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実践者から学ぶティール的組織〜「性弱説」で組織を運営?失敗の機会を奪わない〜

はじめに

(補足1)本記事で触れられている手放す経営アカデミアは2023年1月時点で名称が手放す自分ラボラトリーに変わっています。

(補足2)性弱説で運営というのは、あくまで私の意見・見立てです。

手放す経営アカデミア(当時の名称)にて月1のペースで開催されている実践勉強会の2月開催回での学びについて書きます。

2月の勉強会では特別ゲストとして、谷川クリーニングの代表である谷川さんがご夫婦で出演してくださり、その実践知を惜しみなく共有してくださいました。改めて企業情報を載せますね。

【企業情報】

有限会社谷川クリーニング
創業:昭和44年10月
従業員数:52名
事業内容:家庭用クリーニング、各種特殊加工、特殊洗浄、リネンサプライ
営業店:直営店17店舗
本社所在地:茨城県神栖市
HPはこちら。

谷川クリーニングでは店舗や工場においても管理者はいません。そのため、多くのことを現場スタッフの方々(社員・パート)が自主的に話し合って決めています。代表も専務も、どんなことが話し合われているのか、どのように決めているのか知らないそうです。
 
このような昨今でいうティール組織のような特徴を持つ組織体制になった最初のきっかけは、近隣にあった同業者の倒産と連鎖して起こった社員の大量離職(12人で回していた工場で8人も辞めてしまったとのこと!!)という出来事だったようです。
 
残された人数では工場を回すことができないため、代表、専務と新入社員の2名も入り、計8名で何とかしようとしましたが、最初から適正人数を満たしていないため、それまでの業界の常識だった完全分業制ではそもそも仕事が成立しません。そのため、1人で複数のポジションができるようなることを目指し、かつ相互にサポートし合うことを心がけて乗り切っていきました。
 
その後、谷川クリーニングでは正解(のようなこと)を知っているリーダーが意思決定や指示、目標設定や計画を行うトップダウン形式ではない仕事の進め方が常識となっていきましたが、これはそもそも代表も専務も現場の素人であること、そして、脱・分業制という仕事の仕方を誰も経験したことがないから一緒に話し合って考えていくしかなかったという要素によって形成されてきたものだと捉えています。
 
この体制になって回せるようになってから代表と専務は抜けられたそうですが、その後も変わらずこの仕事のやり方(組織文化)は持続し続けているとのこと。ここに対して、「なぜ持続できているのか?」という質問が出ました。
 
今日の気づきはこの質問への返答から得たものです。

社員はどういう時に成長するのか?

「なぜ持続できているのか」という質問に対する谷川さんの答えを簡単にまとめると、
・一朝一夕に出来上がったものではない
・失敗するチャンスを奪わなかった

と言えると思います。
 
そもそも、現場はどんな時でもうまく行き続けているという前提ではなく、色んなことが起こっている。でも、それが人間だもの、と捉えているそうです。
 
実際、閑散期と繁忙期があり、特に閑散期が続くとスタッフも気を抜いて、ダラダラするそうです。また、油断していると急に忙しくなり、残業2時間の日が続くこともあるそうです。ただ、この一見すると会社として困った状況に思える出来事が起こっても、代表・専務としては手伝わないとのこと。
 
つまり、店舗の人によって起きたことは店舗の人がどうにかするしかないのです。とはいえ、スタッフのみなさんとしても、自由である代わりに責任があるということを分かっているため、自分たちで自主的に話し合い、立て直しをはかるとのことでした。
 
なお、取り返しつかないくらい生産現場が崩壊したことも実際あったそうですが、それを防ごうとして教えるよりも、経験してもらうこと。その機会を奪わないことが大切だと言われていました。
 
人間関係やコミュニケーションのことについても、実際に身近なスタッフが辞めてしまい、大変な目にあったからこそ、仲間との関係をどうすればいいのか考えようという話し合いが自主的に生まれていくそうです。
 
つまり、スタッフ自身が当事者として痛みを感じられる環境があるということです。(もちろんその逆の喜びもです)

性善でも性悪でもなく「性弱説」で組織を運営する

自律分散型というと、社員がバラバラになってしまうんじゃないかという懸念を持たれる経営者の方は多いでしょう。そして、実際にバラバラになった経験がある方も・・・。
 
この「社員に任せる」ということについて、日本型ティール的組織の先駆的実践者である武井浩三さんはこんなことを言っています。

社員がSNSなどの発言で炎上するモラルハザードがなぜ起きるのかも、ガバナンスの視点から考えられます。原因は「個人の利益と企業全体の利益が一致していない状態」だからです。
 
