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【作品#45(44・21の間)】「命綱」『青春 コレクションⅠ』より

こんにちは、三太です。
 
お盆休みが終わりました。
夏休み自体はあと2週間ほどありますが、実質的な休みはもう終わったということでいくばくかの寂しさがあります・・・。
どっぷりと休みモードに浸かっていたので、ボチボチと心身ともに仕事モードに戻していこうと思っている今日この頃です。

では、今回は吉田修一さんの個人全集全四巻の一巻目にあたる『青春 コレクションⅠ』の単行本未収録作「命綱」を読んでいきます。

初出年は2008年(1月)です。
これまで紹介した作品で言うと「紙吹雪」(『青春 コレクションⅠ』)と『静かな爆弾』の間に書かれた作品です。

文藝春秋の『青春 コレクションⅠ』で読みました。


あらすじ

25歳の「ぼく」(杉浦公平)は高校の同級生、ヤコと同居しています。
「ぼく」も「ヤコ」も共に同性愛者同士であり、同性愛者同士の異性が同居をするという設定の面白さがあります。
この作品は明らかにLGBT、特にゲイがテーマとなっており、ゲイについて、「ぼく」の恋愛や社会での受け入れの様子を通して綴られます。

単行本未収録の作品。
初出は恋愛小説専門の小説誌『Feel Love』のVolume2。
Volume1に掲載された「紙吹雪」の続編としても読めます。

出てくる映画(ページ数)

今回はありませんでした。
 

感想

ゲイの視点がかなりリアルに描かれていました。
例えば、「相変わらず男の子は無防備で、試聴コーナーではしゃがみ込み、その美しい背骨を惜しげなく見せている」(p.200)や「その伸びた喉に、逞しい喉仏が浮かぶ」(p.220)など「ぼく」が男の子を見るときに、背骨や喉仏に目が行くという点にリアルさを感じました。

ゲイに対する考え方では男性と女性が対比的に描かれます。
男性、例えば「ぼく」の勤める会社の社長や「ぼく」の父親はまだゲイに対する理解がありません。
その存在を認められないという感じでしょうか。
逆に女性、例えば「ぼく」の勤める会社の先輩鹿嶋さんや「ぼく」の母親は、最初は戸惑いこそあれ、軽やかにその事実を受け入れていきます。
「ぼく」の母親などはLGBTの理解を目指すため区議選に立候補した学者の選挙の手伝いにまで来ます。
しかもとても明るい様子で。
かなりこの辺りは意図的に男女の違いが描かれていると感じました。

また、この話が面白いのは「紙吹雪」との繋がりです。
「東京ロミオ」というバンドの存在が二つの話を繋げています。
それに、「ぼく」がヤコと同居する部屋を掃除するシーンでは「東京ロミオのCDをかけながら、シーツを替え、床を拭いた。『紙吹雪』という妙に甘いバラードを聴いていると、コンビニの宮田くんの顔がふと浮かぶ」(p.218)とあり、「紙吹雪」という曲自体も出てきます。(甘いバラードだということもわかりました)
この辺りに続編としての意識があるように感じました。

映画との繋がりで言うと、「ぼく」がツタヤで青年がCDを万引きするところを見るシーンで、「美しい犯罪者」(p.201)という言葉が出てきて、これは前回「紙吹雪」で登場した「ハンニバル・ライジング」のハンニバルに通じる表現だなと思いました。(どこまでインスピレーションに関わったかはわからないですが・・・)

秋の野を君の背骨が美しく

以上で、「命綱」の紹介は終わります。
「ゲイ」について色んな視点から描かれた作品でした。

次回も単行本未収録作の紹介をしたいと思います。

それでは、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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