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HIPHOP思考 ②サンプリング

こんにちは、「道具へのカンシャ」が芽生える体験を届けるライフスタイルブランドlilo(リロ)のデザインを担当している古谷です。

私が心から愛しているHIPHOPには独特の思考やカルチャーが存在し、それらは日常生活やビジネスのシーンにおいて非常に大きなヒントを与えてくれます。これを”HIPHOP思考” と題し、様々な切り口からシリーズで取り上げます。

第二回目はHIPHOP独特の作曲手法である”サンプリング”を考察し世の中に新しいものを生み出すためのヒントを探ります。

HIPHOPってなんだ?

前回のnoteでざっくりとHIPHOPの黎明期と”digる”カルチャーに触れていきました。

さらっとおさらいしていきます。

1970年代のニューヨークはサウス・ブロンクスで、当時流行していたディスコブームに憧れた黒人貧困層が家からターンテーブルやレコードなどを持ち寄り街角で集まり、音楽をかけて楽しんでいました。その中でパーティーのDJをしていたDJクール・ハークが曲の間にあるブレイクという、いわば間奏の部分が一番盛り上がることに気づき、2台のターンテーブルを用いて間奏を長く保つ手法を編み出しました。これが今日まで続くDJの基本的な形となります。

そして、DJ達はより聴衆を盛り上げるべく、流行している曲ではなく誰も聞いたことがないような曲を掘り探して行ったのが”digる”というカルチャーの始まりだったのです。

それを踏まえて、今回取り上げるのは”サンプリング”と呼ばれるHIPHOP独自の作曲手法です。

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累計3000万枚以上のセールスを誇る歌姫アリシア・キーズの若い頃の写真です。サンプラーやたくさんの機材に囲まれているこのHIPHOPギーク感がたまらないです。

では、サンプリングの歴史を見ていきましょう。

時は同じく1970年代のニューヨークはサウス・ブロンクス。
2台のターンテーブルを使い間奏を長く保つことで聴衆を熱狂させていたDJ達ですが、新たな手法として、ドラムとベースでリズムの元を作り、その上に複数の曲の間奏を混ぜあわせたものを披露しました。
複数の既存の曲の一部分同士を抜粋し、組み合わせることで新たな曲を作りだしたのです。これにより、今までは既存の曲を流していたDJ達が作曲者としての立場も獲得することになります。このスタイルの獲得により、今までは既存の音楽に合わせたカルチャーだったものが、新しい音楽を生み出すジャンルへと昇華していきます。

具体的にサンプリングとはどういうものか、とてもいい動画があるのでご紹介します。

大人気ドラマ”大豆田とわ子と三人の元夫”のエンディングソング
STUTS ft.KID FRESINO , 松たか子 - Presence I の作曲風景を映した動画です。このドラマ、みていた方も多いのではないでしょうか?

この曲は同ドラマのオープニング曲である坂東祐太 - ♯まめ夫 序曲 ~「大豆田とわ子と三人の元夫」の曲の一部分をサンプリングしています。(音源がなかったので、リンクを用意できませんでした。。。)


オープニングの一部分をエンディングにサンプリングするという遊び心が非常に面白いです。
それだけではなく、このドラマの脚本家である坂本裕二が以前に主演である松たか子と製作した曲”あした、春がきたら”もこの曲にサンプリングされています。

ドラマ内だけでなく、出演者や脚本家の以前の作品を持ってくるこのあたり、作曲者のSTUTSの素晴らしい遊び心が伺えますね。非常に曲として情報の奥行きを感じます。

このように、異なる曲の一部分を切り取り、自分なりに解釈をし新たな音楽へと昇華することがサンプリングの素晴らしい点です。
また、リスナー側としてもサンプリング元の特定や、なぜこれをサンプリングしたのかなどを議論することがHIPHOPを聞く上での楽しみのひとつだったりもします。

海外ではサンプリング元の情報交換を行うサイトもあり、日々投稿がされています。気になった曲や好きな曲のサンプリング元を調べてみるのも、いつもと違った音楽の楽しみ方としてありなんじゃないかなと私は思います。


書き始めたらキリがないのでこの辺りで今回のHIPHOPってなんだ?のコーナーを終わりにします。

かけ合わせの中から新たなものが生まれる。

異なる曲の一部分同士をかけ合わせて新しい音楽に昇華させる、サンプリングの歴史や実例をさらっとみていきましたが、私の思うサンプリングから学べることについて考察を進めていきたいと思います。

