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CEO for One Month, 振り返り

社会経験のない21歳の学生が、CEOとして働く。

スイスに本部を置き60を超える国と地域に拠点を持つ総合人材サービス企業、Adeccoグループの、2021年度CEO for One Monthとして選出して頂いた私は、2021年7月7日から8月6日までの1か月間、アデコジャパン代表取締役社長の川崎健一郎さんの下でCEOとして働いた。

インターンシップを終えて1か月経った今日、何を感じどんな気づきや学びがあったのか、改めて言語化しながら振り返ってみたいと思う。

出社初日、3000人以上の中から選ばれたのだと高まる気持ちを抱えながら、同時に私は実に不安であった。知識も経験もない自分に何ができるのか、過去のCEO のように活躍できるのか。不安な気持ちを抱え始まったこの1か月であったかが、この期間中に私が感じた感情を時系列順に言語化すると、以下のようになる。

「不安」→「面白くない」→「充実」→「あれ、自分何やってるんだっけ」→「これだ!」


ギブ・アンド・テイク

【不安→面白くない】
せっかく選んでいただいたんだから、自分にしかできないことで会社に貢献したい。そんな想いを一瞬で打ち砕いたのが、自身の経験と知識のなさだった。何かをしたいと思っても、まずは社員の方に仕事の進め方や考え方、既存のシステムについて聞かなければ何も始まらない。だが聞いてばかりの自分ではいたくない、何かしらの価値を提供したい、そのような想いから今度は相手の粗探しを始めた。「新しい視点を提供する」という名の粗探しだ。相手がまだ気づいていない点、改善の余地がある個所はどこか。このような観点で相手の話を聞くと、それはそれである程度見つかるものである。気づいた点をリストアップし、質問という形で相手に伝える。稀に的確な指摘もあったりして「う~んたしかに」と相手も唸るようにうなずく。
けれど、面白くない。
気づきもたらすという意味で相手に何かしらの価値を提供を出来ているのかもしれないが、いかんせん面白くない。私はワクワクすることを実現するためにCEOになった。一か月という限られた時間をつまらないことで浪費するのはあまりにもったいない。


【面白くない→充実】
そこで私は、相手を幸せにしよう、と決めた。人間関係において、ギブ・アンド・テイクは基本であり与えてもらうばかりでは健全な関係は築けない。しかし、ギブするものは必ずしもアウトプットに直結している必要はないのではないか?そもそも学生に誰がそれを期待するのか?そう気づいた私は、会話の最初には満面の笑顔で挨拶をし、会話の最後には時間を割いてもらったことへの感謝、会話の中で感じたことのフィードバック、そして「素敵な一日をお過ごしください」という一言を必ず伝えるようにした。相手を幸せにしようと決めてから、社員の方とのコミュニケーションは一気に変わった。ちょっとした気づきや悩みをわざわざ教えてもらえるようになったり、自身の企画のフィードバックをもらう時も一方的な指摘から相談という形の共創になった。基本的な挨拶を、毎回、誰にでもする。これだけで「りりさんと話すと幸せになる」と伝えてくれる方が現れるようになった。気づきの種をもらう機会、もらえるフィードバックの質と量、自分への印象、これらは、自分のちょっとした思い込みから抜け出すことで変わった。

志の火を絶やさない

【充実→あれ、自分何もやってない】

1日何十件もくるメール、分刻みのミーティング、慣れない資料作成。日々の業務に終われるうちに、「自分は何がしたかったんだ?」という疑問が、ある日、ふと、頭の中に生まれた。目の前の相手を幸せにするという指針を持ち充実した日々を過ごしていた、ような気がしていたが、これまでの日々を振り返ると特に何も達成していない。気づいたら7月も3週目を迎え、勤務期間も残り半分を切っていた。このままでは何もできずに、何の爪痕も残せずに、勤務を終えてしまう。焦った私は、大慌てで内省し、自分に問いかけた。「自分は何がしたいのか?」「どんな世界が作りたくて、そのためにはAdeccoで何ができるのか?」何度も何度も、問いかけた。


