見出し画像

高知県の人口から考える

note初投稿は高知県の人口についてです。私は2019年に故郷の高知県に戻ってきましたが、その時まで人口問題に大して興味はなく、日本の社会的課題である少子高齢化で人口が減るぐらいの認識しかなかったです。

そんな私が高知県の人口に対して興味関心を抱いたのは、家業のホテル経営を行うにあたり、高知県の状況を頭に入れておこうと思ったからであります。PEST分析の一つとして高知の人口を調べたところ、私の小さい頃の記憶にあった80万人強の県人口は、Uターンした2019年には約70万人になっていました。

そして帰郷して約4年が経った今、現在(2023年12月1日時点)の高知県の推計人口は665,114人(*1)。この人口をどうとらえるかは人それぞれと思いますが、私がUターンした2019年の人口が70万人あった事実を踏まえると、凄まじいスピードで人口が減っていることが明白です。

約4年ほどの間に3.5万人がいなくなる。人口が1,000万人近い東京都なら問題ないでしょうが、高知の場合、人口比で約5%減少しているため、高知における人口減少は「静かな有事」では済まされない危機感を覚えます。

高知県で事業、特に労働集約的な産業と言われる旅館ホテル業を経営する身として、この人口減少が引き起こす課題に対応することは当然です。ただ、これから先は今まで以上の大きな変化が起きることが必然ですので、高知で事業経営をしながら知ったこと、感じたことを以下のような方々に共有するのは大事だと思い、初投稿してみます。

  • 高知県への移住を考えている人

  • 高知県で事業拠点を設けようとしている企業の方

  • 高知県で起業を検討している人


1. 人口減少は高知のどこで起こっているのか

この人口減少が高知県全域で一様に同じスピードで起こっているかというとそうではありません。大雑把に言うと、高知市とそれ以外の自治体で人口減少の現実が大きく違います。

人口動態において、高知県が他県と比較してユニークな点は、まず高知市への人口の一極集中が語られます。事実、高知市の人口は317,521人(*1)と県内人口の48%も占めています。つまり、人口の半数近くが高知市に集中してしまっており、しかもこの比率は年々上昇しています。ちなみに、人口30万人以上を有する自治体というのは、実は全国でも大きい自治体で、県外から観光やビジネスで高知市に来られた方が「高知市って結構賑やかじゃん」と口にされるのも無理はありません。

高知市中心に位置する高知城。小高い山の上にある美しい天守閣がある。

さて、人口の半数が県都である高知市に集中しているということは、当然ですが、他の自治体の規模が極めて小さいということです。しかも高知県は、自治体の数が34市町村もあるため人口が各所に分散しています。高知市に次いで2番目に人口が多い南国市でも45,844人(*1)しかいません。一方、最も小さい自治体は、大川村の342人です(*1)。

県内人口の半分近くが高知市にいるならば、人口減少もその割合に応じて高知市で半分ほど減少していると思われるかもしれませんが、実はそれ以外の地域の割合が大きいです。2019年と2023年の高知県の推計人口(いずれも12/1時点の推計人口)をもとに、人口がどのように変化したか下表にまとめてみました。

表1: 高知県庁HP「高知県推計人口」より筆者作成
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/121901/t-suikei.html

高知市の人口(青色でハイライト)ももちろん減少していますが、減少率は3%にとどまっています。県全体の減少人数33,062人のうち高知市の減少分は11,113人。つまり減少分の1/3が高知市で、残りの2/3が他の自治体ということになります。

しかし、その2/3の自治体の中でも状況は全く異なります。中には人口の減少率が10%を超えている自治体(黄色でハイライト)もあります。その最大の理由が65歳以上の人口割合です。これについては次章で触れたいと思います。

2. 中山間地域の現実

高知県の中で人口減少が凄まじいスピードで進んでいるのが、山間部や海沿いの過疎地域です。これらのほとんどの地域は中山間地域(*2)と位置づけられており、高知県は昨年12月に高知県中山間地域再興ビジョン(素案)として、10年後に目指す将来像を以下のように掲げました。なお、当該ビジョンは現時点では検討段階であり、今後修正される可能性があります。

地域に若者が増えた持続可能な人口構造のもと、デジタル技術の活用などにより、地域で安心して生活ができる環境が維持され、地域に多様な仕事があり、誰もが将来に希望を持って暮らし続けることができる、活力ある中山間地域

出所: 高知県中山間地域再興ビジョン(素案)令和5年12月https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/070101/files/2023120500098/file_2023127417629_1.pdf

