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医師がどう働いているか①

2024年4月1日から医業に従事する勤務医の時間外・休日労働時間は、 原則として年960時間が上限となり、今まで青天井だった勤務時間に上限が付きました。
勤務時間を制限することで、地域医療の崩壊や病院の人手不足が懸念されるため、多くの病院が「宿日直許可」を取得しました。
「宿日直許可」は夜勤業務を休憩扱いに出来るという、ある意味、飛び道具のような制度で、今までよりも過酷な連続勤務を課す病院や宿直・当直(勤務内容は実質の夜勤)を無給にすることで給料を下げると言ったような病院も出てきているようです。
逆に、これを機会に医療従事者の待遇改善を試みる医療機関もあり、病院の待遇の格差は大きく広がっています。

医師の待遇や勤務内容はブラックボックスで、近しい人が医師でなければその働き方は予想できないでしょう。

医師の働き方に対して、患者さんの
「入院中、土日も毎日回診に来てくれた。夜も何かがあったときも飛んできてくれた。先生は家に帰っているのだろうか。」
というコメントが見られる一方で、
「入院中に医師が全然会いに来ない。呼んでも、医者が来たのは数時間後だった。まったく患者思いではない。」
というコメントも見られます。
また、クリニックの医師に対しては
「〇〇科の先生が次に来るのは2週間後と言われた。HPに載っているのに、実はクリニックに勤務している医者ではないの?」
と言う疑問も時たま見られます。

病院に居るのか居ないのかが分からない医者はどのように働いているのでしょうか。なぜ患者に会いに行かないのに、過酷な労働となっているのでしょうか。

医師の働き方を理解するうえで、医師の勤務場所と身分で区別するとわかりやすいです。医師と言っても、ペーペーの研修医から、ベテランまでおり、その働き方は全く違います。

医師の勤務場所で区別する

まずは、医師の勤務場所を整理します。
医師の勤務地は大きく分けて3つです。

  • クリニック・診療所:町のお医者さんです。風邪やインフルエンザ、花粉症など、体調不良があったときに最初に訪れる医療機関です。中には入院できるクリニック(19床以下)もあります。

  • 市中病院:100-400床くらいの病院です。〇〇総合病院や〇〇市立病院、〇〇記念病院などがそれにあたります。全ての科がそろっているわけではありませんが、地域の医療の中核を担う役割を持っています。

市中病院はさらに役割で2種類の病院に分けられます。
急性期病院:病気の発症すぐの患者さんを扱う病院です。例えば脳梗塞発症後の診断・初期治療を行う病院です。
回復期・慢性期病院:急性期を脱した後のリハビリや療養などを行う病院です。例えば、脳梗塞後のリハビリや、在宅では看護や医療を提供できない方の長期入院などを扱っています。

  • 大学病院・大病院:700床くらいかそれ以上の病院です。〇〇大学病院などがそれにあたります。ほぼ全ての科がそろっており、市中病院でも治療できないハイリスクの患者さんや希少疾患を扱ったり、超高度医療を提供しています。県に2-3か所程度であり、医療の最終的な砦となっています。また、このレベルの病院は、ほぼ全て急性期病院です。

厚生労働省の病院の区別は、「一般病院」「特定機能病院」「地域医療支援病院」となっていますが、自分自身がはっきりと理解していないため、上記のようなわかりやすい分類をしました。
また、精神科病院のような特定の科のみを扱う病院もありますが、市中病院と役割は似ているため、特別には言及はしません。

医師の身分(立場)で区別する

次に医師の身分で区別します。時々勘違いをされますが、初期研修医を含め、全ての医師が医師免許を取得しています。初期研修医や後期研修医は医学生という誤解が時々ありますが、知識や経験は別として、原則として研修医も院長も同じ医師であり、出来る治療は変わりません。

  • 初期研修医:社会人1-2年目です。所謂、「研修医」でまだ専門分野は決まっていません。様々な科をローテーションして知識を深めていきます。多く場合は上級医(上司、後期研修医やスタッフ)がバックアップとしてついており、単独で治療をすることはほとんどありません。(病院によっては、夜間の救急診療を初期研修医のみで完結するところもあるようです。)

  • 専攻医(後期研修医):社会人3-5年目です。初期研修医が終わり、専門分野に進んだ医師たちです。病院にとって、実質的な一番の下っ端であり、医療の最前線に立ちます。大学病院に入局した医師は、普段の診療だけではなく、医局の雑務もこなすことになります。また、専門分野のキャリアアップのために学会発表なども積極的に行っています。(昔は後期研修医や他の呼び方もありましたが、新専門医制度が開始されて以降は専攻医との呼び方がメインです。病院のプログラムによっては専門医を取る7年目までを専攻医扱いとしているところもあるようです。)

  • スタッフ:病院における専攻医以降の医師たちです。社会人6-20年目くらいまでの幅広い年代で、診療における実働部隊です。専門分野の中でもさらに細分化された専門を持っていたり(例えば、循環器内科で不整脈専門、腹部外科で大腸専門など)します。大学では助教という身分であったり、総合病院では医員、医局員という名称であったりします。クリニックに就職している場合は、院長以外の医師たちのことを指します。

  • フリーランス:少し特殊な身分ですが、大学や病院に所属せずにアルバイトや非常勤で生計を立てている医師たちです。手術やカテーテル、内視鏡の腕のみで生計を立てている医師や検診や外来のアルバイトで生計を立てています。病院の退職後に次までのつなぎとして行っている医師もいます。

  • 大学院生:これも少し特殊な身分です。医師の中では大学卒業後に大学院に進学する人たちもいますが、医学部卒業とともに大学院に入学することはほとんど無く、多くの場合は臨床経験(社会人経験)をある程度経てから入学します。社会人3-10年目程度で入学することが多い印象です。大学院生の扱いも大学によって様々で、学生として病院で働くことは無く研究をしている人もいれば、卒業まで他のスタッフと同様の仕事をした上で終業後に研究をしている人もいます。(後者の場合は大学院生が学費を大学院に払った上で同病院で無給で働くと言ったような無給医が以前問題になったことがあり、現在は大学院生が働いていても多少の給料は出るようになっています。)

  • 部長・科長:その科の長です。大学では教授職であり、管理職を兼ねているときもあります。病院によってはまだ第一線で働いている医師もいれば、手術や手技は行わず、入院患者の受け持ちも無く、スーパーバイザーとして外来や研究のみを行っている医師もいます。逆に外科系だと神の手と呼ばれる医師が部長をしている場合には手術のみ部長が行っているときもあります。

  • 管理職:院長や理事長などです。実際の診療を行っていることはほとんどなく、経営にシフトしています。医療業務の中では外来診療のみを行っている医師もいます。クリニックの院長もここに当たります。

それぞれの区別だけで3000文字程度になってしまいました。
一度区切って、別記事に続きを書きたいと思います。

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