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【閑話休題#30】川端康成『山の音』

こんにちは、三太です。

今回は先日視聴した映画の原作であるこちらの作品を読みます。

映画「山の音」は『空の冒険』の短篇のタイトルの一つとしてあがったものです。
映画を見てみて、原作も読んでみたくなりました。
そして川端康成の作品ということもあって、これは読むしかないなと思い手に取りました。


あらすじ

尾形信吾という六十二歳の初老の男性が語り手となる一人称小説です。
おそらく時代は戦後から数年が経った頃。
信吾は妻の保子、息子夫婦と鎌倉に住んでいます。
この話の筋でまず重要なのが息子の修一が不倫をしているということです。
それは信吾も知っています。
そのこともあって、信吾は嫁である菊子に罪滅ぼしのごとく優しく接します。
その不倫の関係を信吾の立場からどうしていくかというのがこの話を動かしていくポイントです。

また、信吾には房子という娘もいました。
房子には二人の子どもがいるのですが、夫の相原と上手くいかなくなり鎌倉に帰ってきます。
息子、娘ともに上手くいかない結婚生活。
信吾は自分の責任もほのかに感じつつ、話が進んでいきます。

物語上大きな展開となるのは菊子の中絶です。
菊子はようやく妊娠ができたのですが、夫に女性がいるということで子を産むことを拒絶します。
逆に修一と不倫していた絹子は、(おそらく)修一との間にできた子を意地でも産もうとします。
何かが解決する、何か上手くオチがつくという話ではないですが、出てくる小道具のイメージがつながって一つの世界観をつくる話です。

感想

ある小道具が出てきてイメージがつながっていく様がとても川端康成的だなと感じました。といってもたくさん川端康成の本を読んでいるわけではなく、『古都』と『雪国』しか読んでいませんが・・・。
特に『雪国』と小説の進み方が似ていると感じました。
例えば『山の音』では「花・夢・(信吾の)同級生の死」というのがそれぞれ繰り返し出てきます。
花で言うと「公孫樹・寒桜・黒百合・桜・日まわり・曼珠沙華・菊・もみじ」など本当にたくさん出てきます。
そして、信吾が思いを寄せる(?)息子の嫁の名前も菊子です。
また夢についても「松島の夢・あごひげの夢・みだらな夢・陸軍将校の夢・卵の夢」と多種多様です。
夢は信吾の現実やその捉え方にも深く関わってきます。

信吾は保子のきれいな姉への憧れや美男子であるその夫への負い目などを持っていて、その感情はとてもわかりやすいものです。
複雑なものを描いていそうで、その根本となる感情はとても俗でわかりやすいのです。
他にも器量の良くない房子より修一を可愛がったり、菊子を可愛がったりするのも同様です。
そのアンバランスさが不思議な小説でもあります。

映画を見たときも思いましたが、(そして信吾の一人称ということも関係して)やはり修一の思いが謎すぎました。
修一のしていることは単純にひどいです。
もちろん人間だから悪いこともしてしまうと言ってしまえばそこまでなのですが、それがどこから来ているのかがあまりつかめませんでした。
一つ言えることは修一にとって戦争体験は大きかったのかなということです。
南方の島に行っていたという描写がありました。
絹子・池田が戦争未亡人だということも踏まえると、この作品には大きく戦争が影響しているとも言えそうです。
 
向日葵を見る義父の顔義父の声

その他

・映画との違い
 →基本的に小説の方が情報量が多かったです。
  映画にはなく、小説で取り上げられていたものは「同級生の死」「相原の心中未遂」「戦争未亡人」などが挙げられます。
  特に、僕が見逃していただけかもしれませんが、絹子と池田のつながりは「戦争未亡人」だったということはかなり重要なことでした。(映画を見ただけでは二人に同性愛的関係があったと思っていたので)

・エドワード・サイデンステッカーの翻訳により1971年、日本文学として初めて全米図書賞(翻訳部門)を受賞しています。

今回は『空の冒険』に出てきた映画「山の音」の原作の紹介でした。
川端康成の作品を読めて良かったです。
他にもたくさんあるので、また機会があれば読みたいです。
 
それでは、読んでいただき、ありがとうございました。

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