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不動産情報における拡張現実の活用について、本気出して考えてみた

はじめに

リサーチ&デザイングループの細谷です。
私たちのグループではプロトタイプを公開し、あり得るかもしれない未来を体験できるように活動をしています。
その活動の一環として、2022年12月に「Finding Serendipity」というNiantic社のLightship ARDKを活用したARアプリをTestFlightにて公開しました。
試していない人はまずこちらからダウンロードして実際使ってみてください。

TestFlightへリンク

そもそもこのアプリってどんなもの?ということに関しては
下記の記事で紹介しております。

また、技術開発の観点からはパートナーのDesigniumさんのnoteが詳しいので、こちらも併せてご覧ください。

ということで今回はアプリの制作途中や公開後にフィードバックを受けて考えたことなど、こぼれ話を書いていければと思います、*この文章は個人の見解です。

Finding Serendipityが大事に考えているAR体験

日常系ARはスマートグラスの時代待ち

スマートフォンをベースにしたARはつよつよIPのコンテンツなどのユーザーが積極的にみたいものを提供しないことには、アプリのDLからコンテンツの再生までに辿り着きません。
そのため、日常使いするARアプリはスマートグラスの普及が不可欠だと思っています。
それではスマートグラスは普及するのか?については否定的な意見もあると思います。
ただGoogle Glassやホロレンズはエンタープライズ領域で拡大傾向をみせ、今年のCESのレビュー記事でポジティブな意見も上がってきています。

さまざまなメーカーが安価なものから高価なものまでデバイスを発表している雰囲気が、おしりポケットに入る(実際は入ってはいない)vaioPHSと合体した小さなPCなどが発表されていたiPhoneがメジャーになる手前の空気感と似ていると感じており、どんな形であれスマートグラス版iPhoneのようなキラーデバイスの登場により大きく環境が変化し、日々の生活している視界に別の情報が追加される未来は近年中には来ると思っています。
そして、その未来がきた後にどのようなサービスが展開できるのか、このFinding Serenipityを企画するにあたり、セカイカメラの"脱検索"というコンセプトに敬意を払いつつ、時代や技術が変わったことで可能になったことや、不動産情報、オリジナルになる要素を追加していきました。


感情の位置情報を共有する

このアプリの特徴の1つが感情スタンプです。
街角でふと感動した時やワクワクした時、逆に少し悲しくなったりした時にサクッとスタンプを押すことで、その場所に感情が残ります。
この機能は「ヒトメボ」というスマホ黎明期のアプリを思い出したのがきっかけでした。
そのアプリは街で一目惚れした時にボタンを押すことで、位置情報が記録・共有され、同じタイミングかつ同じ場所で恋愛対象同士が押していたら通知がくるものだったのです。
そしてこのアプリには地図機能もあり、それは一目惚れボタンが押された場所つまり人の心が動いた場所が蓄積されているのが面白く、長い時間眺めていたのを思い出し、その経験を街や出来事との出会いに変えて実装しました。


残されたアンカーによる自然発生する他者との関係

「Death Stranding」というゲームをしている時に目的地に向かうために他の人が残した標識を参考にルートを決めたり、ツールを使ってピンチを切り抜けていく、直接的なコミュニケーションは発生しないけど、同じ世界を共有しているユーザー同士が利他的な関係性を構築していけるゲーム性が非常に楽しく、心地よかったので、実際の街で、人同士が街に残された感情や写真などを参考にして街の中で新たな発見や参考にして自分の行き先を変えるようなゆるい関係性が生まれてほしいと思い、体験を設計しています。

組み込みたかった機能

今回の公開で組み込みきれなかった機能の一つが同行(アカンパニー)機能です。
Finding Serendipityでは”偶然”は大事にしたいと考えているので、同じ街を生きる人同士の心地よいつながりを形成していきたいと思っているため、既存のSNSのようなフォロー・フォロワーの関係は作りたくないと思っています。
ただそれだけでは誰かのアンカーだけを見たいとなった時に探し出すのは難しいので、その時だけ特定のユーザーのアンカーのみを表示し、3Dマップ機能でアンカー所在地が確認できる、特定のユーザーのアンカーと一緒に街を歩ける”同行”機能を考えていました。
この機能があれば、例えば動物写真で有名な岩合光昭さんをお招きして、谷中で地域猫を撮影してもらえば、そのアカウントに同行して、現地にいる猫を探しに出かけたり、

