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【作品#25】『キャンセルされた街の案内』

こんにちは、三太です。

最近久しぶりに文学YouTuberのムーさんの動画を見ました。

大江健三郎やバルザックの動画を見たのですが、その丁寧なまとめにとても刺激を受けました。
特にバルザック、人間喜劇の89冊まとめは圧巻の一言です。
その熱量に触れられて良かったなと思っています。
吉田修一さんはもちろんなのですが、少し前に集めていた辻原登さんや絲山秋子さん、西村賢太さんの著作を改めて集め直して読みたいなと思っている今日この頃です。

 では、今回は『キャンセルされた街の案内』を読んでいきます。

初出年は2009年(8月)です。

新潮文庫の『キャンセルされた街の案内』で読みました。

あらすじ

表題作を含む10の短編集。
どの短編も長編へとなっていきそうな予感のあるものばかりでした。
映画的エピソード、家出、犯罪、同性愛、実の親の不在など吉田修一作品に繰り返し出てくるモチーフもたくさん登場します。
そういう意味で言うと、10の短編を何かに抽象することは難しいのですが、吉田修一さんが書いた作品であることは確かなように思いました。(まぁ当たり前のことですが…)

いくつか紹介してみると、
新入社員との恋の予感がする「日々の春」
冷静に考えれば怖いはずなのになぜだか怖くない不思議な話の「深夜二時の男」
閉じ込められた関係から抜け出す様が歯にたとえられている「乳歯」
こういった感じです。

公式HPの紹介文も載せておきます。

働きながら小説を書いている男の元に、無職の兄が転がり込んでくる。兄とのふとした会話から、男の脳裏に故郷長崎にある廃墟の島・軍艦島で案内をしていた幼き日の思い出が浮かぶ表題作。絶対にいやな思いをしない場所、といって連れていかれたパークハイアット東京での完璧な時間(『台風一過』)。極寒のソウル、お粥屋ですれ違う日本人の女と韓国人の男(『零下五度』)。「短編小説は交差点のようなもの、ここでの出会い頭のようなものを小説にしていく」と著者自ら語るように、ひとつの場所での景色から始まる物語たちで構成。吉田修一初めての短編集。

出てくる映画(ページ数)

①「カポーティ」(p.171)

呆れたように連れがそう呟いて掲示板の前を離れる。そうなのか。二十年で変わったのは画質だけで、同じ映像がよく見えるようになっただけなのか。「そう言えば、先週、『カポーティ』って映画観たよ」
歩き出した連れの背中に声をかけた。
「カポーティ?」
「まだ読んでないよな?とにかく映画はわりと面白かった。『冷血』って小説を書いたときのことが題材になってるんだけど、カポーティは犯人が死刑になることを最後に望むんだ。自分に似ているからこそ深入りしていったくせに、その犯人の死を望む。理由は死刑にならないと小説の結末が書けないから。で、犯人は死んで、カポーティは小説を完成させる。ただ、この作品のあと、何も書けなくなったらしいよ。で、死後、未完成のまま残った小説のタイトルが『叶えられた祈り』」

②「アウグスト・ザンダー」(p.181)

今日、六本木でDVDを買った。アウグスト・ザンダーという写真家を扱ったドキュメント映画だ。特に好きな写真家というわけでもなかったが、レジ脇の棚にぽつんと展示してあったので、なんとなく棚から手にとると、裏にこんな説明が書いてあった。
 

今回は以上の2作です。

 

感想

吉田修一さんを感じられる短編集でした。
特に私が好きだったのはあらすじでも紹介した「乳歯」です。
団地の中に、あるいは育ってきた環境の中に閉じ込められた巧也という語り手。
その閉じ込められた感じが例えば『長崎乱楽坂』などを思い出させて、吉田修一さんの作品だなと思えました。

他にも映画という観点でも興味深かったです。
「日々の春」は映画「007」が話の中でポイントとなっていますし、「零下五度」にも語り手がはっきりと思い出せないのですが、韓国映画のあるシーンを思い浮かべます。
前回作品紹介した『元職員』と共通するのは、「語り手が映画の内容をはっきりと思い出せない」ということです。
これまでの作品で映画がそのように扱われることはほとんどなかったので、少し疑問には思っています。
他にも「キャンセルされた街の案内」では自転車泥棒の件が出てきます。
『あの空の下で』の短編と共通するなと思いました。
他にも吉田修一さんのコアがぎっしりとつまった短編ばかりで、またじっくりと味わいたいです。

 街の中閉じ込められた夏野かな

以上で、『キャンセルされた街の案内』の紹介は終わります。
前回の『元職員』にはなかったのですが、今回は作品に映画が出てきました。

 次回は映画紹介をします。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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