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リンダ リンダ リンダ(2005)

高校生活、最後の文化祭。
ただ、何かを 刻みつけたかった。
 

(山下敦弘監督『リンダ リンダ リンダ』キャッチコピー)


【概要】

『天然コケッコー』や『カラオケ行こ!』など、数々の青春映画を手掛けてきた山下敦弘監督の代表作。高校生活最後の文化祭を控えたある日、ガールズバンドがギタリストの骨折を発端に分裂してしまう。ボーカル不在となり、途方に暮れるメンバーだったが、成り行きから韓国人留学生ソン(ペ・ドゥナ)を新しいボーカルとして迎えることになる。ブルーハーツをコピーしようと決めた彼女たちだが、本番まではたったの3日しかない。果たして、本番までに間に合うのか。2005年7月23日公開。



【解題】

クラスで協力して、文化祭の準備をする響子(前田亜季)たちに対して、韓国人留学生のソン(ペ・ドゥナ)はひとり寂しげな目をしている。留学生という立場を気遣ってか、展示物やプリントなどは先生がすべて用意してくれるので、彼女は仲間と何かを作るという経験を羨ましく思っているのだ。そんな中、彼女はひょんなことから響子、恵(香椎由宇)、望(関根史織)とバンドを結成し、三日間を通してかけがえのない仲間となっていく。甲本ヒロトと真島昌利が都内のバイト先で出会い、ブルーハーツを結成して四十年来の相棒となっていくように、ロックンロールには偶然の出会いというのがつきものであるらしい。

また、ソンがブルーハーツの“リンダリンダ“を聞いて涙する場面も印象的だった。ロックを愛する者なら誰しも、突然流れてきた一曲の歌に打ちのめされた経験があるものだ。ブルーハーツのギタリストである真島昌利にとって、運命の出会いは小学六年生の時、友達の家で聞いたビートルズの“ツイスト・アンド・シャウト”だった。真島少年は、「このすげえ感じ」がなんなのか分からなかった。ただ、少年は「すげえ」と一言つぶやいた後、何も喋れなくなってしまった。レコードがビートルズの曲をひと通り流し終わった後、彼は逃げるように家へ帰った。誰とも喋りたくなかった。「このすげえ感じ」を余計なことをして薄めたくなかったのだ。

同じくブルーハーツのボーカルである甲本ヒロトは、中学一年の頃、マンフレッド・マンの“ドゥ・ワ・ディディ・ディディ”にノックアウトされた。それまで甲本少年は、バンドマンというのは音楽をちゃんと勉強して、楽譜もちゃんとわかっているお利口さんなのだと思っていた。しかし、ラジオから突然流れてきた「ピーピピーピピピ、ピーピーピー♪」というイントロは、彼が思い描いていたような頭でっかちのバンドマンの曲とは到底思えなかった。少年にはマンフレッド・マンが「勉強も練習もいらない。知識もいらない。世の中に必要なものはもっと別なものだし、別なところにある」と歌っているように感じられた。性格が悪くとも、勉強ができなくとも、運動ができなくても、喧嘩が弱くてもいいのだという事実に、彼はがつんと頭を打たれたかのような衝撃を受けた。はじめて、自分という存在が世界から認められたような気がした。少年は号泣しながら、畳を掻きむしった。

耳にまぶたがないと言ったのは、フランスの音楽家パスカル・キニャールだった。嫌な映像が目に飛び込んできたとき、私たちはとっさに目を瞑ることができる。しかし、不意に耳に飛び込んでくる音楽から逃れることは誰にもできない。偉大なるロックスターたちは聞き手の意図にかかわらず、けたたましくスピーカーから飛び出してきて、わたしという確固たる存在を粉々になるまで打ち砕いてしまう。そうして、ロックンロールという啓示を授かった孤独な魂たちは、どこかで同胞と巡り合い、新たな伝道者として、ロックンロールを新しい世代に紡いでいく。『リンダ リンダ リンダ』はそんなことを考えさせてくれる映画だった。


【参考文献】

・秋元美乃・森内淳編(2012)『ロックンロールが降ってきた日』、Pヴァイン・ブックス
・真島昌利(2022)『ROCK&ROLL RECODER』、ソウ・スウィート・パブリッシング

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