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【セミナーレポート】建設業におけるAI活用の必要性と取り組み事例

 2024年3月7日に開催されたウェビナー「建設業におけるAI活用の必要性と取り組み事例」は、2024年問題と建設業における作業現場のAI活用をテーマに、パネルディスカッション形式で実施されました。
清水建設とLightBlueが取り組んできたAI安全システム「カワセミ」のプロジェクトを基に、AIシステムの企画から実装、運用に至る課題や対応策を具体的に振り返ります。
 
 企業の検討フェースによって、全社的なAI活用を検討しているケースもあれば、個別の業務部門でAIを活用したい願望があるケースなど、AI活用における立場や目的は様々です。本セミナーではそうした違いを踏まえつつ、プロジェクト推進のあり方についてご紹介します。

登壇者

小島 英郷
清水建設株式会社 土木技術本部 イノベーション推進部 部長
スマートシティ推進室の次世代都市開発部や知的財産部の主席マネージャーも兼務。また、岩盤空洞施設系の岩盤力学や水理学、調査・設計・数値解析・施工計画、建設施工管理(代理人)を行う建設エンジニアの経歴も有り。

大山 巧
清水建設株式会社 技術研究所 リサーチフェロー
約30年間の研究開発業務(専門:海洋・海岸工学)の後、全社の技術開発マネジメントおよびAI活用の推進を担当。工学博士、技術士(建設部門)。

鈴木 修
エヌディーリース・システム株式会社 システム商事部 部長
建設業向けの様々な商品の販売・開発業務の従事

川俣 彰広
株式会社Lightblue 営業部長
新卒で株式会社ワークスアプリケーションに入社しエンタープライズ向け営業及びマネージャーとして個人年間売上No.1、年間目標3年連続達成。2019年からWovn Technologies株式会社にてエンタープライズ向け営業及びマネージャーとして従事し、初年度から個人営業売上No.1を達成。営業支援のフリーランスを経て、2023年にLightblueの営業部長としてジョイン。

Lightblueと清水建設との取り組み:AIプロジェクトの立ち上げの経緯

川俣:
 私たちLightBlueは東京大学発のAIベンチャーとして主に画像解析の技術を使った受託開発に取り組んでいて、清水建設とは2018年からプロジェクトを進めています。

 カワセミという、重機にカメラ取り付け、後付けバックモニターのように安全管理ができる画像解析の仕組みを作った製品を作りました。本プロジェクトのお話と、清水建設さんのAIへのお取り組みについて深掘りしたいと思います。

 はじめに、大山さんが、AIご述の推進担当としてご着任されてからのエピソードをお伺いできますでしょうか?

大山様:
 2018年頃から、松尾先生の講演が世間的に注目され、AIを活用できるのではないかという機運が高まってきたタイミングでした。弊社でも、2018年よりも前からAIを使っている部署がいくつかありました。土木部門はもちろんですが、エンジニアリング事業部でも製品の検査工程で画像認識AIを利用していました。

 しかし、2018年ごろ、AI活用をバラバラに進めるのではなく、全社で統括的に進めるようにと指示がありました。そこでAIセンターという部署が発足され、私がセンター長を務めることになりました。

 私の役割は大きく3つありました。1つ目は、社内のニーズを把握し、どの部門でAIを活用したいか考えること。2つ目は、最新技術の発展を把握し、適切に導入すること。3つ目は、社員全員がAIを使えるようにスキルを向上させることです。

 当時、建設業界では人手不足や2024年問題が危惧されており、最新技術の導入が強く求められていました。国土交通省から業界に対する労働人口減少が指摘されるなど、安全性や魅力向上が議論されていました。

 そうした中、センシング技術やICTを活用すれば、安全性や品質が確保できるのではないかと考え、バラバラだった取り組みを会社として統括する動きが本格化した経緯があります。

川俣:
 AI技術は様々ありますが、御社の中ではやはり安全管理が大きなテーマだったのでしょうか?

大山様:
 はい。安全性向上が最優先課題でした。残念ながら当社でも重篤災害が続いた時期があり、災害ゼロを目指す必要性がありました。

 建設業という業種は、人が教育を受け、人から人へ伝達し判断する形で、人と作業環境の情報を共有しています。物事が存在することをハザードと捉え、リスクを生じさせるという理論的な整理はあっても、現場でそれをどう捉え、フィードバックすべきかが課題でした。

 そこで、8Kカメラによる広範囲の映像から、AIによる物体検知と誘導表示があればわかりやすいのではないかと実験を重ねましたが、人による安全管理だけでは限界があり、画像解析の技術が必要だよね。という議論がありました。

建設現場では機械と人が非常に近い距離で作業をすることから、共存領域 と呼ばれるエリアで事故が多発します。人が注意するだけでは不十分で、うっかりミスにつながりかねません。そこで、ICTによるサポートシステムの実現が不可欠と考えられました。

 現在は様々な監視モニターや管理システムがあり、管理が可能になりましたが、人間には莫大なデータから必要な情報を取捨選択する負荷がかかります。AIの活用によりリスク抽出や事前予測、疲れない継続的な監視がサポートできると期待されています。こうした流れから、AIの安全支援システムとしての活用に取り組み始めました。

Lightblueと清水建設との取り組み:課題特定と情報収集はどうやって進める?

