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後日談 オーケストラと聞こえないわたし〜リバーサルオーケストラスペシャルコンサートを通して〜

聞こえない人ってどんなふうにオーケストラを楽しむか、感じるかという一つのサンプル。それが前回のnoteだった。

前回のnoteがnote公式さんに取り上げていただいたこともあり、思いがけずたくさんの方に読んでいただき、驚くと同時に嬉しかったです。

【前回の記事】

【公式さんツイート】

そして。
2023年2月21日。みなとみらいホール。
ドラマから飛び出して、「リバーサルオーケストラスペシャルコンサート」が開催され、このコンサートに参加してきました。
席は3階席。
オペラグラスを携えて
実際にこのオーケストラに参加して感じたこと、自分の記事の二番煎じではありますが、書き留めたいと思います。

前回の記事を書いたきっかけは、私はどんなふうに音楽やオーケストラを感じるか?というのを伝えたいというのがきっかけでした。そして、ドラマのなかのオーケストラの朝陽の指揮を通して音が見えたような気がしたこと。思い出したこと。それを書き留めたくて。

聞こえないと無言の静かな世界に生きているようにみえますが、最近の補聴器の性能はあがっているので、補聴器をすると何かしらの音は入ってくる人は多いです。
聞こえない人もさまざまで、中には補聴器してもまったく聞こえない方もいるし、はっきりしない音がうるさいとあえて補聴器をつけないで無音の世界に委ねる方もいます。私も疲れたな思うと補聴器も眼鏡もとり、情報をシャットアウトする事があります。それくらい不確かな情報というのは疲れるのです。聞こえる方々が無意識にやっている音の判別は機械を超える繊細なことなのです。夜は補聴器したまま寝ると寝た気分になりません。

私はというと、少しでも音を手がかりにしたいと思うので、補聴器をして、入ってきた音と視覚的な手がかり(表情や口の形、周りの人の行動など)と合わせて、こうかな?こうかな?と想像しながら毎日を過ごしています。顔も見ずに音だけでわかるということはほぼありません。よほど家族とか慣れてる友達か、得意な周波数の音だとかで奇跡的に聞こえることはたまにあります。
私もわからないけど、遠く離れた船とかの無線(ハム)同士がたまたま周波があってきこえるみたいな感じ?

さて、スペシャルコンサート。曲目は事前に明かされなかったが、曲もわからずにこの私に楽しめるかな?と参加することを迷っていた。でもやはりこの目でみたい。もしかしたら推しが指揮するなんて事があるかも知れない。なんか感じ取れるかもしれない。と決心したのでした。

曲名はやはり当日も事前には出ていなくて、会場を出てきたときに掲示されていました。

結論からいうと。その場で確信もってわかったのは、運命、アルルの女よりファランドール、幸せなら手を叩こう、ウイルアムテル序曲よりスイス軍の行軍。

そして指揮や状況によりこれかな?とわかったのが、カルメン、そしてMela!だった。
つまりわかったのは半分くらい?

わかるのはかなり独特のフレーズがあるものな気がする。
威風堂々とかカルメンも有名なんだと知識ではわかってるけどこの曲だ!と特定するフレーズが私にはわからないのだ。清塚信也さんがピアノで演奏していた「劇伴」もそもそもテレビで聞き取れていないので分からない。リラックスしたままでかつ運指が素晴らしいというのはオペラグラス越しでわかったのだけれど。

正直に言おう。私は孤独を感じた。

この2000人の観客の中でわからないのはほぼ私1人?ろう者なのに行くなんて無謀だったかなとチラリと思った。
やっとのことで取れたチケットだったので1人で参加していて、連れもおらず、隣の人に挨拶しておいたので、カスタネットをこれからやるみたいだなとは教えていただいたけど。初対面の方にそれ以上聞くこともできず。

