ショートショート 壊れる

回り回った概念を洗濯機から取り出し、
ベランダのハンガーにかけたら、
野太いアナウンスに従い、
家から出る。

アナウンスは、
「エレベーターを使わず階段を使え」
と指示してくるので、
そのアナウンスに従い、
六階から下りていく。

一階に着いたら、
アナウンスが
ギャルっぽい感じのアナウンスに代わり、
「元気ー?」
と聞いてきたので、
「そんなに」
と答えた。

その結果、
辺りは闇に包まれ、
何も見えなくなり、
身動きの取れない状態になったので、
アナウンスに従い、
電話でペンキ屋さんを呼んだ。

ペンキ屋さんは来た瞬間、
辺りに白いペンキをぶち撒けていき、
一瞬のうちに辺りを元の景色に戻してくれた。

だから、
お礼を言おうと思ったのだけど、
アナウンスが、
「しなくていい」
と言うので、
アナウンス通り、
お礼は言わず、
速やかにお金をお支払いした。

そうしたら向こうは、
「また機会があれば呼んでください」
なんて帰りの挨拶をしてきた訳だけど、
それにもアナウンスは
反応しなくていいと言うので、
アナウンス通り、
それにも反応することなく、
無言を貫いた。

と、
ここでアナウンスが機械っぽい声に代わり、「帰っていくペンキ屋さんの後ろ姿に、
あっかんべーをしろ」
と指示してきた。
なので、
そのアナウンスに従い、
帰っていくペンキ屋さんの後ろ姿に、
あっかんべーをしていく。

さらにはそこで、
「気が狂ったように笑え」
と指示してきたので、
そのアナウンスに従い、
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
と腹を抱えて涙を流し、
気が狂ったように笑っていく。

そうしたところ、
そのまま気を取り戻すことなく気が狂った。
そうなると、
もうアナウンスの声なんて耳に入らない。
もう思うがままに、
と言ったような感じだ。

だからこのまま、
拡声器片手に街頭で、
平和とは何かを
魂を込め叫んでいく。
叫ぶこの口は、
「それは暴力です!
殺戮こそが
この世に平穏をもたらすのです!」
などと主張していく。

すると、
「ふざけるな!」
とじいさんに怒鳴られた。
なので、
「ハハハハハハ!」
って感じだ!
とても面白い!
腹を抱えるほど面白い!
なんだこのじいさん!
面白すぎるだろ!
でもなんだか、
笑いすぎてお腹が痛い。
いや、ホントガチで痛い。
気のせいな気がするけど、
ガチで痛い。
まぁでも、
気のせいだ!
全然、痛くない!
案外、一瞬で気のせいだってことに気付いた。

誰かこの事について表彰してくれないかな?
表彰台に上がらせてほしい。
表彰状は余分に五枚ぐらいくれてもいい。
とにかく表彰されたいんだ。
表彰の申し子になりたい。
またこの人、表彰されてる。
って具合に週三ペースで表彰されたい。
「その功績を称え」
を一番聞いた人間でありたい。

その逆で、
表彰状を渡す側もありだな。
「今日はテキトーに、
百人ぐらい表彰しちゃおう」
って感じで気軽に表彰状をあげるんだ。
間違いなく、
「その功績を称え」
を一番言った人間になれる。
またあの人、称えてるよ。
って、なるに違いない。

でもやっぱり、
逆戻りして、
表彰される側でありたいね。

だからこの身は、
「表彰してくれー!」
とじいさんに泣きながらせがんでいく。
だけど、じいさんは、
「うるさい!」
などと怒って相手にしてくれない。
相手にしてくれないなら、
こっちはじいさんの服を引っ張るまでだ。
じいさんの耳元で、
「表彰してくれー!」
と叫ぶまでだ。
じいさんのおへその穴まわりに手を這わせて、「掻き出していい?
ねぇ! 掻き出していい?」
と興奮気味に聞くまでだ。

と、
そんなことをしていたら、
街中の正義が集まってきて、
捕まえていたじいさんとはお別れになってしまった。
完全に引き離されてしまったよ。
もう号泣!
そして、サンキュー!

じいさんなんか所詮他人だし、
自分の子じゃないし、
我が家の守り神でもないし、
良きタイミングでお別れ出来たと言える。
やったー!
ラッキー!
ハッピー!

これだから正義は頼りになる。
子供が憧れる訳だ。
表彰状、
貰えるんじゃないか?
ちょっとカバンから目を離していたら、
そのカバンに
表彰状が入れられてるんじゃないか?
街を歩いていたら、
スッと表彰状を握らされて、
「おめでとう」
って言われるんじゃないか?

本当、正義って良いなぁ~。
良いけど、
良いけども、
しかし正義ってどうかしてる。
良い行いをするのが癖になってるんじゃないの?
その内、
訪問販売みたいに、
「正義しに来ました。
何かお困りになってないですか?」
とか、やるんじゃない?
訪問正義だよ、訪問正義。

そうなったら、ちょっと引くよね。
引いてるの悟られるぐらい引くよね。
まぁでも、
正義のおかげで
じいさんから離れることが出来たし、
そこは大感謝、
大サンクス。
正しい正義には、敬意を払うよ。
莫大ばくだいに払っていくよ。
持っている敬意は全部、差し出す。
恩師に払っていた敬意も全部、
正しい正義の方に回す。
そうなったら、
もう恩師に敬語を使うことはないだろう。
ネットで悪い評判を流してやるよ。
覚悟しろ恩師!

ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

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