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Spotify「Genesis 20」


終りからの始まり

Genesis を聴き始めたのは、プログレ5大バンドのなかでは最後でした。1976年のことで、当時はレコードを聴く、イコール収集する、という側面もありました。なので、中学生のぼくの小遣いでは、5大バンドのアルバムをすべてカバーするには相応の時間がかかったのです。また業界的にも Genesis への力の入れかたは、その優先順位は、かなり後ろだったと記憶しています。どこのレコード店でも、Pink Floyd、King Crimson、Yes、ELP、の棚は充実していましたが、Genesis のそれはせいぜい LP が 2・3枚。ぼくが購入した最初の Genesis が「ライブ」だったのは、そういった背景があります。

ライブ盤にはベスト・セレクション的な要素があるため、効率的にアーティストの作品群を知るには打ってつけでした。で、ぼくは「The Musical Box」にヤラれちゃいました。Peter Gabriel のパフォーマンスにヤラれ、ダミ声にヤラれ、バンドの持つ幻想的かつ演劇的な雰囲気に呑みこまれました。しかしもっと衝撃的だったのは、すでに Peter Gabriel が Genesis を去っていたという事実でした。

1975年 Peter Gabriel 脱退 

Genesis ファンのあいだでは、Peter の脱退以前と以後とではどちらの音楽性が好きか、という問いがよく交わされました。現在でもこの問いは生きているのでしょうが、1976年当時は断然「以前派」が優勢でした。それはそうでしょう、これから起こる80年代のポップ化、産業ロック化、プログレ路線の受難、等々を誰も知らなかったのですから。ぼくが魅了されたのもまさしく「以前派」の音楽性です。マザーグースを知ったのも、シアトリカルという単語を知ったのも、全部 Genesis のおかげ。「Supper's Ready」は諳んじて歌えたし、「The Lamia」を聴いては涙を浮かべたものです。

ところが Genesis は他の多くのプログレ・バンドとは異なり、見事に80年代以降の荒波を乗りきりました。Phil Collins をフロントマンに据えることでエンタテイメント性により比重を置き、世界的な音楽マーケットの拡大にうまく対応しました。それも、完全に勝組のポジションで。したがって Peter 脱退の前後比較は、いまもって難問です。おそらくこの問いは次のように言い換えられるのでしょう「あなたはどの時代の Genesis が好きですか」と。時代の変遷とともにスタイルを変えながら、つねにロック・シーンの第一線に立ち続けたスーパー・バンド、それが Genesis です

1977年 Steve Hackett 脱退   

ぼくの場合、Genesis の長い活動期間のうちでいちばん好きなのは、ほぼ Steve Hackett が在席していた時期に当たります。1971年「怪奇骨董音楽箱」~1977年「眩惑のスーパーライブ」の頃ですね。このうち Peter が抜けたあとの作品は「トリック・オブ・ザ・テイル」「静寂の嵐」「眩惑のスーパーライブ」。不思議なことに、これらのアルバムはあとから聴き直すことによって、その魅力が倍増したような気がします。

Steve Hackett という人物自身にもそういったイメージがあります。Genesis メンバーのなかではキャラ的に地味で、いなくなってはじめて存在感に気づいた、というファンもけっこういたと思います。少なくとも彼が脱退するときは、Peter ほどの大騒ぎにはならなかったし、サウンド的にも Tony と Phil がいれば大勢に影響なし、みたいな空気が支配的でした。ところがです、あとになってそれは間違いだと気づきました。 

ライブ演奏を含むギタリストとしての技術、作曲/編曲における貢献度、いずれにおいても失われた Steve の才能が追認されたのです。しかも、それを知るのは、三人になった Genesis がニューアルバムを次々と発表していく一方で Steve もまたソロアルバムをリリースする過程でのこと。つまり、二本の道にわかれた音楽性がそれぞれの正当性を競うような形で、なのです。ぼくらの聴きたいプログレは一体どっちなのだ。そんな自問を繰り返し、ファンは新旧の Genesis を比べていたのだと思います。そしていまも、70年代 Genesis の伝道師として Steve は現役を続けています。

プレイリストの構成 

そういうわけで、この Genesis プレイリストは 主に Steve Hackett 在籍時にフォーカスされています。構成上の特徴として、二本のストリームを合流させた点が挙げられるでしょう。ひとつは 5th「月影の騎士」の夢落ちパターン。アルバムのラストで一周まわった 1曲目のサビをリプライズさせるというもので、これは 10th「デューク」でも使われるほど Genesis お得意の手法ですね。だから 2曲目「Dancing With The Moonlit Knight」と18曲目「The Cinema Show」は呼応しています (本来なら20曲目は「Aisle Of Plenty」なのですが、さすがに 2分のリプライズだけで一枠は割けません)。そしてもうひとつのストリームが「眩惑のスーパーライブ」から大団円 ~ エンディングを採り入れること