それでも今よりも聴力がよかった時に聴いた曲(運命、ファランドール、幸せなら手を叩こう)は記憶のどこかからピースを当てはめるのか、なんとなく分かった。スイス軍の行進も。
幸せなら手を叩こうは、このカスタネット入れるタイミングと数をみて、これはあの曲だな!と勘が働き、果たして頭の中で歌詞を反芻したそのタイミングでカチカチ!と入った。

しかしその後がわからない。
本当にわからん。と思った。でもドラマに出てきた曲をやるよね、とは思った。

なんかパイプオルガンのルーシーというの名前なの?(それすらもその時は分からない)が、音を奏でた時、みんながざわっと音源を探す雰囲気がした。動くんですよ。空気が。なんかすごく響く音がしてると言うのはわかるのだ。音には質量がないと思うでしょ?なんかあるんですよ。だから自分のことをよばれてるのかな?と振り向いたら本当に呼ばれてるし、噂話してたらときくとそうだったりする。こちらに向ける波長とでも言おうな。音源に向ける意識とでも言おうか。そう言うのが確かにある。
なので私もなんか起こってるなということが分かり、この会場にはパイプオルガンがあることも知っていたから、もしかしてパイプオルガン?!と見たらやはり果たしてそこに奏者がいたのだった。

カスタネットの込み入った奏法はオペラグラス越しに見てこれは難しいなと思ったけど、音はやっば、わからない。カスタネットの拍手がどんな風なのかもわからない。でも、なんとなく拍手して会場が揺れているのはわかった。

あと田中圭さんや清塚さんがなんか言うと会場が揺れるので笑ってるな、というのはすごくわかる、面白いこと言ってるんだなって。リラックスしてそうなのも分かる。

清塚さんの素晴らしい運指のピアノのあと。

もう1人の指揮者の方が出てきて、演奏が始まったとき、今までの方と違うなって思った(おふたりのお名前は後でわかったけど、当日のあえてわからないままで書きます)。
ふりが柔らかい。メビウスの輪みたい。包み込むように。包み込むように。音をすくい取っていた。
それまでの方は酒の入っていた台よりははるかに大きい指揮台を所狭しと動き回り、軽快に元気にはつらつと音を生み出していた。指揮棒がリズミカルに元気に動いていた。同じ男性でも振り方が朝陽と違うなって思った。同じ曲なのに違って見える。でもたしかに同じ曲なのだ。これが「解釈」なのかしら…。

最初の方
坂入健司郎さん

https://twitter.com/reveorche_con/status/1624753128410329088?s=46&t=Ux6L3sgHIior9CGToxhaiA

そして次に出てきたこの方は曲自体もゆったりななのかもしれないけど、穏やかな人柄なのかなぁって思った。清塚さんが嬉しそうに見えた。

もう1人の方:啼鵬 (ていほう)さん

そしてその次に。
会場がどよめいたのがわかったので、あ、これは推したちが「指揮」「演奏」するなってわかった。
はたして、彼らは指揮棒と楽器を持って出てきた。

かつて2000人を前にして、キャストがドラマを飛び出して、指揮と演奏したことがあったろうか。生演奏なのだ。それを、前にして。
期待はしていたけどそれのプレッシャーのすごさを思い、私は恐れおののいた。
しかし彼女、彼は柔和な顔をして入ってきて、肩肘はってすらいなかった。遠い遠い3階からのオペラグラス越しでもそれはわかった(あとで聞いたら構えた瞬間に田中圭は笑ったようにすら見えたという。なんてすごい。)

(なお、これを書いている時点でコンサートのアーカイブやテレビで3/5に放送された舞台裏SPは未見です)

