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1-2.ライトノベルにおけるオリジナリティの類型【11の実例つき】

どうも、のべろです。

ライトノベル技術体系と銘打ち、
プロ作家が持つライトノベルの技術をnoteに言語化・体系化しています。


前回はオリジナリティ・新規性編の第一回として、
ライトノベルにおけるオリジナリティとは何なのかを解説しました。

前回の要点をまとめると、以下のようになります。

・オリジナリティがある作品とは、物語についての説明を聞いたとき、固有名詞なしでも一つの作品を特定できるような作品。
・その特定に役立つ最も大きな要素こそ、その作品のオリジナリティ。
・オリジナリティは原則として、一つの作品に一つ。
・あらゆる違いは、その大きなオリジナリティから生まれる。

といっても、
これだけを読んで
「あー、わかるわかる」
となるのは上級者だけだと思っています。

今となっては僕もオリジナリティの感覚を掴みましたが、
創作を始めたばかりの僕にこれを言っても
「……なるほど?」と、わかったようなわかっていないような気分になるだけでしょう。

そんな僕がどうやって感覚を磨いていったのかと言えば、簡単です。

それは、
受賞作やヒット作に学ぶこと。

数多くの受賞作、ヒット作を読んで分析しているうちに、
だんだんと感覚が身につき、
今では言語化までできるようになりました。


そこで今回は、ライトノベルにおけるオリジナリティのパターンを、
新人賞受賞作やヒット作を例に出しながら紹介していきます。

この記事さえ読んでおけば、
僕のように何作も読まなくてもすぐにオリジナリティを理解できる……
というのはちょっと言い過ぎで、ちゃんと作品も読んでほしいのですが。
(その方が理解度はグッと深まるので)

それでも、理解を早めるための大きな助けになるはずです。

このパターンを理解しておくことは、
新しい作品のアイデアを生み出すときのアプローチにも大いに役立ちます。

どんな風にオリジナリティを出せば良いのか、
参考にしてみてください。


どこにオリジナリティを求めるか


オリジナリティとは、
その作品をその作品たらしめる違いです。

そのオリジナリティをどこに求めるかを、
ここでは以下の5つに分類します。

①題材
②世界観・設定
③キャラクター
④ストーリー・構成
⑤文章力・アプローチ

ただし、「オリジナリティは一つ」と言っておいて恐縮ですが、
すっぱりと綺麗に分けるというのは難しいです。

「この作品のオリジナリティはここだ」という意見が人によって分かれることも多々あります。

あくまで作品を分析する、新たな作品を作り出すための
フレームワークとして捉えていただければ幸いです。


①題材


オリジナリティのパターンの一つ目は、題材です。

他の作品では扱っていない題材を描くのが、
最もわかりやすいオリジナリティのパターンです。

みんなが知っている、
だけどそれまでラノベであまり扱われてこなかった題材を、
真正面から描く。

面白く書ければ、文字通り唯一無二の作品になります


作例①:「りゅうおうのおしごと!」

新しい題材を描いてヒットさせた例として必ずと言っていいほど例に挙がるのが、
将棋界を題材とした「りゅうおうのおしごと!」です。

最年少で竜王となったプロ棋士と、
そこに押しかけてきた弟子の小学生女子、
そして幼馴染である年下の姉弟子。

そんなラノベらしい関係性で物語を進めるだけでなく、
念入りな取材に裏打ちされた将棋の熱さが作品に反映され、
将棋を知っている人も知らない人ものめり込める作品になっています。

「このライトノベルがすごい!」でも殿堂入りを果たし、
GA文庫の看板作品の一つになりました。


作例②:「のうりん」

農業高校を題材にした農業ラノベ「のうりん」も
同じく白鳥士郎さんの作品です。

やはりラノベ読者にとって馴染みが薄いであろう「農業」という題材を、
ラノベらしい突飛なキャラやギャグだけでなく、
農業という題材が持つ深さ・熱さを見せて物語をもり立てます。

新しい題材を見つけてライトノベルに仕立て上げるのは、
白鳥士郎さんにとっての得意パターンのようです。


作例③:「声優ラジオのウラオモテ」

新人賞受賞作の中では、
声優ラジオを題材とした「声優ラジオのウラオモテ」が
題材をオリジナリティとした成功例です。

電撃大賞の大賞という新人賞で最高の賞を受賞し、
コミカライズ、そしてアニメ化も実現しました。

相性最悪な女子高生声優の二人がラジオ番組をやらされる、という内容で、
凸凹バディが少しずつお互いを理解して成長していくという職業バディものの王道を
声優ラジオという題材で展開しています。

