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それゆけ李白マン~中国街歩き詩選~ 第39回 サーモン三人の兄弟!?
(39)このように興味は尽きないが、さはさりながら、長時間かけてモール内のディテールを調査・研究している余裕はない。そろそろ手頃な店を探して、美食にありつきたい。キラキラした化粧品ないし衣料品店テナントを横目に、さあラストスパートとばかりグルメフロアへと向かう。そういえば一階の吹き抜けコーナーには、(日本でもよく見かけるが)無数のボールが敷きつめられた有料遊戯スペースがあって、親子連れでたいへんな賑わいであった。ショッピングモール内だというのに直径20米(メートル)以上、おそらくは野球のダイヤモンドほどの広さがある。小朋友(こども)一人60元、親子で90元という料金体系で安くはない。みんな豪儀なものだ。他には、綿あめコーナーも気になった。標準的な綿あめは10元だが、ヒヨコやブタやウサギなどの形になると2、30元台(約300円から500円)もする。まさに縁日価格。物価高くなったよなあ。
(40)グルメフロアは百花繚乱。いやはや、なんと重慶火鍋、北京烤鴨(ダック)、湖南料理、潮州料理、焼肉、炸醤麺(ジャージアンミエン)、さらに四川風・武漢風の軽食店、ステーキハウスなど数十店を擁する。そこを回遊魚のようにぐるぐる廻りながら、ぼくは悩んだ。選択肢が無数にあって、決めきれない。どの店もだいたい、大判メニューを抱えた若い男女がビシッと入口に立っている。そこで訊ねて回る。これはどこの地方の料理? 店のオリジナル? それってどれぐらい辛いの? 鍋は一人分でもOK? 作るのに時間がかかる? ところで、君は荊州の人? 自信満々にオススメを言い立てる子もいれば、心安く友だち感覚で話しだす子もいる。早口でまくしたてられたり、込み入った話になったりすると、今度はこちらの聴き取りが及ばず、会話も途切れがちになる。そうやってフロアを半周して、ついにぼくが選んだのは、店先に巨大な桃の造花と石灯籠を配した、「双魚先生」という日本料理屋だ。いささか派手な外観だが、価格はそう高くない。手元の口コミサイトでも、一人当たり消費額は約80元(約1,300円)と紹介されている。呼び込みがいないかわりに、此処(ここ)はほどよく賑わっていた。よし、荊州で和食を食べよう。ソレと意気込んで暖簾(のれん)をくぐる。店内のセンスも悪くない。ふんだんに設置された間接照明の下で、人の背丈くらいある桃の造花と、これも大ぶりな松の盆栽が(いささか大味な演出ではあるが)いい味を出している。店内は無垢の木を使用した造作で、半個室あり、お座敷あり、開放的なダイニングエリアあり。おっと、それだけではない。なんと寿司カウンターに、鉄板焼きコーナーまであるよ。うむ、苦しゅうない。ぼくは背包(バックパック)を背負い、ずっと猫背ぎみだった上体をスッと後ろに反らした。
(41)ぼくは入口に近い鉄板焼コーナーを独占するように着席し、鉄板和牛炒飯48元と松茸海鮮湯(スープ)28元、そして三文魚(サーモン)寿司22元を注文した。写真重視のセレクトだ。菜単(メニュー)内容を紹介すると、他には牛丼、鰻丼、海鮮炒飯、海老カレーオムライス、海老の天ぷら、フライドポテト、キャビアとフォアグラの寿司(一貫38元)といった調子である。定番を押さえていながら、ところどころに想定外の顔ぶれがならんでいる(なお、料理名にはご丁寧に日本語も添えられている)。ところで、よく語られがちな中国あるあるで「街で見かけるおかしな日本語」というのがある。むろん、そういう些細な「事故」をことさら強調するのもどうかと思うのだが、久しぶりに目にした日本語にほっこりした気持ちと、その際のごくささやかな笑いを忠実に再現するため、いくつかの「発見」を紹介しておこう。たとえば、サーモンの握り三種(刺身・炙り・マヨネーズがけ)は「三文魚三兄弟」と訳され、日本語名はなんと「サーモン三人の兄弟」。鰻の握りは「鰻魚手握」で、日本語名「鰻の手」。牛丼は中国語名「京都牛肉丼飯」で、これも「京都牛リゾット」と面白表記されている。一つ一つ追及していると、それだけで一冊の本が出来上がりそうだ。味わい深くユニークなこれらの誤訳は、さしずめ自動翻訳の仕業だろう。餅スタイルの和菓子にいたっては、中国語名は「日式大福」とごく普通なのだが、日本語名では「和風ダフ」といよいよ新訳が登場している。まあ、これぐらいにしておこう。そもそも、この日本語表記は(少なくとも今のところは)地元客の目を楽しませる「飾り」にすぎないのだ。
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