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競合の無いBtoBサービスを始めたときのUXデザイン

入社して以来ほとんどの時間をLIFULL HOME'SのBtoB領域のサービス改善に取り組んできたデザイナーが、競合の無いBtoBサービスに携わったときにどのようにUXデザインを進めていったのか。

そのときのことを少し振り返ってみようと思います。

住まい探しにおける根深い課題

LIFULL HOME'Sをはじめ、全国の物件情報を扱うポータルサイトにおいて「ユーザーが希望する条件で物件が見つけられること」は重要な提供価値の1つです。
ただ、どんなに使いやすく探しやすいサービスを提供できても、ユーザーが見つけた物件が誤った情報を含んでいるものだった場合、その物件へ問い合わせても掲載している条件では物件を借りることができない、といった問題があります。

「掲載内容に誤りのある物件」や「既に契約が完了している物件」は、発見されたものから個別に社内の情報審査チームから指摘を行っていますが、膨大な物件情報のなかに紛れているものを一つ一つ指摘していくだけでは根本的な解決には至らないため、ユーザーの住まい探しに不信感を抱かせてしまう状況が残念ながらあります。
一方で、情報を預かるポータルサイトでありながら、社内の情報審査チームからの指摘以外に物件情報の適切なメンテナンスを促す接点を不動産会社さま(以後クライアント)に対して十分に提供できていませんでした。

そんな状況を少しずつ変えるべく、LIFULL HOME'Sは2019年12月に「メンテナンス見える化ツール」の提供を開始しました。

メンテナンス見える化ツールとは

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メンテナンス見える化ツールは、LIFULL HOME'Sのデータベースを活用し、クライアントが掲載中の物件と他の不動産会社の掲載物件を比較することで、登録状況に差異のある物件を「メンテナンスの必要がありそうな物件」として検出します。

通知する物件の種類
・成約済みの可能性がある物件
・情報に相違がある可能性がある物件

メンテナンス業務を知る

メンテナンス見える化ツールで提供する仕組みは新たな試みとなるものだったため、プロトタイプ試作時には競合比較に据えるサービスがありませんでした。
どのようなサービスモデルであるかを明らかにしていくために、まずはクライアントの現在のメンテナンス状況と業務フローについて知るところから始めていきました。

ターゲットユーザーの利用状況を知る

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メンテナンス業務は物件を入稿する際の準備タスクの一つで、物件確認する際に行う空室確認のことを指しています。
物件の入稿は、ポータルサイトが提供する入稿システムのほか、各種ポータルサイトへ一括入稿ができるコンバーターなど様々な入稿手段が提供されています。

実際の利用状況を見ていくと、ポータルサイトが提供する入稿システムを利用するクライアントが存在する一方、大規模エリアをカバーするクライアントや複数店舗で利用されているクライアントでは一括入稿を利用されている場合も多く見られます。

入稿システムで個別に入稿を行う場合には、更新も手動のためメンテナンスが遅れているのでは?という仮説を当初持っていたのですが、一括入稿の場合でも更新タイミングが固定であることに起因した掲載状況反映の遅れや、一括入稿による誤った登録情報の見落としなど、別の課題が介在していることが利用状況の調査から分かってきました。

物件掲載における業務フローを知る

利用状況から観察された課題と仮説に加えて、社内の不動産業務経験者から「メンテナンス業務は後回しになりやすい」という課題が調査の中で挙げられていました。
そこで、具体的にどのような工数がかかっていてメンテナンスが後回しになってしまっていやすいのか、入稿までの物件掲載業務の主な流れについても確認していきます。

不動産業務の経験者へのヒアリングを元に作成した主な業務の流れが以下の図です。

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管理会社から取り寄せた図面や、FAXで送られてきた図面は紙であることが多いため、入稿はサービスを利用していても原本はそのまま手元で管理するなど、アナログな業務が混在していることで、サービスからは見えないところで入稿業務に手間がかかっている状態であることが分かりました。

最小限でも価値のあるサービスを目指す

単純に捉えていくと、このアナログ業務を改善することがサービスのUXを考えるうえでのキーとなりそうにみえます。
しかし、掲載業務の一部にあたる物件メンテナンスの改善を促すためだけに今の業務フローを大きく変えていただくのは容易ではありません。
入稿業務全体を改善するためのプロダクトを実現するためには、他社のコンバーターや利用されている入稿システム全体への影響も考えていかなければなりません。

そこで、まず我々が最初にどのような価値を提供するべきか。

最大の価値を考えたときには「メンテナンス業務のアナログな手間を減らすこと」がクライアントの価値となりそうですが、最小単位のクライアントニーズは「メンテナンスが必要な物件を見つける」ことなので、まずは「認知の段階を助けることが、MVaP (Minimum Valuable Product / 顧客のニーズを満たす最小限のプロダクト) としてプロダクトが提供する価値となります。

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最初のリリースでは最終的なプロダクト像を目的にした設計にはせずに、「現在の業務フローのままで、メンテナンスに充てる工数を少し短縮するためのサポートをする」ことを目標にすることが決まりました。

