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フェリーに乗ってライラックを見に行く(2)

鍵は感熱紙

新日本海フェリー「らべんだあ」の乗船口をくぐると、乗船記ブログや動画で紹介されている吹き抜けロビーが目の前に。

「らべんだあ」ロビー

もちろんジャンボフェリー「あおい」のロビーより大きく豪華だが、ひと目見て「わー、大きい!」と声をあげるほどではなかった。クルーズ船のロビーはショッピングセンタークラスと聞く。小さなお子さんならば感動して生涯の思い出になるだろうに、年寄りの目はとかく贅沢である。

徒歩乗船口は4階にあたる。客室は4階から6階までの前方(進行側)にある。5階後方にレストラン、グリル、カフェ、船内ショップと飲食関係がまとめられていて、6階後方に大浴場、スポーツルームがある。

私が予約した部屋は5階の「デラックスA和室」。私は洋式ベッドやふかふかのマットレスや大型枕が苦手で、起きると後頭部がずっしりと重く、気分が悪くなる。ひどい時は吐き気まで催してくる。なのでお布団は必須。自宅では硬いカーペットの上に薄い敷布団を敷いてその上に寝ている。自宅の枕は若干のそば殻、寝台車や「あおい」では畳んだバスタオルに頭を乗せる。多少腰に来ても頭痛のひどさには代えられない。宿泊先はできる限り和室があるところを選ぶ。今回の乗船においても一択だった。

まず乗船口左手の案内所でルームキーを発行してもらう。係員がパソコンを操作して…渡されたのは1枚の感熱紙だった。

これが乗船中の生命線

以前は厚紙のカード状ルームキーでドア挿入式だったが、2023年4月からQRコード式に変更したという。要するに「あおい」と同じ形式だが、リピーターさんは拍子抜けするかもしれない。それに高齢の乗客や、幼い子供を連れた若い親などは途中でなくさないか、くしゃくしゃに折り曲げられたり破かれたりで読み込めなくならないかと冷や汗をかきかねない。この方式にするのならばジャンボフェリーと同様、乗船数日前にメールでQRコードを送り、乗船前に各自プリントするかスマートフォンスクリーンショットで表示してもらうかのほうがより安心感を与えられるだろう。2023年5月現在この件に言及している「らべんだあ」乗船記はまだ見当たらない。私は即財布にしまった。

船内一巡

感熱紙をかざしてドアを開け、部屋の入口に荷物を置いたら早速船内巡り。

掲示にはラベンダーの絵が添えられている

私の部屋は右舷側すなわち東向き本州側で、夕陽は見られない。

4階

4階乗船口脇には全体の配置図と施設営業時間表が掲げられている。公式サイトでは案内されていないので重宝する。

船内図
営業時間案内(2023年5月現在)

乗船口脇には記念スタンプコーナーがある。

吹き抜け下の4階ロビーにはミニステージがあり、コロナ前はイベントに使われることもあったらしい。大きな液晶テレビが設置されている。

船内ステージ

4階後方にはアミューズボックスがあり、カラオケやDVDが楽しめるらしい。1時間1,000円。船内DVDレンタルを2023年6月末で終了すると公式サイトで案内されているが、持参の場合ブルーレイ対応かどうかが気になる。カラオケはどこのメーカーを使っているのだろうか。隣にはゲームコーナー。

アミューズボックス

5階

続いて5階飲食ゾーン。レストランの名は「AKANE」。右舷側後方にたっぷりとスペースが取られている。阪九フェリーのように海に面したカウンター席、グループ向けのテーブル席など、座席もバラエティに富んでいる。

「日」「朝」「紫」にかかる枕詞
硝子越しの店

コース料理を出すグリルは「IRIHI」。

万葉集から取っているか

グリルは船外甲板へ出る左舷側廊下を挟んで内側のスペースにある。すりガラスで覆われていて、海を見ながらの食事にはならない。

グリルで出す料理は基本事前予約制だが、スイートルームを予約すると必ずついてくる。会社側は「特典」としているが、乗客側は誰もが「特典」と受け止めてくれるとは限らない。自分の好きなメニューを選びたい、コースの途中に苦手なものがある、海を眺めつつ一杯飲みながら食べたいなどの理由で、スイートルームを体験したいけれど食事はレストランのほうがいい、夏ならば甲板ジンギスカンのほうがいいというお客さんも少なくないだろう。アレルギーの問題も起こりうる。2023年5月現在ランチは4,500円(天ぷらつき)、ディナーは6,000円だから決して無視できない金額である。アレルギーに対する会社の対応姿勢(公式サイト内PDFファイル)を参照しても、少し甘くみているような気がしてならない。かつての「トワイライトエクスプレス」のように、スイートでもディナーは別途予約制にすれば一気に解決するはず。客船業界のステータスなのかもしれないが、それよりもお客さんの好みにできる限り応える姿勢のほうがより共感を呼び、また乗ってみよう、上級部屋を試してみようという意欲にもつながるのではなかろうか。