川俣:
 
今のお話から、AIに取り組む話の流れとして綺麗なストーリーだと思いますが、実際はAI技術なのか、それとも課題から考えて解決方法を模索したのだとどちらが近いでしょうか?

大山様:
 
安全管理の課題解決に向け、当初は電波発信タグによる管理を試みましたが、タグの管理や電波干渉による誤作動など、問題が予測されました。

そこで、マルチパーパスに活用できる映像技術に着目し、人が必要とする情報を抽出する方法を探ることにしました。これは、電波管理の問題を解消するための次の選択肢としての検討でした。

土木技術者として、現場の課題を吸い上げ、それを解決するための技術を模索し続けています。課題解決のための投資であり、現場のニーズに応えることが重要だと考えています。

川俣:
 
プロジェクト立ち上げフェーズでは特に、情報収集やプロジェクトを軌道に乗せていくことが大変だと思います。プロジェクト開始当時の苦労話や、どのようにして情報を集め、プロジェクトを軌道に乗せていったのか、お伺いできますか?

大山様:
 
当社には土木、建築設計、建築現業、見積もり、国際支店、エンジニアリング事業本部など、様々な部門があり、それぞれが課題を抱えています。課題設定は、ニーズ起点とシーズ起点の2つのアプローチがありますが、ニーズ起点の方が成功率が高いと考えています。

 シーズ起点の場合、技術オリエンテッドになりがちで、実用化に至らないケースが少なくありません。特にAIの分野では、何ができるのか、使えるデータが本当にあるのかという問題があります。理想像を掲げるのは簡単ですが、実現するためのデータ整備が社内でできているかどうかは別問題です。
 
 AIプロジェクトの成否を分けるのは、課題設定の段階だと思います。課題に対して適切なデータが揃っているのか、アルゴリズムだけでなく周辺部分も含めて見極めることが重要です。実用化に近づくほど、泥臭い課題が山積みになります。

 これらの課題を解決するには、チーム全体が意欲を持って取り組む必要があります。AIに限らず、どのようなプロジェクトでも、この点が成功のカギを握っているのではないでしょうか。

川俣:
 
立ち上げにおける組織論的な部分もお伺いできますでしょうか?お二人の役割として、ニーズを吸い上げ、シーズを共有する部分で課題をお持ちの企業さんも多いと思います。 

大山様:
 
トップからAI活用の指示があったことで、各部門でAIを使った効率化の方法を考える機会が与えられました。これは非常にありがたいことでした。

土木部門でも、AIをどのように活用できるかについて活発な議論が行われ、そこからプロジェクトが立ち上がりました。他の部門でも同様の流れがあったと聞いています。

全社的な組織ができたことで、このような機会が生まれたのは大きな助けになりました。AI プロジェクトを進める上で、部門横断的な取り組みがしやすい環境が整を整えることは重要だと感じます。

小島様:
 
そうですね私大山さんに初めて会ったのがそういうことが始まるんでということで僕からヒアリングをしようという大山さんたちの会議設定に呼ばれたっていうのは多分初めての出会いだったんじゃないかなっていう感じです。

川俣:
 
導入の進め方や難しさというところも感じられていると思います。プロジェクトを進める段階での技術の特定や、ベンダーの選び方はどのように進めたのでしょうか?

小島様:
 
土木分野でAIを実際に導入する段階では、可能性は理解できても、誤検出などの課題が浮上します。試験的に運用しても、現場からは「本当に意味があるのか」という声が上がることもあります。すぐに明確な成果を求められるプレッシャーもありました。

 データの質と量の確保は、建設業界全体の課題だと思います。当社だけでデータを集めても、建設現場の多様なシーンに対応するには不十分です。同じような検出をしたい場合でも、現場ごとに細かいアレンジが必要になることが多く、限定的な対応しかできないのが実情です。

 そんな中、LightBlue社との出会いは大山さんからのご紹介でした。以前は他のベンダーとも協働していましたが、正直なところ、LightBlue社の情熱が際立っていました。

 この情熱が、データ検出の精度を高いレベルで確保できている要因の一つではないかと感じています。LightBlue社との協働により、AIの実用化に向けて大きく前進できたと考えています。

Lightblueと清水建設との取り組み:脱・POC止まり。プロジェクトの実運用への道のりとは

川俣:
 
大山さんにもお伺いしたいのですが、AIプロジェクトを進める中で、誤検知などの課題があったかと思います。また、POC(概念実証)から実運用への移行段階では、様々な難しさがあったと思います。

社内の承認取得や説明、説得の方法、関わり方など、どのように進めていらっしゃったのでしょうか?

