読了: ゲノムオデッセイ
今回は、私が遺伝統計学面白そう!!と思ったきっかけとなった本を紹介します。それはゲノムオデッセイという本です。
この本を知ったきっかけは、私は医学研究に関わる仕事をしているので、よく羊土社の本を買うのですが、そこで沢山オススメされていたからです。丁度本屋に立ち寄ったときに見つけたので衝動買いしました。
この本は、医学・遺伝子学の教授であるユアン・アンガス・アシュリーさんの経験を元に記されたノンフィクション作品です。循環器系の疾患にゲノム治療の視点から立ち向かっていき、従来の方法では見つけられなかった正しい診断を発見していきます。そのことで、遺伝子情報が重要であるかを教えてくれます。
ページ数は約450となかなかに分厚いですが、バイオインフォマティクス系の専門知識がなくとも読めるようになっています。4部構成からなり、まだ遺伝子情報を採取することが難しかった時代から、最近その可能性が実現しつつある個別化医療(プレシジョンメディシン)まで、書かれています。
ゲノム解析の開拓
この本は、ある一人の男性が自身の全ゲノムデータをアシュリー教授の元に持ってくるところから始まります。この時はまだ、優れたシークエンサーもなく、全ゲノムを得ることは難しく、多大なコストがかかります。そのため、この全ゲノムを使って診断を行う技術もまだありません。
そのため、アシュリー教授は様々な専門家を集めてチームを結成し、この問題に取り組んでいきます。そして、家族歴や様々な検査と合わせて、リスクの高い心疾患をゲノム情報から特定します。
このときに、ゲノム解析によって個人スケールでの適切な治療や、薬の量を明らかにできるかもしれないという未来が見え始めます。
そして、このときに次世代シーケンサーが誕生します。これにより、非常に安価にかつ素早くゲノム情報を採取できるようになります。
希少疾患との闘い
初めてのゲノム解析の後に、様々な患者がアシュリー教授の下に相談に来ます。
涙が出ない小児
上手く歩くことが出来ない小児
生まれつきQT延長症候群と診断された少女
心臓内に腫瘍がある少年
etc…
共通するのは、すぐには適切な治療方法がわからなかったということです。この問題に取り組むために、アシュリー教授はゲノム解析を進化させていきながら、どの遺伝子に異常があるのかを明らかにしていきます。結果、適切な治療を受けることができ、これらの患者を救っています。
これらは希少疾患であり、従来の検査では中々発見することが難しいものでした。それをゲノム解析によって明らかにすることができるのです。
個別化医療に向けて
ゲノム解析が学問で注目されるようになったあと、これがとうとう国家プロジェクトにまで発展します。オバマ元大統領は、一般教書演説でこの話題の「Precision Medicine Initiative」を表明します。これにより、個別化医療の最重要キーワードであるゲノム解析をさらに発展させていくための大規模な臨床試験が計画されました。
その結果、各国の全ゲノムについてデータベース化が進み、誰でも簡単に大量のゲノム情報にアクセスすることができるようになりました。これにより、ゲノム解析による診断は確実性が増し、さらに多くの患者を救うことが期待できます。
※日本でも、東北にゲノム情報を集めているバイオバンクがあります。
また、先天性の疾患は根元治療が難しいとされていますが、遺伝子治療によってそれができるようになるかもしれないと言われています。まだ、臨床でつかうには早いですが、CRISPR-Cas9のようにゲノム編集を行うことが出来る技術があり、筋ジストロフィー症には一定の効果があることが明らかになっています。
最後に
ということで、「ゲノムオデッセイ」を紹介していきました。個人的には、アシュリー教授がひたむきに遺伝子と向き合うことで数多くの命が救われてきたこと、アシュリー教授のチームやその周辺の人の努力によってゲノム解析技術が発展してきたこと、そして、今まさにゲノムによる治療が目の前まで実現していけそうなこと、これらを知ることができてワクワクしました。
私も、今このように素晴らしい時代を生きていく中で、社会に役立つような研究をしていきたいと強く思っています。とりあえず、少しずつでもゲノムの勉強は継続していきたいです!!
最後までお読みいただきありがとうございました。
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