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【読書感想文】器用になりたいなぁ、と。『鍵屋甘味処改』

誰しもが一度はやったことがあると思うんです。
特に男子なら。

スパイ映画とかミステリー小説とかアニメとかで、ヘアピンや針金を鍵穴に突っ込んでこねくり回して解錠するシーンとかってあるじゃないですか。
それを見様見真似で再現して家とか自転車とかの鍵穴に針金を突っ込んだ経験があるんではないでしょうか?

私もやったことがあります。
その時は祖母の家の物置の南京錠でしたが、まさかのまさか、鍵穴に突っ込んだ針金が途中でねじ切れてしまい、その鍵は一発でオシャカになってしまいましたとさ。
なんとも、おまぬけな話です。

その後、開かずの扉となった物置をどうしたのかは覚えていませんが、とりあえずめちゃくちゃに叱られたということは確かです。
私が器用だったらこうはならなかったのか、それとも細すぎる針金を使ったのがいけなかったのか。
とにかく、変ないたずらはするもんじゃありませんね。

今週の物語は、梨沙の『鍵屋甘味処改』です。
親と仲たがいをして家出した少女と鍵師の物語となっており、ジャンルは日常系になるのでしょうか、ラブコメっぽい作品でもあります。
厳密にはライトノベルではないのですが、先週紹介した『お待ちしてます下町和菓子栗丸堂』のように軽く読み込むことができ、通勤通学の電車内での読書などに最適です。
冊数もシリーズで全五巻と、適度なボリューム感がありますね。

ところで、この本の著者である梨沙さんのことはご存じでしょうか?
代表作には『華鬼』などがあり、(同集英社オレンジ文庫にて文庫版あり)独特の世界観や、ありがちな設定のはずなのに珍しさを感じる、ギャップのコントロールに長けた登場人物の表現が目を引く作家さんです。

今作も例にたがわず、魅力的な登場人物が多く、鍵師の淀川は不愛想で典型的な職人気質の気難しい人物かと思いきや、根っからの辛党で手につく料理はすべて自前の一味唐辛子で真紅に染め上げるし、幼馴染に対しては感情の起伏が激しくなったり。
主人公のこずえも、梨沙さんの作品のキャラ性が色濃く出ており、見かけ普通の女子高生なのですが、その破天荒な言動や台詞の細部には梨沙さんのセンスによる素朴かつ独特な可愛らしさが光っています。

あと猫。
可愛い。

勿論解錠のやり方の詳細などは載っていませんが、鍵が一つのテーマとなっており、その分かりやすいテーマから繰り出される緩いストーリーの数々が非常に秀逸で、どんどん物語に引き込まれていく魅力があります。
言わずもがな、素晴らしい作品であることに間違いありません。

ちなみに、物語の舞台が鍵屋であるのにも関わらず題名に『甘味処』と含まれる理由ですが、これはぜひ本編を読んでお確かめください。
ちゃんと和菓子は出てきます。

是非。

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