私は、ビジョン設定やその実現のためのアクションプランに対してとやかく言うつもりはなく、人口問題が県全体で取り組むべき最重要課題であることには100%同意です。しかしながら、人口減少の問題自体は今に始まった訳ではなく、長年問題視されそれなりに取り組まれてきたにも関わらず、「結果」が出ていないという現実があります。そして、今後日本全体が縮小していく中において、高知県の中山間地域で若年層を増やしていく実現可能性を考えると、とても難易度の高い問題と認識しています。

特に人口減少問題の解決が困難と思われるのが、先ほどの表で黄色でハイライトした自治体、すなわち4年間の人口減少が10%を超えている地域です。これらの地域では、人口が300人台まで減少し(離島を除いて)日本一人口が少ない村の大川村を除いて、65歳以上の高齢化率が相対的に低い自治体(安田町)でも48.0%、最も高い自治体(大豊町)では60.3%にものぼります。

人口構成に占める65歳以上の割合が約過半数かそれ以上であるため、毎年自然減(出生と死亡の差がマイナス)の影響を大きく受けます。もちろん、その分の人口減少を社会増減(転入と転出の差)で穴埋めできれば良いですが、実際は社会減、すなわち移住などの流入人口に対して流出人口が多いという状況です。

なぜ中山間地域から人口が流出するのか。様々な要因が考えられますが、私は主に3つの要因があるのではと個人的に思っています。

・人口減少に伴う内需縮小
上記の統計からみれば、中山間地域の少なくとも過半数が年金生活者(年金以外の収入源として自営業やアルバイトをされている方も一部存在)と推測されます。

もちろん年金生活者も消費者であるため、その数が減少すれば当然地域での経済活動が低下します。商店での買い物、ガソリンの購入、福祉施設でのサービス、ありとあらゆる消費が少なくなっていきます。事業者としては、利益を出すことが年々困難になっていくため、廃業や倒産、よくて事業承継先を探す(年金をもらいながら地域のために事業を継続してくれていた方が多いため、収益性が低く事業承継が難しいというのが現実)ということになります。

実際、 高知県や鳥取県では、昨年JAが過疎地域にある系列のスーパーを閉店させるニュースが報道されました。幸い高知県の店舗や鳥取県の一部店舗では承継先が見つかったようですが、人口減少は今後ますます進んでいくのでこの先も存続できるかは不確実な状況です。

なので、その地域で生計を継続して営む方法としては、内需縮小の直接的な影響を受けない役場のような公的セクターへの就職(奉仕する住民が減少していくため公的部門も縮小を余儀なくされる可能性あり)か、外需を狙える産業、すなわち一次産業や観光客をターゲットにした宿泊業や飲食業への従事、地理的な制約を受けない仕事、例えばIT企業などでのリモート業務、才能ある職人やクリエイターといったところでしょうか。

この中で観光分野は、比較的多くの人が始めやすい業態です。特にデスタネーション(目的地)となれるレベルの飲食店や、宿泊施設、アクティビティ事業を自ら創造できる人にはこういった地域でも機会は十分あると思います。事実、私が暮らしている仁淀川流域では、SUPやカヌーなどのアクティビティ事業者がコロナ前ぐらいから徐々に増え始め、春先から秋口まで車を走らせるたびにアクティビティを楽しむ光景を見るようになりましたし、海外から移住した人が宿やクラフトビールの醸造所を開業するなどの動きも相次いでいます。

私は子どもを連れて仁淀川で川遊びをしたり鮎獲りをして楽しんでいます

高知の中山間地域での観光事業はある程度観光エリアとして認知されている場所がおすすめです。というのは、高知県は観光後進地域といってもいいぐらい観光客数が少ない県であるため、よほどの魅力的なコンテンツと発信力がないと自社サービスの認知まで至りません。

また、高知は実は全国でも行政の観光予算が大きい県でもあります。有名エリアであれば、自社で宣伝広告費をかけずとも少なくともそのエリアに行政が多額の予算を投下して人を集客してくれるので、エリア内で魅力的なコンテンツを創造しSNS等でしっかり訴求すれば比較的人を集めやすいと思います。

・教育の問題
人口減少を食い止めるために、県や自治体は中山間地域に若年層を呼び込みたいと思っています。それは彼らがそこに定住し、後に結婚して子どもを産んで育ててくれることを期待しているからであります。しかしそこに移住する側の視点で考えれば、そう簡単ではない現実があります。もちろん仕事もありますが、子どもの教育環境です。