私は、世の中にとって新しいものは0から生まれてこないと考えています。

では、今世の中に存在するものはどうやって生まれてきたか。そのルーツを辿っていくと、必ず異なった領域のもの同士が組み合わさっていることに気がつきます。例えば、インターネットの起こりは、1960年代初めに軍用の計算機であった初期のコンピューターに電話回線の通信手段を掛け合わせたのがきっかけです。この電話ではない新たな通信技術の発生により、私たちの生活が大きく変化しました。(インターネットの概念ができてから約60年、商用のインターネット通信が始まってからまだ30年少しと考えると、インターネットの発達スピードの異様さが目につきますね。)


どんなに革新的なものでも、新しいものでも、既存のものをかけ合わせて生まれてきているのです。その着想源を知ることで、そのもの自体への理解も非常に深まりますし、ケーススタディーを積むこともできます。
掛け合わせの上に成り立っている世の中だと見ると、なんだか新しいものを生み出したり、考えたりすることのハードルが下がるような気がしますね。

作曲手法としてではなく、世の中の仕組みとしてサンプリングを捉えてみるととても面白いなと考えています。

予想外のかけ合わせを生むためには。

異なるもの同士がかけ合わさって新しいものが生まれてきていることを確認していきましたが、それが遠い領域同士であればあるほど、革新的な価値を世の中に打ち出せると考えています。私がいいなと思った例が和菓子屋さんが作ったこの商品。

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引用:https://kameya-yoshinaga.com/?pid=142516073

個包装になっているスライスチーズから着想を得てようかんを薄くスライスしバターをon。簡単に小倉トーストが楽しめるというもので、この商品は多い月には月に8000袋も売れる大ヒット商品になりました。

この商品を開発した「亀屋良長」の8代目女将、吉田さんの開発秘話がとてもいいなと思ったのでご紹介します。

大学卒業後、フランスに留学しフランス料理を学んだ後、1803年創業の老舗和菓子屋「亀屋良長」の8代目社長と結婚され和菓子の道へ進みます。そんな中、自宅であん炊きの試作をしていると、次男から朝のトーストにあんこを塗って欲しいとのリクエストが。一方長男は甘いものが苦手で、スライスチーズを乗せて欲しいとのリクエスト。この時、あんこはトーストに塗りにくいのに、スライスチーズは乗せるだけで楽だなと感じたことが開発のきっかけだったとインタビューで話されています。

同じ朝食のシーンとはいえ、スライスチーズとあんこはとても遠い領域同士の存在です。この遠いもの同士の関連性を見出し、かけ合わせて新たなものとして世の中に提案するその感度に感服します。

このように、素晴らしいかけ合わせには非常にビビッドな感度が必要です。
その感度をどのようにして高めていくことができるか。
私は、情報に触れるときにサンプリング的な感覚を常に頭の片隅においておくことが重要だと考えています。

ヒットしていたり、革新的な商品のサンプリングソースを探してみたり、音楽を聴くときもその着想源について調べてみたりすることで、普段見ているものや耳にしている情報の深度がとても深まるのではないでしょうか。
一つの情報に対して深い深度で捉えることを続けることで、普段は気づかない関連性やヒントに気づくことができる高い感度を得ることができます。


この高い感度の獲得こそが、HIPHOP独特の作曲手法であるサンプリングが教えてくれる、世の中に新しいものを生み出すためのヒントではないかと私は考えています。

まとめ

今回はHIPHOP独特の作曲手法であるサンプリングについて考察していきました。digるカルチャーしかり、HIPHOPは知識と感覚が高次元で混じり合っている音楽だなとしみじみと感じます。いやあ、奥が深いですね。。。

HIPHOP思考、3回目の次回は”ラップ”と”俳句”を比較しながら、即興思考の大切さについて考察したいと思います。

そんな私がデザインを担当しているliloは滋賀県は信楽町で生まれた道具ブランドです。日本中にある素晴らしい手仕事をdigり、私たちの感覚とmixし、日常生活で生き生きと使われる道具を生み出します。そしてその道具を通じて人間と道具の正しい関係を提案し、真にサステナブルな世界の実現を目指しています。

下記のリンクから、私達のフィロソフィーをもう少し詳しく知っていただけるととても嬉しいです。


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