軸となるプロジェクトの方針と提供価値の基準が決まったところで、いよいよデザインのプロトタイピングへ入っていきます。
私と画面デザインを担当するデザイナーとフロントエンドエンジニアのメンバー間で、どのような画面設計をしていくのが適していそうか、最もアナログな状態である物件リストを確認する際の行動をベースに、MVaPにフィットさせていくための画面設計のプロトタイピングをスタートしていきました。

物件リストを確認する画面を提供するうえで、サービスを利用する他に画面外での行動が発生していることを踏まえると、以下の3つの観点が画面設計に大きく関係していきそうでした。

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これらの観点を元に行動を画面設計へ当てはめると、テーブルなどでリスト表示するよりはメールボックスやTodoリストのようなタスク形式のアクションであればスムーズな提供ができそうだ、という仮説が導かれていきました。

タスク形式で仕様を整理した画面設計とテーブルのリスト形式、両方の画面上の行動フローを実際に触って辿れる状態のプロトタイプを用意して検証を進めていきます。

実際に画面の遷移を触れる状態に落とし込むことで、「ここで電話を使うだろうからキーボードだけでも操作できるようにしよう」「メールの一覧画面のように見せるならタイトルにあたるトリガー情報はなんだろう?」など、それまで仕様書に並んでいただけの1つ1つの情報の優先順位と機能の関係性が明らかになっていき、必然と関連情報ごとにまとまった画面になっていきました。

また、タスク形式のUX設計に対して正確に行動してもらうために、サービス全体の共通行動を「1セクション1アクション」とするルールもプロトタイピングを進める中で定まっていきました。
行動のゴールに対して関係性の薄い要素が並ぶ機会を可能な限り減らし、関係性の近い情報は近い位置へ、省略できる情報は別のセクションへ包括する、など、リスト型の課題をタスク型のサービスデザインとしてアップデートしていきました。
もともと、物件情報をデータとして提供していくサービス性質上、1画面の情報量が多くなってしまうデザイン上の課題があったのですが、このルールを徹底して画面設計に落とし込んでいくことでサービス全体の設計課題を解消しています。

情報を信用してもらうために

8割ほどまで完成したプロトタイプを元にクライアントへヒアリングを行ったところ、情報提供をしていくにあたっての懸念が見つかりました。
画面構成はスムーズに理解されていたのですが、新しいサービスということもあり、検出状況の提示だけでは検出された物件を信頼できるデータとして認識してもらうには不十分だったのです。

情報を見える化することでクライアントの助けを図る一方、視覚化された「誤っている情報」というのは結構デリケートな表現です。
間違っていると率直に言われ続けても、いい気持ちになる人はおそらくそんなにいないでしょう。
また、どれだけ検出精度を向上させてもロジックに一致したものが自動的に検出される仕組みのため、既に更新済みの古い情報が通知へ混ざってしまったり、正しく登録されている物件が誤って検知されてしまう可能性も0ではありません。

この懸念を解消するために、画面へ2つのアナウンスメントを加えることにしました。

1つ目は、成約済みの通知物件ごとに「LIFULL HOME'Sでは5社が非掲載」というようにメッセージを表示することで、他社の物件と比較した結果に基づいた通知であることを伝えています。

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2つ目は、情報相違物件の検出では任意の物件を通知から除外できる機能を情報相違のデータとあわせて提供することで、検出物件に誤りがある場合にはサービス側へ報告できることを伝えています。

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リリース直前まで、プロジェクトメンバーの協力のもとリサーチと検証を重ねながらUX検証を進められたことで、ツールが増えてしまっても便利に感じてもらえるだけの価値提供と、安定した品質の情報提供ができるサービス体験を開始することができました。

業務全体に対して提供できた変化はまだ少ないですが、クライアントの業務に合わせた形でポータルサイトからメンテナンスを促し、次の改善へとスタートできるようになっています。

BtoB領域でサービスをデザインすることの難しさと楽しさ

不動産業界では様々な不動産テックによってDX化が進んでいますが、まだまだ業務や手続き的な課題がいくつも横たわっている業界だと思います。

特に、BtoB領域で提供しているサービスでは長らく業務変化に対応したサービスを提供できていないものもあり、周辺環境やOA機器の制限、利用属性など、ギャップがいくつも存在することを頭の片隅に置きながら地道に向き合い続けるのはとても根気がいります。

しかし、大きな変革をもたらすことは難しい課題でも、今回のメンテナンス見える化ツールのように少しずつ積み重ねながら、課題の本質に対してどうやって新たな道を切り開いていくか、考えていく楽しさがある領域だと思っています。

メンテナンス見える化ツールでは、競合のないサービスを新たに形作っていくために、デザイナーが職域を横断してUX設計を進めていましたが、デザイナーが共有した視点に対して、チームメンバーが各職種の目で本質的な価値について一緒に考え抜いてくれたことで、他にはないプロダクトを生み出すことができました😊

そんな領域のサービス開発やサービスデザインに興味をもっていただけたら、新しいメンバーも募集しているのでぜひ!

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クリエイティブ本部 デザイン部 サービスデザイン1グループ
いけがみ
2017年中途入社。業者間物件流通サービス LIFULL HOME'S B2B のサービスリニューアルをはじめ、BtoB領域を中心に新規サービス開発やリプレイスにおけるUX/UIデザインを担当しています(2021年6月時点)

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