上の写真にある通りレストランは短時間集中営業制。ラストオーダーも早めに設定されているので、繁忙期は競争が激しいかもしれない。レストランが閉まっている時間帯にはピザ、パスタなどの軽食や飲み物を出すカフェ「CAMEL」が営業している。なぜか「月の沙漠」イメージである。

旅の駱駝が行きました

カフェとグリルの間にある船内ショップには北海道と新潟県にちなむおみやげやTシャツなどのオリジナルグッズ、夜食用のカップ麺や酒類などが販売されている。どうせならばカツゲンやナポリンあたりも置いてほしい。せっかくの北海道航路なのだから。それに食料がここでの販売だと、早朝目が覚めて空腹で、着岸まで何かおなかに入れておきたいという場合に対応できない。「あおい」のように冷凍食品販売機があればとも思うが、新日本海フェリーでは電子レンジを設置しない方針を取っている。私はそれを見越して、新幹線乗車前に地元のコンビニでおにぎりを買っておいた。

ショップでは「御船印」も取り扱っている。「あおい」と同じく300円。御船印ガイドも兼ねた全国各地のフェリー航路紹介本も販売されていた。見本を手にとる。数年前の出版なのでジャンボフェリーは「こんぴら2」「りつりん2」が取り上げられている。以前ならばこの種のおみやげにサッとお金を出していたが、残念なことに私はこの社会で稼いでいく力をあまり持ち合わせていない。仕事のストレスから離れることでこれほどまで心が楽になり、身体もある程度無理が効くようになるとは思わなかった。

80歳を過ぎてから急速に衰弱して世を去った母の最期の姿、90歳を越えても家中物だらけで、大地震後に安全のため少し片づけようとしただけで怒鳴る父の姿も頭をよぎる。今から物を増やしても遺品整理業者の手を余分に煩わせるに過ぎない、このお金は未来の食費・衛生費と自らに言い聞かせる。欲望のダイエットは焦らず地道に少しずつ。

何も買わない以上、ショップに寄り着くのは失礼にあたる。早々に離れる。

5階ロビーには八角の星型に並べたベンチがある。新日本海フェリー提灯が楽しい。隣のチルドレンルームはコロナ対応のため閉鎖されている。

5階ロビー
チルドレンルーム入口

5階前方には進行展望を楽しめるフォワードサロンがある。昔の洋画に出てきそうな高級感を醸し出しているが、「あおい」よりも船体が大きい分海面から遠くなり、景色そのものも瀬戸内海より単調ゆえ、申し訳ないが「あおい」のキャプテンシートの方に軍配を上げたい。「あおい」同様、夜間はカーテンを閉める。

フォワードサロン室内
コロナ蔓延時は座席を間引きしていたようだが元に戻されている

6階

吹き抜け天井のシャンデリアが印象的な6階は左右に大浴場、後方にスポーツルームがある。

6階ロビー
スポーツルームからは甲板が望める

6階にはスイートルームをはじめ上級客室が並ぶ。中央部は部屋を設けず、廊下には明かり取りの窓が並んで高級感を演出している。下々の者は入場罷りならぬとのお触れがある。

6階客室入口

4階~6階間の移動用エレベーターもあるが、階段を使っても大した手間にならない。

甲板に出る

船外甲板出入り口は5階ロビー左舷側および後方、6階のスポーツルーム脇にある。5階甲板の屋根つきスペースにはテーブルや椅子がいくつか据え付けられている。コロナ蔓延前は夏季限定でジンギスカンやビールを販売していたらしい。

甲板屋根つきスペース

後方にはヘリポートがある。その分海から遠くなるので、この面でも「あおい」のほうが好みである。

甲板ヘリポート

ファンネルはさすがの巨大ぶり。このエネルギーが船旅を支える。

SHKグループのSをかたどったデザイン

撮影に勤しんでいたら佐渡汽船のフェリーが入港してきた。この船は両津港9時15分発新潟港11時45分着の「ときわ丸」と見られる。佐渡汽船の港は朱鷺メッセに隣接している。未踏の佐渡を最も近く感じられたひと時だった。

佐渡汽船「ときわ丸」

佐渡汽船の新潟~両津航路にはもう1隻、「おけさ丸」という船があるという。佐渡おけさといえば故・林家こん平師匠の顔がすぐに思い出される世代に私は属する。わたくしにはそういう難しいことはよくわからないのですけれど、何でも食ってしまえばいいんですよ!

部屋に戻りテレビをつけると正午前の気象情報を放送していた。全国放送からローカルに切り替わる時、すなわち11時55分に「らべんだあ」は新潟港を静かに離れた。

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