著者の二月公さんが声優ラジオをよく聞いていた経験から発想された作品らしいですが、
何より「声優」という題材が、
受賞後のプロモーションやメディア展開を見通しやすい、とても良い題材でした。

題材選び自体が受賞後の成功に大きく貢献した作品だと思います。


正確に調べたわけではありませんが、
この作品のヒットから声優を題材にしたラノベが増えた印象があります。

新しいオリジナリティを開拓すれば、
ジャンルの先駆者になれる可能性もあります。


②世界観・設定


続いて、世界観・設定にオリジナリティを持つ作品を見ていきます。

これらの作品の特徴は、
世界観や設定を一言で説明でき、
それを聞いただけでその作品が特定できる
ということ。

しかもその設定が一言で「おっ」と興味が湧くものなら
他の作品から一歩リードできます。


作例①:「ソードアート・オンライン」

秀逸な世界観・設定といえば、
ライトノベル最大のヒット作である「ソードアート・オンライン」は外せません。

「クリアするまで脱出不可能、ゲームオーバーは本当の“死”を意味する」

一度聞くだけで興味をかき立てられる唯一無二の秀逸な設定が、
ネット上で熱狂的な話題を巻き起こし、
VRMMOという一つのジャンルを作り上げるきっかけとなりました。

……というのは少し誇張しすぎで、
当時は同じような設定の作品もいくつかあったようなのですが、
キャラクターやストーリーといった技術力が抜きん出ていた本作が
後世に名を残す大ヒット作となりました。

ヒット作を出すためには、
アイデア力と技術力の両方が必要です。


作例②:「ノーゲーム・ノーライフ」

世界観でオリジナリティを発揮するパターンの一つとして、
異世界転移ものの大ヒット作「ノーゲーム・ノーライフ」を挙げます。

本作のログラインは、
「ゲームですべてが決まる世界に転生した人類最強ゲーマー兄妹が、魔法を使う異種族に頭脳戦で勝ち続け、全滅の危機に瀕していた最弱の人類を救う話」
といったところ。

本作の見事な点は色々あるのですが、
やはり目を引く独自設定は
「ゲームですべてが決まる世界」という世界観でしょう。


本作の発売は2012年、
現代まで続く異世界転移・転生の流行の黎明期に登場した作品です。
(「このすば」が2013年、「リゼロ」や「転スラ」、「無職転生」が2014年)

この手の異世界ものは、
「現代人が異世界に行く」というテンプレートの部分は固定として、
「どんな主人公が行くのか」や「どんなヒロインがいるのか」、
あるいは「どんな世界なのか」といった点でオリジナリティを出す
ことになります。

もちろんノーゲーム・ノーライフは
「どんな世界」にオリジナリティを出した作品で、
他にも「どんな世界」に新しいアイデアを加えた作品はたくさんあります。

異世界転生や学園バトルものなど、
オリジナリティの出し方が決まっているテンプレートから作品を発想するのは、
新しい作品のアイデアを出す上で有力な手法の一つです。


作例③:「錆喰いビスコ」

オリジナリティある世界観の新人賞受賞作として、
電撃大賞の銀賞を受賞しアニメ第二期の制作も決定した
「錆喰いビスコ」を紹介しておきます。

本作の世界観を電撃文庫の特設サイトから引用しましょう。

かつて『テツジン』なる防衛兵器が大爆発
したことにより、≪錆び風≫が吹き荒れ
生命を脅かすようになった日本。

そんな世界で多種多様のキノコを操り、
それと共に生きる≪キノコ守り≫の一族。

胞子をばらまくことによって、
諸悪の根源である錆を広げるとの噂から、
キノコは極端に忌避されているため、
迫害を受けた≪キノコ守り≫たちの多くは、
世間から姿を隠して暮らしている。

錆喰いビスコ 特設サイトより

錆とキノコを世界観の中心に置いたポストアポカリプスものです。

選考委員の選評を読むと、
オリジナリティある世界観が評価されていることがわかります。

日本に錆び風が蔓延し、錆を食うキノコを巡るという世界観は、なかなか無から生み出すのは大変ですし、その着眼点の面白さには才能を感じます。

和田 敦(電撃文庫編集長)

