十人十色の蕎麦屋さん
私は仕事柄、全国様々なところに出張しています。場合によっては数ヶ月以上滞在することも少なくありません。そんな仕事なので、いつしかご当地の堪能が趣味になってしまったのですが、今回はもっとも感動したご当地グルメを紹介したいと思います。
それは、福島県南会津町の蕎麦です。私はここに半年程度住んでいました。住んでいたのは旧舘岩村というところで、見所としては大自然と温泉、スキー場くらいです。電車が好きな方は会津鉄道を利用するかもしれませんね。近くに那須塩原があるので、自然に関しても温泉に関しても観光であればそちらの方が人気です。冬季になるとスキーをする方が増えますが、それ以外で観光に来る方はほとんどいないように思いました。
昔は観光でとても栄えていたようで、歴史的な旅館が多くあり、スキー場近くにはペンション村もあります。現在では観光客の減少と、オーナーさんたちの高年齢化が合わさり宿泊施設を廃業される方も増えてきているようです。
そんな南会津町ですが、蕎麦の産地としても有名なようで、広大な土地に蕎麦が栽培されています。開花時期には一面が白い花で覆われるためとても美しく、圧巻の風景になります。そんな南会津町の蕎麦ですが、食べられる飲食店は残念なことに1軒のみ。しかも営業時間はとても短いです。普通に観光に来ればまず食べることはできません。
ではどうすればご当地蕎麦が食べられるかというと、それは旅館にあります。町の中にはあらゆるところに旅館がありますが、そのほとんどの旅館で手打ち蕎麦が夕食に振る舞われます。
ちなみに、そばには二八蕎麦や十割蕎麦など種類がありますが違いはご存知でしょうか?
それは蕎麦粉と小麦粉の比率を指しているものです。十割蕎麦であれば全て蕎麦粉、二八蕎麦であれば二割が小麦粉です。
本来蕎麦粉には粘り気がなく、つなぎ(小麦粉)がないとまともに麺になりません。また、そのため乾燥に弱く、作り置きすると麺がちぎれてしまったり、ぼろぼろの食感になるため美味しく無くなってしまいます。十割蕎麦を作ることができるのは本当に高度な技術が必要なのですが、南会津町ではほとんどの旅館の女将さんが、この十割蕎麦を作ることができるのです。
そもそも私は南会津町で蕎麦を食べるまで十割蕎麦を食べたことはおろか、蕎麦粉と小麦粉の比率など気にすらしたこともありませんでした。
初めて夕食に蕎麦が出た日も、「おっ!蕎麦だな!」など全く風情のないコメントをしてしまうほどでした。しかし、一口食べたその瞬間に、蕎麦の概念が変わるほどの忘れられない感動がありました。
まず圧倒的な蕎麦の香ばしい香りが口から体中に広がります。蕎麦に香り?と思うかもしれませんが本当にとても食欲をかき立てる蕎麦の香りがするのです。そしてコシのある気持ち良い喉越しを感じた後に、歯切れの良さと共に口いっぱいに蕎麦の味が広がります。そもそもコシと歯切れは相反する存在であるのに、共存しているのです。この感動はおそらく食べた方しかわかりません。
というよりは私が表現しきれないだけですね...
そこにお手製のおダシも合わさり、まさに食の極みとも言えるほどの逸品として仕上がっています。
感動からしばらくはその宿に泊まり、蕎麦を食べ続けていたのですが、たまたま他の宿に泊まると、また違った味の十割蕎麦があることを発見しました。南会津町では女将さんたちが自分で麺を打ち蕎麦を作りますが、どうやらダシまで自家製で作るところが多いようです。そのため旅館ごとに味も食感も違う蕎麦が生まれます。
また、種類もザル蕎麦や天ザル蕎麦、ぶっかけ蕎麦など、旅館によりレパートリーが豊富で毎日食べても飽きることはありません。
それどころか、日によって山菜やキノコ、山に出没した熊、鹿、鴨、猪の肉やイワナ、鮎などの川魚などさまざまな料理が一緒に振る舞われます。他にも東北地方の地酒まで用意されているものですから、これが蕎麦と合わさり圧倒的な幸福感に包まれます。
結局は南会津で過ごした大半を蕎麦を食べて過ごすことになりましたが、一度も残すことはありませんでした。そして体重は10キロ近く太りました笑
これだけ美味しい蕎麦ですが、食べる際にはいくつか注意点があります。
まず、1つ目は宿に帰る時間を守ること。
これは先に書いたとおり十割蕎麦が乾燥に弱いため、作り置きができないようです。女将さんたちは宿に帰る時間を必ず聞いてきます。夕食には必ず打ち立ての状態で蕎麦が振舞われます。そのため帰る時間が遅れると美味しい蕎麦は食べられません。私は仕事だったので何度か遅れることもあり、知らずにとても迷惑を掛けてしまいました。
2つ目は蕎麦はすぐに食べること。
これも同じように乾燥に弱いためです。特にザル蕎麦の場合は早めに食べて下さい。蕎麦と一緒に豪勢な食事が出る旅館がほとんどですが、蕎麦を後回しにすると本当に美味しいタイミングを逃します。それでも十分すぎる程度には美味しいのですが。
3つ目は蕎麦湯まで飲むことです。
ザル蕎麦の場合は最後に蕎麦湯が飲めます。蕎麦初心者は蕎麦湯の存在も知らないと思いますが、美味しいので是非ご賞味下さい。女将さんは必ずしも蕎麦湯を飲みますか?と聞いてくるわけではありません。こちらから蕎麦湯を下さいと注文しましょう。
私が食べた南会津町の蕎麦は収穫したてだったこともありますが、この蕎麦より美味しい蕎麦にいまだ出会っていません。福島以外も蕎麦の産地である、岩手、山形、栃木、長野など、出張に行った際は蕎麦を食べていますが、越えられる蕎麦はありませんでした。当然、これらの蕎麦も東京や大阪では食べられないほど美味しいものでしたが。
私は今でもたまに南会津町に行って蕎麦を食べたいと思う時があります。南会津町はとても行き辛い場所ありますが、いつか家族と旅行に行って、本当に美味しい蕎麦を食べさせてあげたいと思うのです。
この蕎麦だけは皆さんにもおすすめできるので、機会が作れる方は是非、食べに行ってみて下さい。
南会津は泊まるだけにして、周辺の観光地をめぐるような形であれば足を運びやすいと思います。
ここからは南会津町(旧舘岩村)の情報を貼っておきます。
https://www.kanko-aizu.com/tomaru/tateiwa/
特においしかった記憶のある宿は以下です。
ふじや
たかつえ
いせや
坂の麓にあったおばあちゃんの旅館は廃業したのかな?記憶のある宿がいくつかないですね。
ペンションでは蕎麦は出ませんが、旅館とはまた違った料理が振る舞われます。旅館ほど泊まっていませんが、ワインズとエンドレスはオススメです。
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