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研究で行き詰まったときに、思い出すことば

研究は、とかく行き詰まるものだ。

「こんなの余裕っしょ」って思っていたのに、いざやってみるとうまくいかないことだらけ。



僕は物性理論といって、物質の性質について理論的に研究する研究室にいる。

理論研究なので、研究道具は紙とペンと計算機だけ(僕は、研究室のiMacで数値計算している)。

理系と聞いて皆さんがイメージする白衣とか、フラスコとかは一切使わない。理論研究は、実験を全くしないから。

ただひたすら数式を紙に書いて計算し、手計算だけでは解けないものはパソコンで数値計算させる。物性理論の問題のほとんどは手で厳密に解けないので、プログラムのコードを作って数値計算することになる。

僕の研究は、基本的にこれの繰り返し。泥臭くて地味な作業。だけど、この当たり前のことを淡々とこなせる人が、成果を上げていると周りを見ていて思う。



で、このような研究生活を送っているわけだけど、研究が順調にスイスイと運ぶことは、ほぼない

冒頭にも書いたけど、いざ自分で研究をやってみると、問題がたくさん出てくるのだ。



「ちょっと待って、意味わからんエラー出るんだけど」(最近はchatgptの台頭でこの悩みは急減した)

「え、なんでこんな結果になんの?」

「うーん、どこがおかしかったんだろう?」

「そもそも自分が書いているこのプログラムの方向性は、本当に合ってんのか?」

「今日はもう研究をやめて、遊びたい」


そんなことを感じながら、研究をしている。要するに、失敗をしまくりながら進んでいるわけなのだ。

やっぱりなんでも、自分でやってみてはじめて、本当の難しさがわかるもの。だから、自分で実際にやったこともないのに、口出しする人にはならないように気をつけている。



少し話がそれたが、僕はこのうまくいかないことだらけの研究生活をこなすときに、大事にしている言葉がある。

それは、「量子力学の父」と呼ばれているニールス・ボーアの言葉。


エキスパートの定義とは、ごく限られた分野で、ありとあらゆる間違いをすべて経験した人物のことだ。


https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/6d/Niels_Bohr.jpg/225px-Niels_Bohr.jpg


ここで少し、ボーアさんの説明をさせてください。アインシュタインと同じぐらいの功績を残しているのに、アインシュタインほどの知名度がないので、きちんと紹介したいのです。

読むのがめんどくさい方は、すっ飛ばしていただいて大丈夫です。「お偉い物理学者だったんだね」と思ってくだされば、十分です。




ボーアは量子力学の確立に貢献した、超天才の物理学者。この前、相対性理論の記事を書いた。

そしてこの量子力学も難解だけど、とってもとーーっても面白い分野。僕の研究では相対性理論は使わないけど、この量子力学は必要不可欠。

スマホの電子部品や量子コンピュータなどにも、この量子力学の理論がちゃんと使われている。



量子力学は、ものすごく小さいミクロな世界を扱うために生まれた分野なんだけど、私たちの直感では理解できないことが、この量子力学の理論でわんさか出てくる。

だから量子力学がよくわかっていなかった当時は、世の物理学者たちが頭を悩ませまくっていた。これまでの理論では説明できない実験結果が、たくさん出てきていたから。「何これ、全然意味わからないんだけど」の、状態だったのだ。



そして相対性理論を一人で作り上げた、あの変態物理学者のアインシュタインも最初は、量子力学の考え方に異を唱えていた。

「神はサイコロを振らない」という言葉が生まれたのは、量子力学を受け入れらなかったから。(そういえば、これと同じ名前のバンドがいましたね。バンドのメンバーがアインシュタインが好きなのか、量子力学が嫌いなんですかね。勝手に想像を膨らませてしまって、ファンの方には申し訳ないです。)


好奇心旺盛すぎるアインシュタインも量子力学に懐疑的だったので、当時の物理学者の多くも量子力学を受け入れらなかったんだろうな。

そんな中でボーアは、量子力学が正しいと信じていた。ボーア研究所(今はコペンハーゲン大学理論物理学研究所)を作り、そこは量子力学の世界的中心地になっていた。

ハイゼンベルクといった若くて超優秀な物理学者たちも、そこに集まっていたそうです。ボーアさんは、後輩からも慕われていたんだろうな。



そして、量子力学が正しいと思っているボーアと、間違っていると思っているアインシュタイは論争を繰り広げることになる。つまり、ずっとバトっていた。

で、結果は現在の科学が示しているように、ボーアの勝利。にわかに信じられないこと盛りだくさんの量子力学だけど、その理論は本当に正しかったのだ。




ボーアさんの紹介が長くなりましたが、さっき引用したボーアさんの言葉を、もう一度見てみる。


エキスパートの定義とは、ごく限られた分野で、ありとあらゆる間違いをすべて経験した人物のことだ。


あの天才ボーアさんでも、ありとあらゆる間違いを経験したのか。しかも、すべて

ごく限られた分野で、と言っているのも、すごい謙虚。上のレベルに行けば行くほど謙虚な人が多いのは、科学者の世界でも同じなのかな。


この言葉を知ってからは、僕は研究でうまくいかなくても、落ち込みすぎないようになった。

「あのボーアさんですら間違いをおかすのに、ちょっと行き詰まったぐらいでへこたれてる場合じゃないよな」

そう思って、研究に取り組んでいる。もちろん、落ち込んでしまうこともたまにあるけど、以前ほど引きずらなくなった。



そして僕は研究ノートなるものをつけていてそこに、研究していて分かったことや、考えたことを書き留めまくっている。指導教員の方のすすめで、研究ノートをつけるようにしたのだ。

計算結果が間違っていた場合も、もちろんその研究ノートに記録し、失敗した原因だと思われることをメモしていく。

うまくいかなかったとしても、その失敗データは着実に蓄積されていって、段々と正しい方向に修正されいく。「じゃあ次はここを変えれば、うまくいくかも」という心持ちで研究できるので、苦じゃなくなる。


失敗したのではない。うまくいかない方法を1万通り見つけるのに成功しただけだ


はエジソンの言葉ですが、まさにこの言葉通りですね。間違えたとしても、その方法はダメだと確かめられたので、それは一歩前進したことになるのです。



ここまで書いてきて、かなりの文字数になっていました。パソコンを閉じて、そろそろ研究に戻ろうと思います。

今日は、どんな計算結果がでるかな。


ひとつ原因不明のミスがあるんですよね。担当教員の方にいろいろアドバイスをもらいながら、間違いを重ねて確かめていくだけですね。

がんばっぺ自分。あと研究室のみんなも。

自分は大した研究成果も出してないので、頑張るのは当然のことです。就活で研究が滞っていた分、挽回しないとな。僕の周りのみんなは、めちゃくちゃ熱心に研究してます。僕が、「がんばっぺと」とか言える立場じゃない!

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