棋譜とかいう奇跡の媒体に感動した話―藤井猛全局集すごいよ日記
Jリーグ再開!したはいいものの、休業期間の埋め合わせでただでさえ忙しいわ、目下第二次感染拡大中わで…サッカーを見に行ってあんなことやこんなことなんて夢のまた夢……。心の泉、枯れ果てております。
それでも初心者なりに将棋に親しむことでなんとか心のうるおいを保っていられる今日この頃です。ありがたやありがたや。観戦で忙しすぎて自分で指す機会はめっきり取れなくなってしまいましたが…。
いやあ、藤井聡太先生、将棋界最強の人たちにも貫録勝ちを続けてるとかマジで恐ろしいですね…。過密日程と勝ち上がりすぎで藤井聡太先生と永瀬二冠と交代交代で毎日見てる気がする。
さて、4月に2年くらい楽しみにしていたコンサート(楽しみすぎて一番いい席を買った)がぽしゃって死んでいた心を救ってくれた神の本が先日やっと来てくれました。それで無事情緒がお亡くなりになったのでここにお墓を建てようと思いました。今回はそういう日記です。
そうだね、「藤井猛全局集 竜王獲得まで」だね。
この本の魅力はもう識者各位によって江戸時代に洋書を勉強した蘭学者かな?というくらいしゃぶりつくされているので、初心者が今更語るべくもないのですが、一言でいえば『大河ドラマ 藤井猛』そのものです。
藤井猛少年がいかにして棋士を志し、何を想い、何と闘い、そして何を成し遂げていったか。本人による述懐だけでなく当時のインタビュー・コラムも掲載される手厚さで克明に記されています。
その中でも最も強く語り掛けてくるのが「棋譜」で、そのスゴさに感動してしまったのでこうして久しぶりの日記行為をしているんですね。
この「棋譜」という記録媒体は実に驚くべきもので、ここで初めてプロの棋譜とまともに接することとなったのですが、符号(指し手の位置と内容)と数字(その手を考えた時間)だけのシンプルな表現で、なんと大きな世界を内包していることか。洗練されすぎている。一戦の棋譜が一つの作品となって見るものを誘ってくれます。
もちろん駒組みもおぼつかない三手先も満足に読めない初心者ですので、楽譜でいうところの音符の形しか見分けられない、太鼓の達人のドンとカッだけを目で追っているような、幼児のように拙い読み方なのですが、それだけでも、映画館で映画を見るような…ホールでコンサートを聴くような…スタジアムでサッカーを見るような…圧倒的な熱量を浴びることができます。興奮して血行が良くなり最近よく眠れるようになりました。お肌もすべすべになった気がする。
自分はサッカーの試合を「こんな試合だった」とブログに残すことを趣味にしているのですが、試合を見ているときの高揚感であったり、感心した部分であったり、その質感というものがどうしても上手く”残す”ことができてないなともどかしい思いをすることがままあります。単純に見る目の不足であったり文章力の不足であるわけですが、サッカーという競技そのものにもそのような「語り」を可能とする言語体系、文法が足りないのかなという気もします。一枚の紙に世界そのものを内包しうるようなシンプルかつ洗練された記録体系。そういうものがある将棋という世界はすごくうらやましいなと思うのです。
もちろん試合を文字でも映像でも記録することは可能ですし、近年の情報機器の発達は選手の一挙手一投足を数値データ・位置データに置き換え、蓄積・分析することを可能としています。ただ、そのプレーが何を目指し、何によって選択されたのか、そして、そのプレーによって、選手自身が、対峙する相手が、戦局が、そして見ているものが、どのように影響され、動かされるのか。そのような「うねり」―それを味わうことが観戦という行為の唯一にして最大の要因であると思うのですが―を表現するには至ってないように思います。
(とはいえ、それはplayerが一人一人人間であることに起因している=情報量が大きすぎて表しきれない、捨象するしかない、ということなのでしょうし、だからこそそこが魅力なのであり、その捨象の仕方こそが表現なのであるという側面もあるでしょう)
音楽は音符と和声体系によってそれを記録し再現可能とします。棋譜もまた、指し手の符号とその消費時間が「うねり」を残し、語ってくれます。私は竜王を取ったころの藤井猛先生を写真でしか知らない(写真すら今回初めて見たに近い)ですが、棋譜は雄弁に先生の強さと美しさを語っていることは分かります。まだ数局しか読めてないけど、めちゃくちゃ強くてめちゃくちゃ美しいんですね。
棋譜がある限り―少なくとも私が生きている間は―いつでも鮮明にこの美しさを味わうことができる。その力はすごいことだと思います。奇跡とすら思います。棋士のだれもがこれが最大の財産であり存在意義だと強調するのも頷けます。youtubeで無断転載とかされたくないよね、そりゃ。
現時点ではただただ白ビールのお母さんに読み聞かせてもらっているだけになっているので、いつかは自分の力で味わいたい。そのためにも勉強しないとと改めて思わせてくれる力をもらいました。
というわけで、ダイレクトマーケティングでした。今日も一局辿ります(まだ”並べる”とは到底言えないので言えるようになりたいです)
それでは。