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【作品#32】『怒り』

こんにちは、三太です。

最近『対話型論証による学びのデザイン』という本を読みました。

国語あるいは総合の実践に何か活かせるものはないかなという思いで読みました。
まだ、自分の中で消化しきれていないので、すぐに実践するのは難しそうですが、とても大事な内容だということは感じています。
中間考査も終わった2学期後半に向けて、さらに勉強を進めていこうと思っています。

では、今回は『怒り』を読んでいきます。

初出年は2014年(1月)です。

中公文庫の『怒り』で読みました。


あらすじ

八王子で起きた夫婦殺害事件。
現場に残された「怒」という血文字。
容疑者である山神一也が逃走して一年が経ったところから物語は始まります。

千葉、東京、沖縄の各地に謎の男が現れます。
千葉の漁村に住む槙洋平、愛子の親子。
愛子は知的な発達に少し遅れが見られるような娘で、洋平は娘の行く末を案じているところがありました。
そんな二人のもとへ現れた謎の男、田代。
東京に住む藤田優馬はゲイでした。
ある場所で出会った男、大西直人が自分の家に住み始めます。
沖縄の離島、波留間島に移住した小宮山泉とその母。
泉は同級生の辰哉に連れて行ってもらった無人島の廃墟で、田中という男に出会います。
そして、山神を追う警察、北見。
誰かが山神なのか、そうでないのか。
「怒」という文字は何を表すのか。

公式HPの紹介文も載せておきます。

【上】2011年8月。八王子郊外で尾木幸則・里佳子夫妻が惨殺された。血まみれの廊下には、犯人・山神一也が書いた血文字「怒」が残されていた--。事件から1年後の夏、物語は始まる。整形をし、逃亡を続ける山神はどこにいるのか? 房総半島で漁師をする槙洋平・愛子親子の前には田代と名乗る男が、東京で広告代理店に勤めるゲイの藤田優馬の前にはサウナで出会った直人が、母とともに沖縄の離島へ引っ越した小宮山泉の前には田中という男が現れる。それぞれに前歴不詳の3人の男。
【下】山神を追う刑事の北見壮介、彼の捜査でわかってきた山神の不思議な生い立ちや80年前に山神の生地で起こった凄惨な事件なども織り込まれ、衝撃のラストまでページをめくる手が止まらない。『悪人』から7年、吉田修一の新たなる代表作。

出てくる映画(ページ数)

①「ライフ・オブ・パイ」(下巻 pp.55-56) 

北見の提案に笑顔で頷いた美佳が駅の方へ歩き出す。
メールで相談した結果、『ライフ・オブ・パイ』という難破した船に乗っていた少年とトラが漂流する映画を観ることになっていた。
(中略)
その後、新宿で観た『ライフ・オブ・パイ』はなぜか北見の気持ちをざわつかせた。少年とトラが一隻のボートで漂流するファンタジーだと思えばいいのだが、まるで自分が実際に漂流しているような絶対的な孤独を味わってしまい、「面白かったね」と美佳に声をかけられても笑顔さえ浮かべられなかったのだ。
まだ五時前で夕食には早かった。新宿の雑踏と映画の中で少年が漂った大海が重なり、北見は居心地の悪さを感じていた。

今回は1作だけでした。
また、『怒り』自体も映画化されていますので、そちらも見たいと思います。

感想

人は他人を信じられるのか、そして自分自身を信じられるのかを問う作品だと感じました。
「怒り」というよりも「信じる」という感じでしょうか。
信じられなくなることがあっても、もう一度人は信じ直すことができるというメッセージがあるように私には思えました。

泉のパートは沖縄の問題(基地反対運動や米兵の暴行事件)、愛子のパートは障がい者、女性の問題、優馬のパートは同性愛者、母子家庭の実態が取り上げられており、現代社会にある様々な問題とつながりを持った作品でもありました。
謎が解けるミステリー的な面白さというよりも、(そういう面も多少ありますが)上記に挙げた問題を考えさせられるという意味で重厚な物語だったと思います。

正直、初読の時には消化不良の感じでした。
けれども、再読でそれぞれのパートに一応けりがついていたんだなと感じられました。
辰哉の最後の手紙の内容に『悪人』の祐一の生き様が重なりました。

問いかける無口な男野分かな

その他

・大西直人が藤田優馬の家に居つく感じが『女たちは二度遊ぶ』の「どしゃぶりの女」に出てくるユカと似ている。

・吉田修一さんが作品を書こうと思ったきっかけは、千葉の市川で起こった市橋達也の事件。
 →ただ、事件そのものというよりも、事件について目撃証言を寄せた市井の人々の日常に注目されたようです。
(「週刊読書人プレゼンツ 深い闇をとり巻く光  吉田修一氏インタビュー 『怒り』を中心に小説について)

以上で、『怒り』の紹介は終わります。
再読で理解が深まったのが嬉しかったです。

では、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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