ショートショート お守り

小さい女の子が、
「小さい女の子です」
と言って、
僕に頭を下げてきたので、
大人の男の僕は、
「大人の男です」
と返答し、
同じく頭を下げて挨拶を仕返していく。
そして頭を上げ、
小さい女の子に、
「車に気をつけてね」
なんて言っていく訳だけど、
言われた小さい女の子は、
「心配ご無用」
と言って、
ランドセルから交通安全のお守りを取り出し、「車なんて恐くない!」
と言いながら、それを地面に叩きつけた。
その上、小さい女の子は
叩きつけたお守りに中指を突き立てていき、「私を事故死させてみろよ!」
なんて言って、お守りを挑発している。

僕はそんな出来事に、
ただただ困惑し、
小さい女の子をなだめることさえ出来ないでいるんだけど、
別にそれが情けないこととは思わない。
僕は情けなくなんかないさ!
僕はカッコイイよ!
世界で一番カッコイイ!
誰も言わないなら、自分で言ってやる!
僕はとにかく、カッコイイ!

なんて自分を称賛していると、
小さい女の子は、
ますます過激になっており、
お守りを踏みにじっていまして、
「お前を道路上に捨ててやろうか!」
と言っていた。
一体この子は何の恨みがあって、
ここまでしているんだ。
「車に気をつけてね」
なんて言わなきゃよかった。
火を付けたのは完全に僕だよな。
でもまさか、
こんな事態になるとは想像できなかったよ。
てっきり元気良く、
「はい!」
ってお返事してくれるものだと思ってた。
完全なる不測。
不測の事態だ。

とは言えな話、
僕とこの子は、
さっき挨拶をしただけの関係。
別にこの子が、
どんな人間に育とうが知ったこっちゃないな。
交通安全のお守りとこの子の間に
何があったのかは知らないが、
この件から僕は引かせてもらう。

と、意志が固まったところで、
小さい女の子が、
「ウオー!」
と叫びながら、
車が多く行き交う道路の中へと
飛び込んでいった。

その結果、
車と車の衝突が起こり、
大事故が生まれてしまった。
なので、
なんともまぁ、不運としか言い様がない。
本当、不運だったな。
とにかく不運。
この事故についてインタビューされても、
「不運な事故でしたね」
としか言えない。
あぁ、不運。
不運だね。

そして、
この不運を招くきっかけとなった小さい女の子はと言うと、
車にはねられることなく無事、
道路を通り抜けられたみたいだ。
ただ、
道路上には交通安全のお守りが落ちていた。
まぁ、捨ててやろうかと言っていたし、
捨てたんだろうな。
宣言通りってことか。
何はともあれ、無事なのは良いことだ。
でももう出来れば、
あの女の子には会いたくないな。

と、そんなことがあってから二日後。
恋愛成就のお守りを踏みつけ、
「もっと恋の駆け引きさせろよ!
簡単に成就しちゃったじぇねぇか!」
と言っている大人の女に遭遇した訳だけど、
何もそこまで怒らなくてもと思う。
こんな公衆の面前で、
恋愛が上手くいきすぎてブチ切れられるなんて酷いもんだよ。
……って、うわっ!
なんか、ゲロ吐いちゃってる……。
恋愛成就のお守りがゲロまみれだよ。
もう見てらんないな。
……いや、見るけどさ。
ずっと見とくけどさ。
性癖がそうだから、うん。
なんたって性癖がそうだもんで。
でへへ。

と、そんなことがあった二時間後。
学業成就のお守りに五寸釘を打ち込み、
「この世から学業がなくなりますように」
と言っている高校生男子に遭遇した訳だけど、それはもう素通りした。
なんだあれ、って感じ。
明日から頑張れよ。

と、そんなことがあった三日後。
ファミレスにて、
商売繁盛のお守りと一対一で真剣に話し合う、年いってる大人の男を見かけた訳だけど、
急にその年いってる大人の男が、
「なんだよ!
なんでそんな否定的なんだよいつも!」
とブチ切れたので僕はビックリした。

そしてそのあと、
その大人の男は、
「ふざけんじゃねぇ!」
との怒号を店内に轟かせて、
コップの水を商売繁盛のお守りに
ビシャーってぶっかけていき、
ドスドスと退席してった。

だから僕は、
「あらら……」なんて、
リアクションをした訳だけど、
まぁ中々、
素晴らしい感情的パフォーマンスだったな、
と思いましたね、はい。
なんかあの、
破壊性があると言うか、
なんかはい、良かったです。
凄いなんだろう、
心が軽くなったよ、うん。

と、なんだか気分が良くなった三十分後。
僕は川縁を歩きながら、
「こんなのいらないか」
と思い、
健康祈願のお守りを川へと投げ捨てた。

結局、
厄除けのお守りさえ持っていればいいのさ。

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