18曲目に「The Cinema Show」を置かざるをえなかったのは、この理由もあります。スタジオ録音ではなく、あえて「眩惑のスーパーライブ」ヴァージョンを選び「Dance On A Volcano」~「Los Endos」と一連の流れがシームレスになるように配したのです。

ちょっと脱線しますが、「眩惑のスーパーライブ」には特別の思い入れがあります。というのも、1978年の Genesis 初来日コンサートに行ったときのハイライトが、このアルバムとほぼ同じだったから。Phil Collins がお馴染みのタンバリン芸を見せたあと、まるでフリスビーのようにそれを客席に放り投げたのはいまも忘れられません。いっしょにいた友人 N川くん・S木くんも興奮状態で、ぼくらの右斜め前に飛んできたタンバリンを奪いに行くかどうかマジで口論したっけ、「あのタンバリンもろた奴しばいたろか」「売ってくれへんかな?」「弱そうやで!」「あかん犯罪やないか」。

プレイリストのトリビア

  • 「The Cinema Show」
    この曲をライブ・ヴァージョンで採用したのは先述のとおりですが、もうひとつの絶対的理由は、Bill Bruford がサポートで参加しているから。Phil Collins とのツインドラムなんて、プログレ・ファンには垂涎ものですよね。とくに6分30秒あたりからの壮絶なバトルは永久保存です。どうぞボリュームを最大にして聴き惚れてください ( ↑ のタンバリン動画も、ちょっとしたサブリミナル効果を狙ったわけで)。

  • 「Wot Gorilla?」 
    8th「静寂の嵐」から。Genesis のなかでこのアルバムは過小評価だ、とぼくは考えています。小品ながら「Wot Gorilla?」には Tony Banks のキーボード・エッセンスが詰まっています。伸びやかなシンセリード、早弾きのアルペジオ、徐々に上がり下がりする独特のコード進行。初期はオルガンやメロトロンを前面に出した重厚感のある油絵のような音色だったのが、この頃からデジタルシンセやエレピによって透明度が増した水彩画のような音色に。サウンド意匠が変化しても、Tony のアレンジセンス (素養) は一貫してバンドの基盤だったのだと思います。

  • 「Carpet Crawlers 1999」
    原曲は「眩惑のブロードウェイ」収録ですが、リストに入れたのは99年「Turn It On Again : The Hits」から。あの Trevor Horn がプロデューサーを務め、Peter Gabriel と Phil Collins の二人がともにリードヴォーカルをとる楽曲として再録したものです (録音時は1995年)。Peter が脱退してちょうど20年。Steve Hackett、Mike Rutheford、Tony Banks、Phil Collins、最強のラインナップが一堂に会した、Genesis 最後のスタジオ録音でもあります。時の流れはときに有為です。じっと耳を凝らすだけで、ただ涙が溢れてきます。

そして三人が残った

鋭いファンなら、このプレイリストに9th「そして三人が残った」と11th「アバカブ」がひとつもないことはお気付きでしょう。ぼくが所有する Genesis 全 LPのなかで、このニ枚のアルバムの針溝がもっとも削られていないことを、若気の至りとして留めておきたいからです。

Steve が抜けた1977年から三人体制となった Genesis は、翌年「そして三人が残った」を発表しました。それからの彼らの偉大な足跡・変遷は、若かったぼくの頑なさを試しました。いま思えば、ときには失望し、ときには奮い立ち、ぼくはプログレ・ファンの矜持を拗らせるような時間帯を彼らと共有していたように思います。90年代には、Genesis ってもうほとんど Phil のソロバンドじゃないの、とまで揶揄されます。1996年 Phil Collins 脱退、98年には活動停止。やはり Genesis はイコール Phil Collins だったのか、と思った向きも多いでしょう。しかし、それは違います。Phil が抜けたから Genesis が終わったのではなく、三人のうちの誰が欠けても Genesis は存続不能だったのだ、とぼくは確信しています。

2008年 Phil Collins は脊髄手術の後遺症で引退を表明、手の動きに支障があるため満足のいくプレーはもうできません (ステージに立つことさえ困難です)。最後に ↓ の動画をご覧ください。2022年現在、文字どおりの意味で最終ステージの最終アンコール「Carpet Crawlers」……。他でもなくこの三人だったからこそ、Genesis というビッグネームは掲げられ、守り続けられたのではないでしょうか……。

それでは、また。
See you soon on Spotify (on note). 

1位「Selling England By The Pound」95点
2位「Wing & Wuthering」91点
3位「Foxtrot」90点
3位「The Lamb Lies On Broadway」90点 
5位「A Trick Of The Tail」89点
5位「Duke」89点 

ライブ盤・コンピ盤は対象外

アルバム・ベスト5


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