この作者、ただ者ではない。作家としての大いなる未来を感じる。禍々しい近未来の世界観に痺れまくった。驚異的な発想力。よくもまあ、次から次へと未知なる生物兵器を思いつくものだ。

神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド取締役副社長)

ただ正直なところ、
この作品をどうやって思いついたのか、
僕には皆目見当がつきません。

再現が難しい、
センスの求められるアプローチです。


③キャラクター


三つ目のオリジナリティの出し方は、キャラクターです。

ここまでを読んでいただくと、
①題材や②世界観・設定でオリジナリティを出すのは難しそうと
思われたかもしれません。

ですが安心してください。

まったく新しい題材や世界観を思いつかなくても、
キャラクターにオリジナリティがあれば問題ありません。

そして、このタイプのライトノベルがもっとも多いです。


作例①:「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」

おそらくここ五年の新作ラノベで最も売れている作品、
通称「ロシデレ」を挙げます。

ロシア語でボソッとデレるツンデレヒロイン、
そして実はロシア語を理解できてしまっている主人公。

このシチュエーション、そこから生み出されるアーリャさんの可愛さが
パッケージから想像できるため、
発売直後から瞬く間に大ヒットとなりました。

この作品に限らず、
現代ラブコメは題材や世界観の新しさが求められないジャンルで、
キャラの魅力を引き出すためのシチュエーションや関係性のアイデアが重要となります。

ここに強いアイデアを出すことが、
ラブコメで受賞・ヒットするための一つのアプローチです。

(追記:ロシデレを分析した記事を投稿しました)

作例②:「ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います」

キャラクターにオリジナリティがあるラブコメ以外の好例として
電撃大賞の金賞を受賞し、来期にはアニメも始まる
通称「ギルます」を挙げます。

世界観はいわゆるナーロッパそのもので、
魔物がおり、ダンジョンがあり、クエストがあり、
主人公はギルドの受付嬢として勤めています。
これらの設定にオリジナリティはありません。

しかしながら、
「受付嬢なのにめちゃくちゃ強い」
「残業は嫌だから、攻略が滞ったダンジョンのボスをソロ討伐する」
「安定職の受付嬢は副業禁止なのでバレてはいけない」
といった主人公のキャラ設定が、新鮮かつ強烈でした。

特に、「残業は嫌!」という主人公の価値観が読者の共感を呼び、
その一点で人気が出たように思えます。

これほどテンプレ的な作品はどうなのか、と
審査会では大きく評価が割れたようですが、
ふたを開けてみれば大ヒット作になりました。

主人公一人に強烈なオリジナリティがあれば良い、
その象徴となるような作品です。


作例③:「探偵はもう、死んでいる。」

MF文庫ライトノベル新人賞で最優秀賞を受賞し、
近年では稀な、スピンオフが数々と出るヒット作になった
「探偵はもう、死んでいる。」をここで挙げます。

この作品のオリジナリティをどこに求めるかについては、
人によって意見がわかれるところだと思います。

世界観や設定にも予想外の仕掛けがありますし、
様々なジャンルを融合させたアプローチこそが最大の特徴だという見方もできるでしょう。

ですが僕の見解では、
「死んだ探偵、残された助手」
という二人の関係性こそが、
この作品の最も大きなオリジナリティだと考えています。

突飛な設定もジャンル分け不能の展開もすべて、
二人の関係性を活かすためにある。
そう思えるのです。

その証拠……になるわけではありませんが、
本作のあらすじ(裏表紙に書かれるもの)では、
世界観のオリジナリティを一切出さず、
なんなら作中にずっと行動をともにするヒロインにさえ触れず、
二人の関係性だけを押し出しています。

高校三年生の俺・君塚君彦は、かつて名探偵の助手だった。
「君、私の助手になってよ」
――始まりは四年前、地上一万メートルの空の上。
ハイジャックされた飛行機の中で、俺は天使のような探偵・シエスタの助手に選ばれた。
それから――
「いい? 助手が蜂の巣にされている間に、私が敵の首を取る」
「おい名探偵、俺の死が前提のプランを立てるな」
俺たちは三年にもわたる目も眩むような冒険劇を繰り広げ――そして、死に別れた。
一人生き残った俺は、日常という名のぬるま湯に浸っている。
……それでいいのかって?
いいさ、誰に迷惑をかけるわけでもない。
だってそうだろ?
探偵はもう、死んでいる。