中山間地域ほど子どもの数が激減しているため、休校や廃校となる学校がどんどん増えています。何とか存続している学校でも、複式学級は当たり前のように行われていますが、同級生、同世代が極端に少ない環境で子どもを教育させることに不安を覚える親御さんも多いのではと思います。

課外活動の選択肢も極端に少なくなります。例えば人気スポーツのサッカーは試合のために最低11人(小学校は8人)を集める必要がありますので、高知の中山間地域の一部では既にサッカークラブや部活がありません。子どもにスポーツをさせたい場合は個人スポーツ(バトミントンや陸上など)を選択させるか、どうしても子どもに習わしたいご家庭は近隣市町村まで毎度車で送迎するという方もいます。

現時点でさえこのような状況のため、2022年の出生数が3,721人と全国ワーストを記録し今後ますます子どもの数が減少する高知県では過疎地域での教育環境や課外活動がますます厳しくなっていくのは明白です。そのため、特にファミリー世帯が流出し移住するのが難しいのではないかと思います。

余談ながら、皮肉なことに中山間地域の自治体に勤める役場の方でさえ、その自治体に居住せず高知市から毎日車で通勤される方も結構います。私は、田舎の役場で働く人=その自治体に居住している人という固定観念があったので、この事実には結構驚きましたが、本人たちを責めることは出来ません。地元の人たちでさえ、様々な理由で都市部の高知市に住むという選択をしている事実があります。

・地震リスク
高知県の人口統計を見ていると、太平洋沿いにある自治体、特に東の室戸市、西の土佐清水市で人口が猛烈に減少してしまっている背景には、南海トラフ地震と津波の問題が結構大きいのではないかと思います。合理的に考えて、そのリスクを回避するために転出したり移住を断念する人が多いのだと思います。

県の公式資料でも、海沿いの地域では30m以上の津波が押し寄せる地域があると述べられています。また津波により国道が寸断されるため、被災後に地域全体が孤立するリスクもしっかり明示しています。

出典: 高知県資料
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/170701/files/2013042400736/file_2021331311442_1.pdf

それゆえ、高知県は津波避難タワーの設置や堤防の増強、橋梁の耐震補強などの防災対策に注力しています。

一方、高知県の山沿いの中山間地域では平野部が元々少なく、土砂災害警戒区域(イエローゾーン)や災害特別警戒区域(レッドゾーン)に住宅があるケースも多いので、地震による土砂災害のリスクが居住選択の際に意識されているかもしれません。

移住検討の際、古民家を探すために各自治体の空き家バンクを利用される方も多いと思いますが、よくよく見てみるとイエローゾーンやレッドゾーンに存在している物件もあります。そのゾーンに入っていなくても、住宅までの道路がそのエリアに入ってしまっている場合もあり、震災時の支援活動に影響がある可能性があるため、各自治体が公表しているハザードマップと照合し確認することをお勧めします。

3. 人口減少はどこまで進むのか

昨年の12月に国立社会保障・人口問題研究所が30年後の日本の推計人口を発表しました。以下にその数字を掲載します。(高知市: 青でハイライト、65歳以上の高齢化率が60%を超える自治体: 黄色でハイライト)

表2: 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」より筆者作成
https://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson23/t-page.asp

高知県の2050年の推計人口は450,980人。2020年からは35%、実に240,547人減少します。直近の2023年12月の推計人口は665,114人でしたので、それとの比較では32%、214,134人減少します。

県内では高知新聞等のメディアで報道され一部の人にとっては衝撃的な数字として受け止められたと思います。また、高知は今回の発表の中で全国ニュースでも取り上げられました。というのは、東北の秋田、青森に次いで人口減少率が最も大きい県だったからです。

この人口レベルを考える上で、過去の人口が参考になります。下のチャートの通り、2023年の人口は既に明治時代を下回っており、2050年の人口はなんと坂本龍馬が生きた江戸時代末期に回帰します。

江戸時代の人口を確認する上で参考にさせて頂いたこちらも参考までに添付しておきます。

出所: 高知大学 文理学部 経済学研究室 関田英里「封建土佐における生産力の発展と地代[1]-土佐藩経済史の基礎数字について」
https://kochi.repo.nii.ac.jp/record/7224/files/001-19.pdf

あと26年もすれば200年前の人口に戻ってしまうというのは、驚きを通り越して思考停止になりそうですが、「人口動態は嘘をつかない」のでそうなると考えるのが合理的です。

