民藝運動から考える、現代における道具との向き合い方 2/3
こんにちは、「道具へのカンシャ」が芽生える体験を届けるライフスタイルブランドlilo(リロ)を運営する古谷です。大正時代に起こった民藝運動について、そしてそこから考える現代における道具との向き合い方について、3回に分けて書いている第2回になります。第1回で民藝運動の起こった時代背景などを見ていきました。
今まで価値がないものとされてきた日本の古来の日用品に美を見出し、スポットライトを当てた民藝運動。第2回の今回は、民藝運動とは具体的にどのようなものだったのか、そしてその中心人物柳宗悦(やなぎむねよし)の思想について触れていきたいと思います。
https://story.nakagawa-masashichi.jp/
※九州の山奥でひっそりと作られていた小鹿田焼(おんたやき)。柳がその価値を発信し、有名産地となりました。とび鉋(かんな)の模様と素朴な釉薬が美しいです。
民藝運動とはどういう意味なのか
民藝運動とは具体的にどのようなものであったか見ていく前に、まずは前回の振り返りをしてきましょう。
第1回のあらすじ・・・大正時代の日本は西洋化へまっしぐら。そして自由主義が広まっていき現代の日本の文化のベースが築かれた時でした。美しいもの=西洋的な華やかで派手なものといった価値観が定着し、日本古来の日用品は下手物と呼ばれ審美にかけられることはなかったのです。そんな中、西洋美術に精通していた柳宗悦が中心となり、日常の品々にこそ美しさがあると唱えたのが民藝運動と言うわけです。
さて、そんな民藝運動ですが具体的に一体どのようなものだったのか、深堀りしていきましょう。
”民藝”という言葉について。
民藝=民衆的工芸 であると柳は述べています。つまり一般的な人々が日常で使っている道具達を指します。
当時の美しいものの楽しみ方は、その装飾などを鑑賞して楽しむのが基本でした。美しさを楽しむものと日常で使うもの、この2つがはっきりと別れており交わることはありませんでした。
https://kinarino.jp/
※藤細工の道具達。無駄な加飾がないからこその美しさです。
だからこそ西洋的で華美なものが美しいとされ、日本古来の道具は雑器として審美にかけられることはありませんでした。ここに柳は”健康な美”と”不健康な美”という言葉を用いて、民藝品の美の正当性を訴えかけます。
健康な美・・・製作において作為的な装飾がなく実直、使用に際して信頼がおけて長きにわたって使うことができるもの。
不健康な美・・・作為的な装飾が施され、本来の使用に際して信頼が置けないもの。
ざっくりとですが、柳はこのようにして道具における健康、不健康を定義付けていきました。必然的に不健康なものは華美に、健康なものは地味なものということになります。
つまり、いままで美しいものとされてきた華美なもの達は信頼をおいて使うことができない病弱な道具たちで、地味で実直に私達の生活を支えてくれる道具にこそ健康的な美しさが宿っていると説いたのです。
言い換えると柳は民藝運動において”用の美(ようのび)”という概念を提唱したのでした。
自由、直感、自然を大切にした柳宗悦
次に、民藝運動のムーブメントの中心人物である柳宗悦の思想、考え方に触れていきたいと思います。柳はイギリスの画家・詩人、ウィリアム・ブレイクを熱心に研究していました。このブレイクという人物がとても面白いので軽く紹介しておきます。
18世紀、産業革命真っ只中のイギリスに生まれたブレイクは産業革命で急速に進んだ合理主義や社会的秩序を重んじる啓蒙主義に真っ向から反対し、神の作り出した人間としての自由な精神や生活を追い求めた人物です。当時では当然であった奴隷制度に異議を唱えたり、自由な恋愛結婚の奨励、罠や網で捕まえられたものは口にしない菜食主義者であったり霊界と交信し絵を描いたりと、かなり尖っていた逸話が残っています。また、その難解な作風から狂人とされ、生前は評価されることなく生涯を閉じます。
しかし、その思想は死後高く評価され、柳宗悦と並び、ウィリアム・バロウズも影響を受けた一人だと言われています。(バロウズに関してはまた次回にまとめようと思います。ビート世代を代表する作家で、代表的な人物としてビートたけしはここから大きな影響を受けています。ここからヒッピームーブメントにつながり、スティーブ・ジョブズなどのヒッピー派実業家が多数輩出されます。)ウィリアム・ブレイクの研究から、柳も自由かつ自分の精神に逆らわない健康的な思想を得たのでしょう。
http://mementmori-art.com/archives/17930677.html
※ウィリアム・ブレイクの絵画です。ヨハネの黙示録に登場する悪魔の化身を描いています。いやあ、、、すごい、、、
また、先に述べたブレイクの影響に加えて、柳は思想の根幹に宗教思想をもち、彼の問題意識の奥には常に宗教的な問いがありました。人間とはどのような状態であるのが望ましいのかというような問いです。そして、その一つの境地として”自然に則る生き方”というものに行き着きます。簡単にいうと、色々迷うけど、自然に任せることが一番いいよね!ということです。
この思想こそが柳を民藝品へ目を向けさせました。
先の健康な美、不健康な美という表現に当てはめて考えてみましょう。不健康な美というものは華美な加飾が人為的になされ、自然的に発生していない。即ち、自然に則っていないわけです。
それに変わって健康な美は、用(必要)から発生し、その土地の人々がその土地の材料を使い作って生活に使われる。その姿は極めて自然に則っており「器には自然の加護があり、器の美は自然の美である」と柳は述べています。そのようにして生み出された道具は非常に自然発生的であり、そこにこそ健康な”美”が宿るということに気づくのです。民衆はそのようなことには無意識ですが、無意識的にそういったことができる民衆やそこから生み出される道具に対して柳は自分の行き着いた境地を発見し、民藝にのめり込んでいきます。
https://intojapanwaraku.com/craft/8539/
※染物作家の芹沢銈介の作品です。工芸品の技術をアートに昇華する。けれども、日常生活でガシガシ使っても問題なし。これが民藝品の魅力です。
柳宗悦はブレイクの自由主義的かつ直感を重視する思想と、自然に則って生きるという宗教的視点を持っていたというわけです。
その2つの交わる部分に自分の思想を体現してくれるものとして民藝を見出し、生涯をかけて日本各地に散らばった民藝品を拾い集め、その価値を世の中に示していったのでした。
まとめ
今回は民藝運動のより詳しい解説と柳宗悦の思想に触れていきました。さて、第3回は柳の思想や彼の実際の言葉を元に、現代における道具の向き合い方について私の考えを書き連ねて行こうと思います。
liloは、「道具へのカンシャ」が芽生える体験を届けるライフスタイルブランドです。伝統ある日本の手仕事に、今までにない感性とアイデアを融合させ、思わず愛着が湧いてしまう道具を作り出します。滋賀県信楽で生まれたダッチオーブン(お鍋)を取り扱っております。ぜひ一度storeを覗いてみてください。
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