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夢を与える/綿矢りさ

読んだ瞬間から始まる、“阿部夕子”のカウントダウン。

冒頭から明らかに明るい未来はないとわかっていながら、「母親からつながった人間関係のヒビが、どうかゆうちゃんには届きませんように」と願いながら読んだ。
(そしてページをめくるたびにお腹の中がぞわぞわしてくる感じに、「私は“人の不幸は蜜の味”を楽しむ人間なのか…?」と自分に嫌気が差す)

自分の人生を、
芸能人としての阿部夕子も、ただの阿部夕子としての十代も、必死に掴み取ろうとしただけなのに。執着だとしても。

奔走していた場所は雪が高く降り積もった山間だった。
フワフワとした雪上を軽やかに滑り、目の前のことに無我夢中で走り回っていたら突如雪原に亀裂が入り、雪崩になり、雪に埋もれて死んでしまった。

そんな少女の失墜の様に、何度も胸がキュッとなる。

「夢を与える側は夢を見てはいけない」という文章には、「そんな悲しいことがあってたまるかよ…」と頭を抱えた。
そしてラストの描写の惨さと容赦のなさと汚らわしさに感情をなくした。


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