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【作品#31】『愛に乱暴』

こんにちは、三太です。

お祝い事があり、秋の味覚マツタケを家族で食べに行きました。
鍋やてんぷらやごはんなどマツタケづくしでした。
やはり季節のものをいただくのはいいなと思った今日この頃です。

では、今回は『愛に乱暴』を読んでいきます。

初出年は2013年(5月)です。

新潮文庫の『愛に乱暴』で読みました。


あらすじ

初瀬桃子は結婚8年目。
夫の真守との間に子どもはいません。
そんな夫に浮気相手の影。
異変に気づく桃子。
夫はどのような行動に出るのか。

桃子と真守は、真守の実家の離れに住んでいます。
その離れと病気で倒れた義父の間には秘密のつながりがありました。
そのつながりと絡む1956年の事件。
桃子が突如取り出した謎の行動…。

全20の章は浮気相手の日記、桃子の語り、桃子の日記という流れで展開します。
途中そこに隠された秘密も明らかに。

公式HPの紹介文も載せておきます。

これは私の、私たちの愛のはずだった……。夫の不実を疑い、姑の視線に耐えられなくなった時、桃子は密かな衝動に身を委ね、×××××を手にするのだが――。デビュー以来一貫して、「人が誰かと繋がること」を追究してきた著者が、かつてない強度で斬り込む女性の業火。夫婦とは何か、家とは何か、妻が欲しかった言葉とは何か、そして本当に騙していたのは一体誰なのか?

出てくる映画(ページ数)

①    「流れる」(下巻 p.145)

時枝おばさんが床下に隠しておいた新聞と同時代のもので、不審火の容疑者になった当時の東京がどういう風景だったか確かめたくなったのだ。小さなビデオ店で借りられたのは成瀬巳喜男という監督の『流れる』という映画だけだった。田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、と錚々たる女優が出演している。さっき冒頭を少しだけ再生してみたが、花街の置屋が舞台とはいえ、この当時の女性はほとんどがまだ着物を着ていたようだ。

今回は1作だけでした。
ただ、上巻のp.37にいかにもありそうな映画「愛、名誉ならびに権力」というのが出てきます。
こちらは吉田修一さんが小説用に作った映画名だと考えられます。
 

感想

この小説では桃子の多面性が描かれます。
例えば、浮気が発覚した後、桃子は夫に78回発信履歴を残します。
また、家でチェーンソーを持ってポーズを取ったり、そのチェーンソーを使って畳の下の地面を掘ったりするなどの奇怪な行動もとります。
語り手であるからこんなものかなと思って読んでしまいそうになりますが、客観的に見てみるとけっこう怖いです。
あと桃子には隠された秘密があり、読む中でそのことも明らかになります。
一方、浮気相手の女が階段から落ちた時は助ける行動をとり、人間性が感じられます。
一面では捉えられない様が正に人間だなと感じました。

この小説は各章に挿入された日記で登場人物の気持ちが明らかになる設定となっており、そこはとても面白いところです。
桃子自身が「なぜ畳の下の土を掘ろうとしたのかはわからない」(のにやってしまう)のが、何度も罪を描いてきた吉田修一さんの作品らしいなと思いました。

秋の暮畳を返しチェーンソー

映画とのつながり

公式HPの担当編集者「ここだけの話」に次のようなことが書かれていました。

装丁は吉田さんと打合せた結果、デヴィット・リンチの「ブルー・ベルベット」をイメージしたものになりました。もっともこの小説は、あの映画よりも、さらに深く個人の魂を掘り進み、さらに優しい作者の幅みたいなものが出ています。

おそらく単行本の装丁のことかと思われます。
以前、映画「ブルー・ベルベット」は取り上げたことがあるので、それとのつながりを感じました。

以上で、『愛に乱暴』の紹介は終わります。
桃子という登場人物のわかるようでわからない部分がとても興味深い作品です。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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