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「並行宇宙でしか生きられないわたしたちのたのしい暮らし」感想

三人称さんが好きで、こちらの対談の記事を読んで気になり

試し読みをしたらめちゃくちゃおもしろくて笑ったので、即購入し即読了。渡辺優さん、めちゃくちゃおもしろい人です。


特に好きなお話


01 運転

わたしが車を運転しない理由が詳細に言語化されていてびっくりして、首がもげるほど共感しかなかった。歩行者の恐怖や、速度のルールが崩壊した世界の論理、マルチタスクの難解さ。
歩行者のことを“歩いているやつ”と表現するのがコミカルで好き。
試し読みでこちらを読んで、本の購入を決めました。


06 体力

体力はないけれど血の気が多くて剣道部に入部し、だけど皆と同じ距離を走れず、外周コースにいくつかショートカットコースを見つけ出したり、そんなにがんばって運動していたのに体力がつかなかった。
願望と現実がこんなにも噛み合わないことがあるのかと思いました。


17 空

空を飛びたくて大学生の時に飛ぶ練習をしていたことがあるというだけでおもしろいのに、反重力器官の仮説を立てたりしているのに、けっこうはやくその練習に飽きて、自分がその練習をしているということを忘れてしまったところが最高におもしろいです!自由!!!
また希望のクマバチのオチまで綺麗についていて、あっぱれ。


18 クワガタ

裏の仕事という表現があまりにもぴったりすぎて、笑ってはいけないのだけれど、笑えました。店長の意味深な言葉が更なる笑いを誘います。最高。でも決して笑えない深刻なお話です。


20 ワッフル

一番好きなお話。妖怪と言う表現がおもしろおかしくて、そんなおいしいワッフルをわたしも食べてみたいなと純粋に思いました。
対談で住野さんがこのお話を要約してるところがあるのですが、これまた表現が愉快で好きです。


特に印象に残った一文


すごくフレッシュで鮮やかな「絶望」

22 絶叫マシン


絶叫マシンに乗る直前に急に乗りたくなくなり、その思いを無視して乗った結果の後悔を表す一文なのですが、すごくないですか?
フレッシュで鮮やかという前向きでプラスの要素しかない単語の後に繋がる、絶望というどうしようもない暗黒。
絶望を全く形容してないんですよね。その矛盾の中から伝わる絶望さ。とても素敵な表現だなぁと思いました。


全体感想

ひとは皆自分の五感を持ってしか世界を認識できず、その五感が各々絶妙に異なっているわけですから、これはもう皆違う世界に生きているのと同じことかと思います。

最後に それぞれの宇宙の匂い

これがこの本のテーマですが、人それぞれ自分という世界を持っているとわたしも思っているので、そこもこの本が好きな理由の一つです。
ただもうとにかく渡辺優さんという人間がおもしろい!これに尽きると思います。見栄や被害妄想は誰しも行ってしまうことかもしれないけれど、痛いのに痛くないふりができる演技の才能、俳句甲子園・ザ・ムービーを思いつくその想像力の豊かさ、できないやつほどできそうなテンションで口を挟みがちという客観的な分析力、蚊に刺された箇所を一生懸命数える滑稽さ、そして「機会がなかったせいで眠っているものすごい才能」シリーズの妄想をもっと知りたいです。
独特な言葉選びが卓越したセンスで光っていて、本当におもしろい。
小説も読んでみます!!