そっ。IIBに入りたくて警官を辞めのに、入ってみたら付いていくのが大変だったって笑って話してた。けど当時はかなり悔しかったとかって。んでそのあと、警官には戻らないで今はあの通り、店のマスターやってるんだよな」
リクオは真剣な顔つきで腕を組んでいる。
「……」
「ん?」
レオが首を傾げる。「リックー?」

…アカデミーやIIBの内情は話すもんじゃない、とリクオは思った。
まぁノアが自分の話をしただけなら本人の自由だが、オレの話もオリバーに話をしたみたいだし、他人の話までするとなると、一言注意した方が良いかもしれないな。

「なんだよ、リックー」
「…その呼び方はよせ」
リクオに睨まれ、レオンは目を逸らした。「ところでレオン、おまえ何のためにローリアンに行くんだ?家がそっちなのか?」
リクオの問いに、レオは首を振った。
「いいや。うちはローリアンじゃないけど、あんたらが行くならついて行こうかなって」
「レオンは今、シェルーズベリーに住んでるの?」
アーツが尋ねる。レオンは首を横に振った。
「ずっとヴィーヴァスだよ」
「じゃあ、こっちに帰ってきたってことか。シェルーズベリーに何しに行ってたんだ?」
「どんな用事にしても、護衛2人の目を盗んでまで行くのは考えものだぞ」
リクオの言葉に、ライリー&マックスは大きくうなずいている。
レオンは大きく息を吐いた。
「悪いとは思うけどな、ライリーたちは融通が利かなくてさ。父さんはいつまでもオレのこと子供扱いなんだよ。オレもう15歳だぜ?子守は必要ないよ。ずっとこの2人を張り付かせて、息抜きもさせてくれないんだ」
「坊っちゃんをお守りするのが仕事っすから!息抜きという名の旅行は、もう少し大きくなってからなさってくださいよ」
マックスが困り顔で言った。
アーツは、なんだかライリーたちが気の毒に思えてきた。
「こいつらにとっちゃ大事な仕事だ。見失ったとなれば責任を取らなければならないかもしれない」
リクオの言葉に、何度身の危険を感じたことか…と2人はうなずき合っている。
「ま、まあまあ…。ローリアンでうまい酒が飲めるって聞いたから、それを手に入れたらすぐに帰るからさ!今回は見逃してよ」
「だめです!」
2人が声をそろえる。リクオは怪訝そうにレオンを見つめた。
「酒って…お前15歳って言ってなかったか?」
「…20歳」
「さっきは15って言ってただろ?」
アーツが苦笑しながら言った。
「ウソは良くないな」
リクオは間髪入れずに忠告する。レオンはチェッと言って笑った。
「あー、そういやさっきなんでシェルーズベリーに行ったか聞いてたよな?アーツ」
「ああ、うん。でも話したくないなら話さなくて良いからさ」
「そんなことないよ。あんたたちは信用できそうだから。実際、用があったのはシェルーズベリーじゃなくて他の地方だったんだけど。オレさ、知りたいことがあるんだ」
「知りたいこと?」
アーツが首を傾げると、レオンはそれまで見たことがない真剣な表情でリクオとアーツに視線を向けた。
「オレは、世界の秘密を知りたいんだ」



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