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【作品#23】『あの空の下で』

こんにちは、三太です。

最近はずっと『アイルランド短篇選』を読んでいました。
アイルランドについては、ラグビーを通して興味を持ちました。
特にプレーが好きとかいうわけではなく、試合前に行なわれるアイルランド国歌の斉唱がカッコいいなと思っていたからです。
いくつもの短篇を読むことで少しずつアイルランドという国を掴めてきたような気がします。
短篇に主に描かれるテーマは「貧困」「過疎(ポツンと一軒家)」「他国との対立(特にイギリス)」のようなものでした。
ヨーロッパの遠い国ではありますが、島国ということも含め「少しわかるな~」と思えるところもありました。

では、今回はnoteでは『あの空の下で』を読んでいきます。

初出年は2008年(10月)です。

集英社文庫の『あの空の下で』で読みました。

あらすじ

ANAグループ機内誌『翼の王国』で連載された12の短編と6つのエッセイです。
短編については30代あるいは40代になった語り手が20代前半を振り返って語っていく話が多いです。
エッセイについては東南アジアとヨーロッパの主な都市を訪れたときのことが綴られます。
機内誌に掲載される文章ということでどちらについても旅行が関係するものがほとんどです。

公式HPの紹介文も載せておきます。

ANAグループの機内誌『翼の王国』での連載が1冊に。『男と女』や『恋する惑星』、『東京画』など、映画のタイトルがついたショートストーリーと、著者の旅先での出来事を綴ったエッセイ『旅、たびたび』で構成されている。機内での夫婦の何気ない会話、どんな言葉よりも励まされた他人宛の手紙、11も年下の彼との香港旅行。小説になる日常は誰にでもあるのかも知れないと思わせてくれる、ドラマチックではない、しかし長い余韻のあるドラマが収められている。

出てくる映画(ページ数)

①「自転車泥棒」
②「モダンタイムス」
③「男と女」
④「小さな恋のメロディ」
⑤「踊る大紐育(ニューヨーク)
⑥「東京画」
⑦「恋する惑星」
⑧「恋々風塵」
⑨「好奇心」
⑩「ベスト・フレンズ・ウェディング」
⑪「流されて」   
(目次 短編のタイトル)

⑫「東京タワー」(p.127)

電話では強がっていたが、きっと心細い思いをしているに違いないと、仕事まで休んでやってきたのに、有り難がられるどころか邪慳にされて、気がつけば、悔しさ紛れに小言ばっかり言っていた。
「あんたねぇ、世の中にはリリー・フランキーさんみたいな母親思いの人もいるのよ。ちょっとは、『東京タワー』見習いなさいよ!」
着いたその夜、見知らぬ土地で心細い母親を置いて、「俺、今夜、サークルのコンパだから」と渋谷に出かけようとしたときには、さすがに我慢できずにそう言った。

④「小さな恋のメロディ」(p.145)

何にでも詳しい亜希子の話では『小さな恋のメロディ』という昔の映画で、子供たちだけで結婚式を挙げるシーンがあるらしい。とても可愛くて神聖なシーンだったらしい。

⑬「てなもんや商社 萬福貿易会社」(p.174)

ラオスという国を意識したのはいつごろだったろうか。記憶を遡ってみると、もう十年近くも前になるが、『てなもんや商社 萬福貿易会社』というコメディ映画があり、そのラストシーンで耳にしたのが最初だったような気がする。

⑭「カリオストロの城」(p.183)

両店のメンバーズカードまで持っているという彼女から、ずっと誘われてはいたのだが、子供の頃からほとんど漫画を読んでおらず、国民的映画であるジブリ作品でさえ『カリオストロの城』しか観たことがないくらい、その手のエリアとは無縁な人間だったので、なんだかんだと理由をつけて断っていた。

今回は以上の14作です。
吉田修一作品でこれまでに取り上げられた映画と重なるものも複数含まれます。
 

感想

まず、公式HPの紹介文にも書かれていましたが、短編のタイトルはほぼ映画のタイトルが使われているというのが驚きでした。
はじめ「小さな恋のメロディ」「恋する惑星」「恋恋風塵」などが他の作品にも出てきた映画だったので、まさかと思って調べてみると他にもたくさん映画のタイトルが使われていました。
逆に言うと「願い事」という一つ目の短編は唯一映画のタイトルではなく、これはなぜか気になりました。

また、吉田修一作品に繰り返し表れるモチーフが今回も出てきました。
「衝動的な行動」「同性愛」「バスケ部設定」・・・。
あ~吉田修一作品だなという感じでした。

エッセイはいずれもさらっと読めるものでした。短編についていくつか印象的だったことをまとめてみます。

「自転車泥棒」という話では、語り手である女性が同じマンションに住む別の部屋宛ての封書を取ってしまうという衝動的な行動を起こします。
結果的には丸くおさまるのですが、なかなかギリギリを攻めているなという感じです。
「踊る大紐育(ニューヨーク)」は、ニューヨークでの女性とのひょんな出会いが描かれ、なかなか味わい深いです。
「東京画」は、雅夫と島本の親友としての関係性が逆説的で面白いです。
いずれの話も旅情を誘う良いものでした。
そして、吉田修一さんにとっての映画の存在の大きさを改めて感じさせる作品でもありました。
 
裏切って裏切られ僕ら花見酒
 
以上で、『あの空の下で』の紹介は終わります。
旅情をそそられる1冊でした。
 
次回は映画紹介をします。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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