そして200年前の当時と異なるのが、人口構成比です。当時の人口構成比は分かりませんが、一般論から考えても現在よりは格段に社会は若々しかったというのは間違いないでしょう。それが2050年に65歳以上の高齢化率が45.6%になります。2023年を基準とした場合、高齢化率は9.2%も上昇します。

さらに自治体別に見てみれば、人口減少と高齢化の見通しは厳しい現実が見えてきます。中核都市である高知市も2050年には241,483人まで人口が減り、高齢化率は42.4%まで上昇します。ただ人口が依然として200,000人を超えているため、全国の地方都市の中でもそれなりの規模を維持している印象を受けます。

一方、中山間地域では状況は一層厳しくなります。例えば、室戸市は人口が68%減少し3,777人になり、このうち65歳以上の人口割合が65.7%。県西部にある土佐清水市は人口が59%減少し5,124人になり、このうち65歳以上の人口割合が65.7%。いずれの自治体も現在の人口でさえ1万人強なので、もはや市なのかという規模ですが、そこからさらに減少し町村レベルの人口になります。

県全体でさらに老いていくことが確実視され働ける生産年齢人口がどっと減少していくため、公的サービスの縮小や、残せるインフラと残せないインフラの峻別が進んでいきそうです。

4. 南海トラフ地震の影響

高知県が抱えている最大の課題の一つに、先述した南海トラフ地震があります。今後30年ほどの発生確率が70〜80%、地震学者の中には2030年代に必ず発生すると明言する方もいます。地震規模はマグニチュードが9.1と想定されているため、今回の能登半島地震より大きく、東日本大震災に匹敵する大震災の発生の確率が年々高まっています。

国立社会保障・人口問題研究所の推計には、南海トラフ地震の影響はもちろん織り込まれていませんが、仮に2050年までに当該地震が発生した場合は地域の人口動態にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

東日本大震災のケースでは岩手の沿岸部から盛岡市に引越しをして盛岡市の地価が上がったという事実があるようです。ちなみに地方での事業を考える上で木下さんのnoteを拝読しています。

だから長く時間をかければかけるほど、地元を離れて経済が周り、雇用も動いている都市部に移住し、生活再建を図るのです。東日本の際にも岩手であれば、結果として地価があがったのは盛岡市です。沿岸部から引っ越して盛岡市で生活再建を図る人が多かったから。宮城ならば仙台市ですね。これが現実です。

https://note.com/shoutengai/n/nd03bf34583f2?magazine_key=m3b7945d80cda

能登半島地震の報道を見ても、住宅や商業ビルの倒壊もそうですが、地域のインフラの破壊が凄まじく復興にはどう考えても時間を要することが考えられます。そして学校などの避難先や快適性に劣る仮設住宅で数年耐えてくれというのは難しく、生活に余裕がある人は金沢市や親族を頼って彼らが住む大都市へ転出する人も出てきそうです。東京都も小池知事が早速公営住宅の無償提供を表明してます。

以上から考えると、津波や土砂災害による壊滅的な影響が出る中山間地域から高知市などへの都市部へ人口が流出してしまうのが現実的な解釈だと思います。つまり、南海トラフ地震が発生すれば、先ほどの人口推計からさらに減少する可能性が濃厚です。

5. まとめ

ここまで高知県の人口減少の現実や今後の見通しを粛々と書いてきました。

人口減少が高知県全体で、そして特に中山間地域でさらに加速し高齢化率が一層高まることは不可避のトレンドと認識した上で移住や事業にチャンレジすれば、将来的に後悔することもないと思います。高知県出身の私でさえUターンした際、高知市の2段階移住の制度を使い高知市に一旦居住した上で県内各地を見て回った後に高知市以外の自治体に移るというステップを踏みました。また、自らの事業においても、人口減少に伴う内需縮小や人手不足の問題に先んじて対処するため、創業以来続いてきた宴会市場から撤退するという決断もしました。

私が好きな言葉に、Creativity Loves Constraints(創造性は制約を好む)という言葉があります。確かGoogleの書籍を読んだ時に出会ったマリッサ・メイヤーの言葉だと思いますが、IT業界だけでなく全ての業界に通ずる言葉だなあと感動した記憶があります。人口問題も同様です。この制約下に置かれているからこそ私たちの創造性が発揮され、良い社会を作ることが出来ると信じています。

高知県への移住や事業に挑戦されることを検討されている方は、是非高知の人口動態を事前に把握されることをお勧めします。

(*1) いずれも高知県HP「高知県推計人口」より

(*2) 中山間地域:高知県HPに詳しく掲載されています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?