見出し画像

【きのう何読んだ?】横山秀夫「クライマーズ・ハイ」

照りつける太陽がまぶしい8月12日。必ずテレビで放映されるニュースがある。日航機墜落事故の慰霊登山。御巣鷹山に39回目の夏がきた。

520人の死者を出した未曾有の航空機事故(1985年)については、山崎豊子著の「沈まぬ太陽」があまりにも有名だ。日本航空という巨大組織とそこで働く人々の人間模様を描いた傑作だが、私が好きなのは横山秀夫の「クライマーズ・ハイ」だ。

文藝春秋/2003年刊


本作は地元新聞記者の視点で事故当日からの1週間が描かれる。1面の記事をどうするか、深夜の新聞社の大部屋に激震が走る。日航機はわれわれの地元、群馬に落ちたのだ。大惨事の現場を見て来た若き記者は、息も絶え絶え、口述で原稿を送る。当時、携帯はもちろん、トランシーバーもなかった。臨時デスクに任命された悠木は、無言のまま紙に書き写す。その原稿が、もう載せられないことを伝えることもできずに。

新聞とは、限られた時間と闘い、モラルや社会性に制約される職場。意地とプライド、そこに社内の確執が影を落とす。数日後、悠木たちは事故の原因が隔壁の異常にあるのではないかという情報を突き止める。載せるのか、載せないのか。まだ100%の確信がもてない。世紀の大スクープか、はたまた大誤報となるか…。

「人の命には、大きい命と小さい命があるんですね」
一通の投書にこだわりをみせる悠木。
「悠さん、こんなの載せたら明日の朝は抗議電話の嵐ですよ!!」
いくつもの山を越えながら、悠木は吠える。
「俺は『新聞』を作りたいんだ。『新聞紙』を作るのはもう真っ平だ」

しびれる。ただ、しびれる。

本作はドラマ、映画にもなった。
NHKドラマ(2005年)では佐藤浩市が悠木を演じ、孤独な中年男の哀愁までにじませて好演。映画(2008年)では堤真一が悠木を、若手記者を半沢直樹、いや堺雅人が演じた。堺雅人の並外れた演技に目を見張ったことを思い出す。あの頃から、奴は「別班」だったのかもしれない。


夏だから読んで欲しい一冊。
シリアスな人間ドラマを読みたい方におすすめです。
映画はもう一度観たくなりました。


最後まで読んでいただいてありがとうございます。
よかったら、スキ、フォローいただけるとたいへん嬉しいです。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集