見失ってはならないのは大事なアレでした。
こんにちは。りり子です。
はじめての時って、簡単なこともなかなかできなくて、もどかしい思いもしますよね。師匠には、能面作りを教わっているのですが、その教えもなんだか人生に通ずるところもあるなぁ、といつも思うのです。
はじめての能面づくり、色々な発見や失敗があったのを思い出しつつ書いています。
この日、師匠から教わったのは、「見失ってはならないもの」でした。
さて、前回の初日は顔の輪郭を「お弁当箱」にしたとこまででした。
顔の輪郭がとれたら次は何をやるかというと、縦型をとる!
「縦型をとる」とはどういうことかと言いますと、眉間の真ん中から鼻筋を通っていく顔の中心を縦に走るラインを出来上がり線まで彫る、ということです。つまり、横から見た顔のラインです。
能面は作り上げるというよりは、余分なところを削り落としていくことで形がつくられていきます。とにかくまずはこの横顔のラインまでせっせと削り落としていくのです。
ところが、初心者にはこの作業がなかなか進まない。いらないところを削り落とすといっても、いるところまで削り落としちゃったらどうしよう、とおっかなびっくり彫っていくので、遅々として進まないのです。
「慎重なのはいいことだ。やり過ぎちゃって鼻がこそげちゃうよりずっといいですよ」と、優しい先生のお言葉。
そうか、いいのか、と気を取り直し、それでも少しでも早く彫り進めようとせっせと彫っていると、それを横から見ていた先生が急に低い声で一言。
「正中線だけは見失ってはならぬぞよ」
うちの先生、普段はめちゃくちゃ優しくて誉め上手なのですが、たまに眼光が鋭くなります。
で、「正中線」は何かというと、顔の中心を縦に走る線のこと。つまり、今せっせと彫り進めている部分です。あらかじめえんぴつで正中線を引いてあるのですが、その部分を彫るので正中線は当然消えてしまう。そのままどんどん彫り進めたのでは、正中線は跡形も消えてなくなり、どこが中心なのかわからなくなってしまうのです。
正中線がわからなくなってしまったら、軸がブレブレの「福笑い」みたいな顔になってしまうかも!? それは困る。。。
なので、少し彫るたびに、正中線を書き足さないといけないのです。なんてことのない作業なのですが、少し彫るのに慣れてくると、ついつい夢中になって彫り進めてしまい、ハッと気が付いたら正中線がほとんど無い!
これも日常生活でやりがちだわ。ついね。やらかしてしまうのです、はい。
残っているとぎれとぎれの線をたよりに正中線をつなげていきます。あぶない、あぶない。
「正中線はちょっとずれただけでも、えらいこっちゃになるよ」
えらいっこっちゃですと? どんなこっちゃになっちゃうんでしょうか?
手にとって間近で見てもわかるか、わからないか程度のズレでも、能役者さんが顔につけた時にはっきりとわかるのだそう。
正中線は体の中心を通る線。つまり、おへそを通っていく線だ。ところが、途中からずれてしまった面の正中線は、伸ばしてたどっていってもおへそを通らずななめにそれていってしまうのだ。
つまり、面だけ見てたらわからない程度のズレも、面を能役者さんがつけることで、その歪みが浮き彫りになるのです。恐ろしや。
能面は能舞台で使うためのもの。たとえぱっと見てわからない程度の狂いも命取りなのです。
なんてことのない作業もおろそかにせず、そして、何事も真っすぐ一本、筋が通っていないと、ですね。
今日もありがとうございました。
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