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“幸せ”ってなんだろう

年始に久しぶりの投稿をしたと思ったら、何だか胡散臭い自己啓発セミナーみたいなタイトルになったが、これはある夜の我が夫婦のトークテーマである。

子が寝た後、夜ご飯を食べながらの夫婦の時間には、時に答えのない、徒労とも言える会話が繰り広げられている。

その日は、夫の
「状況を見たら僕は随分幸せだし、恵まれているって自覚はあるんだけど、俺めっちゃ幸せだー!みたいに心から言うことができないんだよね」

という呟きから始まった。確かに夫は、妻の私が言うのも何だが、どちらかと言うと順調に人生を送っている男である。

楽しいことや嬉しいことはいっぱいあるが、一つでも嫌な事があるともう自分は幸せだと言えない。ちょっとでも黒い点が混ざったら、それはもう白じゃないという気分になってしまう。幸せの粒に目を向けてマイナスな要素については目をつぶれたら、気持ちは楽になるのかもしれないが、それができない。潔癖なところがある、夫らしい考え方だと思う。

さらに夫は、昔大学の幸福論についての授業で出てきた、とある例え話に納得がいかないらしい。土日があるから平日が辛く感じ、幸せでない。でも土日がなくてずっと平日なら、辛いと感じることもないので幸せだ、というような話が出てきたらしい。

「平準化されて、マイナスではない状態が続いているということが幸せ、という説明なんだと思うけど、僕としては、それって幸せがなくなっている状態じゃないかって思って。マイナスじゃないなら幸せって違くない?」
と夫は言う。

「まあ、幸せって曖昧な言葉だよね。その例え話だと、相対的な判断で幸せは作り出されている感じがするよね。あなたは幸せってどう言う類のものだと思っているの?」
私は聞いてみた。

「幸せって嬉しいとか悲しいとかの感情じゃないよな。僕は評価だと思っている。こうだから幸せ、みたいな条件がいっぱいあってそれによって幸せだと言う評価をされている気がする」
と夫は答えた。

だから、冒頭のとおり、「状況を見たら僕は随分幸せ」ということなのか。しかし、幸せの条件とやらも、人によっても、時代やコミュニティによっても、だいぶ異なるであろうし、その条件に囚われて幸せだと思えなかったら元も子もない。夫もその一人かもしれない。

「生きていれば、程度の差はあれど、悲しかったりしんどかったりすることがあるし、あって当然だと私は思うよ?幸せな人生ってさ、概ね幸せなことで満ちている人生、と言うことであって、苦しいことが全くない気楽な人生というわけではないと思うんだけど。そんなのは幻想だと思うんだけど」
私は言った。

「確かに、悩みが全くないなんてあり得ないもんな。僕は悩みが全くない気楽な心持ちがずっと続くことが、幸せであることの条件だと思ってたけど、そのくらい大まかな捉え方でいいのかも。僕は完全無欠の幸せを想定してて、勝手に幸せじゃないなぁって貶めてたのかもしれない。」

そう思うと、さっきの土日と平日の考え方も悪くないか、マイナスじゃないからそれで良いって感じだな、と夫はぶつくさ言っている。

幸せであるとはどう状態か、その内容は人それぞれだと思うが、自分にとって嫌なことより心地よいことが勝る状況なら、それで十分だと私は思う。その程度で「自分は幸せだなー」と言っても、差し障りはないと思うのだ。

夫は随分納得した面持ちで、なんか気持ちが楽になったと笑った。そこで私は、夫の話を聞きながら考えていたことを口にする。

「ちなみに、私は幸せっておまじないだと思ってる」

「それこそ、実体のない幻と思ってるってこと?」

「それに近いかもしれない。だって幸せっていう決まった状態があるわけではないじゃん?実際にその言葉を発している時、必ずしもこうありたいという明確なビジョンがない場合も多いし。でも、泣くよりも笑っていたい、嫌なことより心地よいことをやっていたいという大まかな思いはあって、それができた時に『幸せだなぁ』って振り返ったり、未来に対しては『幸せでありますように』っていう言い方で願ったりするんだと思うの。」

私はしばしば、我が子の寝顔を見ながら「幸せになあれ、幸せになあれ」と囁き、頭を撫でる。私の想像の及ばない我が子のこれからに、少しでも多くの楽しいことや嬉しいことがあるようにと、私は願うことしかできないのだ。

ヴォルデモートの死の呪文からハリー・ポッターを守った母の愛のような、そんなことが本当に出来たらいいのにと思いながら、私は「幸せになあれ」というアバウトな呪文を、夜な夜な子供に刷り込むのだ。

今の安寧が続くように。今より喜んでいられるように。あらゆる手に負えない出来事に対して、私たちは"幸せ"という言葉で、願いや希望を形容しているような気がする。

2024年が幸せな年でありますように。

#エッセイ #幸福論 #幸せ #夫婦 #子供 #note書き初め

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