曲はなんだ?!
というのが私の最大の課題。
おそらくMela!かカルメンだろうと予想していた。果たしてオケが全員楽器を構えた。
あぁ、ドラマで独奏から始めたMela!じゃない。
多分カルメンだな…と思った。
果たして彼のふる指揮がカルメンのそれと同じように感じた。ただ、細かく覚えてなくて、事前に予習していけばよかったと後悔した。
オペラグラスを通して、ちゃんと音に先行しているように見えた。指示も出している。オペラグラスの狭い視野なのでヴァイオリンの彼女も追いたいが、ひたすら音を「見る」ために指揮を追った。オペラグラス越しは疲れたけど、確かにひいてはよせ、ひいてはよせてくる音の波が見えた。それは他のプロの指揮者おふたりの時にも感じた。なんか見えない糸で操ってるみたい。そう思った。
音の塊は聞こえるけど、表現の細かいところはわからない私。綺麗だなとは思うけど、曲を特定することはない耳。
でも音楽の別の翼をもらった気がした。
音に頼らないなりに、違う見方もできるよっていう翼。

私にとって推しの聖地でもある「翼」が会場近くのマリンウォークにあるので終わったあと見に行った。まさにこの翼をもらった気分。

曲が終わった時、「朝陽」はいなくなって、彼は田中圭に戻り、手をぶんぶんとふった。
順番が違ったみたいだけど、高ぶりがそうさせたのかなって思った。聴衆のエネルギーってすごいもん。
会場は歓喜の渦に包まれた。

そのあとはまた最初の坂上さんに指揮が変わり、私もわかったスイス軍の行軍。

更にその次。位置からしてヴィオラの主席さん?が立ち上がった。
あ!
Mela!じゃない?!とわかった。オーケストラは全然わからなかった私が位置でわかるようになってるんだから、「リバーサルオーケストラ」のおかげだ。正直Mela!は私は曲をよく知らず全然特徴を掴めないんだけど(歌詞は見たから素敵だな、応援歌だなと思ったけど)、指揮をみてるだけで元気でるというか楽しくなる。初めてみたのが出張オケで朝陽の指揮だったから、みんな立ってたし、二階とかにいたし、それぞれへ朝陽が指示出してたあのシーン、足捌きも思い出しながら、双方の指揮を楽しんだ。
それ以降は正直曲が全くわからなくなっちゃったんだけど、目に見えたところでは。
後でチャイコンとわかったけど、その時に門脇麦さんと田中圭さんの2人がそれぞれ好きな場所?に座り、特等席からオケを聞いた時、リズムが2人ともオケと同じだな、なんなら我が推しは指揮と一緒に手も動かしているように見えて、貪欲に身体に染み込ませて、指揮を身につけようとする努力を垣間見た気持ちになって、オペラグラス越しにジーンとする(側から見るとただの怪しい人)。
そして、写真タイム(これもみんなが撮ってるの見て、隣の方も見て、ワンテンポ遅れて気がつく)で3階からの距離でスマホカメラの倍率と闘ったり、最後の曲みんな楽しそうだな!と思ったらあの有名な行進曲だったんだなと後で知ったり。最後は総立ちで最高潮となった。クラシックコンサートなんだけどものすごい盛り上がりようだった。

情報は後で知ることが多く、わかんないことだらけで、孤独を感じ、寂しい気持ちもあったけど、見えるもの全てを吸収しようと頑張った。
個人的にいろんな奇跡が重なって、叶わないと思ったこの場に居合わせることができたので、わからないなりに幸せだなって思った。
会場の天井の高さ、椅子のレイアウト、3階からの視野、どよめき、拍手、聴衆が立った時の高揚感…その場の空気感…スマホが圏外になったことも含めて思い出だ。

わたしなりの充実感をもって会場をあとにして
上で写真を載せた翼を見にいった。
翼があればどこまでもどこまでも
私は飛んでいけるし、
指揮を通して音を「みる」ことで
私なりの方法で楽しめるよ。
その思いを胸にして。

                【おわり】

★おまけ★

↓3階からの倍率そのままの眺めw

↓目一杯の倍率でこれ


ちゃんと「児玉交響楽団」





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