【あれ、自分何もやってない→これだ!!】
私は、誰もが自分の人生の主人公は自分であると確信できるような社会を、教育という側面から達成したい。CEO for One Monthの最終選考に向けて寝る間も惜しんで準備したプレゼンテーションを見直しながら、自分のやりたかったこと、自身の志を再確認した。と同時に、ラスト2週間の過ごし方も組み立て直した。やりたいこと、叶えたいvisionが見えれば、あとはそれに向かって全速力で向かうだけだった。

この内省を経て私が実際に何に挑戦したのかは、別の記事に譲りたい。


(上記の記事に英語で記させていただきました。読んでいただけるととても嬉しいです。)

ここまで自身の心の動きを追いながら1か月間の挑戦を振り返ってきたが、最後に自身の気づきや想いを記して終わりたい。

今回は1か月という明確なエンドがあったから、このままでいいのかという焦りが原動力となり、自ら立ち止まり自身の志を見つめ直す時間を設けることが出来た。しかし、もしこれが就職した後だったらどうだっただろう。70歳まで働く人も少なくないこの時代、エンドやゴールが明確に見えない時代に、果たして自分は同じように立ち止まり、「自分は何をしたいのか」と自ら問いかけることができただろうか。


米ギャラップ社が世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかないという(2017年発表)。この数字が示すこと、それは、たった6%の社会人だけが自身のキャリアの中で志を持ち続けることが出来た、ということではないか。静かに燃える心の火を絶やさずに日々を生きること、手段が目的になってしまわぬよう日々の仕事に挑むこと。それがどれほど難しいことなのかを突き付けられた気がした。

しかし自分の周りの人に目を向けると、志を持つ多くの方々に出会えた1か月であった。川崎健一郎社長、CEO for One Monthの企画を担当してくださった広報の方、そして過去のCEO for One Monthとして活躍し現在はAdecco社員として組織を引っ張る方々。この期間中に出会った、自らの志を持ち躍動している方々の顔を思い浮かべるときりがないが、彼ら彼女らは皆、叶えたいビジョンを持っていた。目指す社会、自身の手で作りたい世界の実現に向かって、その世界に胸を躍らせ、日々疾走していた。そしてそんな彼ら彼女らの周りには自然と人が集まり、多くの力を社内に生み出していた。

志あるところに道あり

志を絶やさずその火を持ち続けることが出来る人、そのような人間を人は「リーダー」と呼ぶのだろう。そしてそんな人間こそ、周囲の人々にポジティブな影響を与え、社会を変革して行くに違いない。


最後に

やりたいことが出来るのは学生までで、社会人になったら高めた市場価値を切り売りして生きる。だから学生のうちにいかに自己の市場価値を高められるかがその後のキャリアにおける成功を定義し、将来の自分のために今の時間を使うことが正しい。
就職活動をしていると、このような考え方出会うことが頻繁にある。
わたしは、この考え方に危うさを感じる。自身の志を持つ前に市場価値の向上のみに従事してしまうことは、手段の目的化を生むからだ。まさに私が経験したように、結局自分は何をやりたいたのかを見失ってしまう。
今すぐ志を持たねばならないと言いたいのではない。「自分のやりたいことが見つからないから、自分の志を見つけるためにまずは色々な経験を積み市場価値を上げる」のと、「市場価値を上げることは正しいから市場価値を上げる」のでは、その人の心の状態や見える世界は、大きく異なるのではないか、と伝えたい。

「ぼくは批評家になろうと思ったことはない、世間が私を批評家にしたのです。ぼくはただ文章を書いていただけなのです。」(小林秀雄)
ー『人間の建設』

志あるところに道はある。私もこんな生き方をしたいと、強く思った1か月であった。


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