例:動物写真家 岩合光昭さん

話題になったドラマのアカウントがオフショットをロケ地に残してくれれば、探しに街歩きに出かけるきっかけになると思っています。
参考:ドラマ「silent」の影響で賃貸検索者が増加

スマートグラスが一般的になった未来について

Webの現状から抱く危惧

スマートグラスが一般的になると、各Webブラウザを選ぶようにどのARプラットフォームと接続しつづけるかを選ぶようになると予想します。
フィジカルな世界に情報が重なり、同じ場所をみていても接続するプラットフォームによって表示される情報やデザインは人それぞれの選択で違うものになっていくようになると思います。

そのような日常について示唆深い「HYPER-REALITY」という映像をKeiichi Matsuda氏が2016年に発表しています。

もし、Webと同様に無料で見ることが当たり前になった場合、プラットフォーム間でシェア競争が起こり、多数派になったプラットフォームは広告の収益を増やすために、上記の映像のように視界の大半が広告エリアとしてしまうことが容易に想像がつきます。

日常生活の視界から過度な広告を減らすために

この未来を避けるためにプラットフォームに対して料金を払う選択肢もあるかもしれませんが、広くユーザーを獲得するためにはフリーミアムの仕組みは捨て難く、広告以外でのマネタイズ方法を考える必要があると思います。

マネタイズの手法として考えられる1つ目は、今回のFinding Serendipity で挑戦したようにコンバージョンを発生させること。広告に近い部分ではありますが、日常生活を邪魔せず、ユーザーの心理に寄り添った形での提供し、プラットフォーム内で取引を成立させることができると思います。

2つ目は投稿コンテンツを有料コンテンツ配信や寄付(投げ銭)機能をつけることです。前述の同行機能を使って、企業がチケット購入者にだけがみられる特別なコンテンツの提供や一般ユーザーが置いたアンカーで気に入ったものや応援したいものに対して投げ銭をするなど、プラットフォーム上のコンテンツが価値を創出する方法もあるかもしれません。

最後に決済機能です。今はアプリを立ち上げて、カメラを起動して、コードを読み取って、金額入れて、支払い完了と手間がかかるコード決済がスマートグラスでは常に周囲の状況をカメラで認識をしているので、コードを認識して、認証を挟むだけで決済が可能になり、タッチ決済の利便性を追い抜けます。
個人的にApple Watchによって一番生活が変わったと感じているのは改札や支払いなので決済の体験を整えるとユーザーの獲得にもつながるかもしれません。

今後について

公開して1ヶ月が経過して、要求デバイスのハードルはありながらも色々なご意見をいただき、ありがたいことに一緒に何かできないかというお声がけいただいたりしております。
私たちとしては、まずFinding Serendipityを使ってもらう人を増やしたいので、インストールのきっかけになることは積極的に行っていきたいと思っています。
例えば、街を使った謎解きイベントやウォークラリー、前述のような聖地巡礼の特別コンテンツの設置など街に人を呼び込むきっかけを作れると思っていますので、気軽にお声がけいただけると幸いです。

著者プロフィール

細谷宏昌
株式会社LIFULL 未来デザイン推進室
リサーチ&デザイングループ 研究員

東京藝術大学大学院修了後、テクノロジーとアート双方の視点から広告・展示・プロダクトの企画ディレクション・新規事業開発サポートなどに従事。
2020年3月より現職。「誰もがより自分らしく暮らせる世界の実現」を目指し、ありえるかもしれない未来を思索し、プロトタイプとして体験できる形で提案することがミッション。最近では同じ価値観の人がどの街でWell-beingに生活しているかを探せる「VALUES MAP」を公開。
これまでにRed dot Award / Good Design Award / ADFEST / SPIKES Asiaなどを受賞


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