MF文庫J公式サイトより

基本的には、
作品最大のオリジナリティは
ガワ(パッケージ)に押し出されるものです。

作品の表紙やあらすじを見れば、
作家や編集者がその作品のどんなところを最大のオリジナリティだと考えているのかが見えてくるかもしれません。


④ストーリー・構成


オリジナリティの四つ目は「ストーリー・構成」なのですが、
この手のオリジナリティはあまりないです。

なぜなら、世界観もキャラクターも普通なら、
そこから生み出されるストーリーも普通になるはずだから。

ストーリーとは、その舞台にいるそのキャラクターたちが紡ぐものであり、
世界設定やキャラ設定に基づいて後から生まれるもののはずです。


ですが、一見平凡な物語でも、
物語の切り取り方を変えれば様相が大きく変わることもあります。

これを「設定にオリジナリティがある」と言ってもいいのですが、
少し性質が違うと感じているので分けておきます。


作例:「誰が勇者を殺したか」

2023年発売でありながら単巻10万部を売り上げた記録作、
「誰が勇者を殺したか」を挙げます。

勇者がパーティーを組んで魔王を倒すというストーリーも、
僧侶や聖女といったキャラクターの設定も、
その背景として明かされていく世界の真実も、
悪い言い方をすればどこかで見たようなものばかり。

ですがそんな物語を、時系列を変えて
「すべてが終わった後、王女が勇者の死について調べる」というログラインにし、
勇者パーティーひとりひとりにインタビューすることで勇者の人物像を浮かび上がらせていくという
新しい物語の切り取り方、普通ではない構成の形を採用しました。

大ヒットの要因は様々に考えられますが、
この新しい読み味が大きく貢献したことは間違いありません。


⑤アプローチ


最後に、アプローチのオリジナリティについて。

ここまで解説してきた①~⑤の中でもっと少なく、
実質的に「その他」のように捉えてもらって構いません。

題材も世界観も普通、キャラ設定も目をひくものはない、構成に工夫があるわけでもない、
だけど確かにオリジナリティがある、
そんな作品が確かに存在します。

アプローチという言葉が正しいのかもよくわかりませんが、
そんな作品を紹介します。


作例:「義妹生活」

来期からアニメが放送予定の「義妹生活」は、
親の再婚によりクラスメイトの美少女と義理の兄妹になる、という
ラブコメでは使い古された題材を扱った作品です。

さらに、主人公やヒロインにキャッチーな特徴があるわけでもありません。

ではこの作品のオリジナリティはどこなのかと言えば、
ラブコメラノベ的な題材を私小説的に描いているところです。

従来のラブコメでは省かれていた日常シーンをくみ取り、
キャラクターたちの心情を深く描写する。

この新しい文章アプローチが、
いままでの義妹ものラブコメとはまったく違う読み味を生み出し、
普段はラブコメを読まないであろう読者層にまで作品が広がっていきました。


まとめ


以上、ライトノベルにおけるオリジナリティのパターンを五つ解説しました。

それぞれがスパッと分かれるわけでは決してなく、
曖昧なところもありますが、
物語の構造を捉える上での参考になるはずです。

①題材
②世界観・設定
③キャラクター
④ストーリー・構成
⑤アプローチ

④と⑤は少数派で、特に③が多い、
と認識してもらえれば大丈夫です。

もちろんこの五つに上下があるわけではなく、
どれを選んでも受賞・ヒットの可能性があります。

作品を読むときには「この作品のどこにオリジナリティがあるのか」と、
作品を作るときには「どこにオリジナリティを出せば良いだろうか」と、
考える癖をつけるだけでも力がついていきます。


そして次回はオリジナリティの核心、
「良いオリジナリティと悪いオリジナリティの違い」
について書いていく予定です。

なぜ、オリジナリティはあるのにつまらない作品ができあがってしまうのか。
なぜ、新人賞の評価シートでオリジナリティに低評価がついてしまうのか。

アマチュアの作家が一番知りたいのはここだと思います。

僕も公募時代はここで数々の失敗をしてきたので、
アマチュアがやりがちな失敗のパターンも挙げることができます。

読むだけで未来の失敗を回避できるような記事になるはずなので、
楽しみにお待ちいただければ幸いです。

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