大山様:
 
AIプロジェクトを進める上で、POC(概念実証)を何度も繰り返すことが多いですね。まずは、現在の技術でそれが実現可能かどうかを確認するベーシックなチェックから始まります。実用化に近づくにつれ、やるべきことがどんどん増えていきます。

  POCの段階では、AI推進センターのような専門部署が手厚くサポートし、予算も付けて進めますが、実用化の段階になると、ユーザー部門が自ら運用していく必要があります。

これには、データの蓄積やアルゴリズムの更新など、今までになかった手間がかかります。そのため、かかる手間と得られる効率のバランスを見極めることが、実用化の判断基準になります。

AIの出力には曖昧性があり、常に正しい答えが得られるわけではないことも、使えるかどうかの判断に影響します。人間の作業との精度比較などのベンチマークがあれば説得しやすいのですが、全ての課題でそれが可能というわけではありません。

 この点をどのように説明し、理解を得ていくかが、AIプロジェクトの難しさの一つだと感じています。早い段階でこうした見極めを行い、プロジェクトの方向性を定めていくことが重要だと考えています。

川俣:
 
そうですね。AIでの精度100%は難しいので、ベンチマークをどこに置くのかという落としどころと価値が合っているかを早い段階で整理して共有することが大事ですね。小島さんはいかがでしょうか?

小島様:
 
開発段階では、それなりの投資が必要ですが、導入を見据えると、どの程度の開発投資が適切なのかという問題が常につきまといます。

トータルでかかった費用をどのように回収するのか、想定されるマーケットの規模はどれくらいなのかといった点も検討しなければなりません。特に安全管理の分野では、従来は人手でしっかりと対応してきたという認識があるため、AIによる支援の信頼性を確立することが課題となります。

 開発したシステムを実際にマーケットで売り出せるのかどうかの判断は、分野によって異なると感じています。技術的な実現可能性だけでなく、コストと効果のバランス、市場のニーズ、導入への心理的ハードルなど、様々な要因を総合的に考慮する必要があるでしょう。

AIプロジェクトを成功に導くには、こうした観点からの見極めが欠かせません。開発段階から導入後のシナリオを見据え、適切な判断を下していくことが重要だと考えています。

Lightblueと清水建設との取り組み:ソリューションの探し方とパートナー企業の見つけ方

川俣:
 
カワセミのときは、ベンチマーク設定とかターゲットの設定って結構難しかったと記憶しています。

大山様:
 
プロジェクト内の技術検証では、これまでにない新しい技術だったため、必要な予算の見積もりと上司への説得が私の役割でした。その際、ヨーロッパ、特にフランスで開発されていた同様の技術の導入コストを市場調査し、ベンチマークとしました。

実際にその競合品を購入してみたところ、現場での運用にはチューニングが必要で、そのコストが非常に高くつくことがわかりました。通常なら、費用対効果が見合わないと判断し、プロジェクトを中止するところでしょう。

しかし、カワセミの場合は、既存の従来品が競合としてあったため、それをベンチマークにすることができました。技術的な性能と価格の情報を基に、より高い精度や機能を持つ製品を同等の価格で提供する、あるいは技術的な要求を抑えて価格を下げるという戦略が立てられたのです。

一方、使用を想定していた環境は、通信や光環境が悪く、粉塵の問題など、解決すべき課題が山積みでした。当初はそれらに取り組もうとしましたが、商用化のスピードを重視する必要がありました。完璧な製品を目指してさらに5年かけるよりも、現段階で利用可能な製品を市場に出すことを優先したのです。

競合品の存在がベンチマークとなり、技術的なハードルと市場のニーズのバランスを取りながら、スピード感を持ってプロジェクトを進められたことが、カワセミの開発につながったと言えます。 

AIは人間の作業を支援するツールとして捉えるべきで、最終的な判断は人間が下すべきだと考えています。AIのメリットを早い段階で体感してもらうことが、導入の成功につながります。

まずは小さな成功事例を積み重ねながら、AIの可能性を示していくことが重要です。同時に、AIの限界についても正しく理解し、人間の能力を補完するツールとして活用することが求められます。

現場の声に耳を傾け、実際のニーズに合ったAIツールを開発し、その効果を実感してもらうことが、AIの社会実装を進める原動力になるでしょう。技術への過度な期待と懐疑のバランスを取りながら、着実にAIの活用を広げていくことが大切だと考えています。

カワセミのご紹介

鈴木様:
 
カワセミは、建設現場での安全対策を支援するAI補助装置です。画像認識技術を用いて重機と人を検知するため、作業員にタグ等を装着する必要がなく、作業の邪魔になりません。安全性の向上だけでなく、登録制度によって総合評価等でプラスになる点も魅力の一つです。また、施主へのアピールポイントにもなります。

カワセミは、カメラと制御ボックスで構成されており、カメラは比較的安価で交換可能なため、破損しても容易に対応できます。単眼カメラでも座標を認識し、人の位置を把握することが可能です。警告と注意の2段階で通知し、設定は現場ごとに調整できます。モニターとランプで人の位置を知らせ、作業員は警告音やランプの点灯に気づいたときにモニターを確認します。

さらに、カワセミは人の顔の向きも検知するため、作業員が重機に気づいていない場合は必ず警告を発します。また、車両と重機を見分けることができ、レンタル重機にも簡単に取り付けられます。様々な重機での設置例があり、幅広い現場で活用できます。


本セミナーに関するお問い合わせは、
下記のリンク内、フォームにてお寄せください。


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