この状態は、「何をしたって自分の給料は変わらないんだから、何を発信しても構わない」という態度を生みます。
 
はたラボインタビュー記事より引用

人間のようなエゴを持つ社会性生物は、レントシーキングといって、個人の利益の最大化のために、ズルをします。最近は政治家の経費の不正利用などの不祥事が取り沙汰されていますが、これ、レントシーキング。でも実はこれ、個人のモラルの問題ではないのです。
 
人間は、ズルができる環境にいると、ズルをしてしまいます。節税っていうものもレントシーキングです。法律と抜け穴探しのイタチごっこ。これを繰り返すと、法律がどんどんガッチガチの厳しいものになっていって、真面目にやっている人も身動きが取りづらくなっていく。これ、組織の官僚化です。
 
ここで言うズルの定義とは、個人の利益を最大化させることによって、全体(会社や自治体や国)の利益を毀損してしまうことを指すのですが、つまり部分と全体の利害関係が不一致な状態が生まれてしまう。

Fledge寄稿記事より引用

またこちらに関連して、USJをV字回復させ、稀代のマーケターとして活躍されている森岡毅氏の書籍でも興味深い内容を見つけました。

人間の本質は「自己保存」だと考えています。自己保存とは、自分の生存確率を最優先することです。
〜略〜
人間は自然状態では自己保存の目的に適った行動を取るように生まれついているのです。意識的な行動も無意識的な行動も両方あると思いますが、自分が一番大事なように生まれついている。

頑張って勉強することが将来より良い生活をするための自己保存。人に親切にするのも自分の存在価値を確認したい自己保存。
〜略〜
そんな人間が組織をつくって所属するのも、本質的な目的は自己保存です。ハイエナやシマウマもそうするように、人間も"群れ"でいた方が生存確率が高くなるから組織に属しようとします。
〜略〜
本当は組織そものものの存続のためではなく、自己保存の目的のために組織をつくったり属したりしているのです。組織について明瞭に意識しておくべきことは、組織存続を最上位の目的に掲げているその組織を構成している最初単位は、本当は個々の自己保存を最上の目的に掲げていることです。つまり組織と個人は利害相反の関係性にあることになります。

自然状態で利害相反である以上、その利害のベクトルをできる限り同じ方向へそろえる人工的な工夫が必要です。
 
その点を意識せずに放っておくから組織は大変なことになります。「個」の自己保存にとって「群れ」は手段です。「群れ」の成功が「個」の自己保存にとって顕著なメリットがあるのであれば、個は群れを成功させようとします。「群れ」が消滅すると「個」の自己保存が危険に晒される場合にも一生懸命何とかしようとします。

書籍『マーケティングとは「組織革命」である。』/森岡毅著/日経BP社P112~114から引用。

それぞれ異なるジャンルで独自の存在感を放つお2人は、似た人間観の上で組織を運営されているように思えます。
 
この人間観は武井さんの言葉を借りると、性善説でも性悪説でもなく、性弱説と言えます。また、人間の本能、あるいは人間に働く自然の摂理、に逆らおうとしない価値観とも言えるでしょう。
 
これはあくまで私の勝手な判断なのですが、谷川クリーニングにおけるスタッフの皆さんの捉え方はまさにこのようであると感じたのです。
 
スタッフが自ずから学びや成長を求めるのは、自身の不安を解消したり、居心地の悪さ、大きなストレスを解消したいから。(もちろん他の欲求もあると思います。)言い換えれば自己保存のため。
 
そして、その自己保存の機能がしっかり働くために
自分の行動によって起こった結果を受け止められる体制・人間関係がある。

 
だからこそ、同じことを繰り返さないように学び、気づき、自身の行動を変え、結果が変わっていく。
 
人間として日々生きていく中で自然にやっていることがちゃんと行われていく。その働きを邪魔しない組織運営をされているのが谷川クリーニングなのだと感じました。

組織文化の持続性に最も影響するものとは?

以前、このような記事を書きました。

こちらの記事では、社員が組織の中で能力を発揮する際に影響している4つの要素について紹介しています。それはこんな4つです。

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詳しい説明は記事をご覧いただきたいのですが、このうちの(2)〜(4)は当人以外という意味で環境と言えます。この環境に一番大きく影響しているのが組織の長である経営者自身の(1)〜(4)であり、身近な幹部との人間関係であると紹介しました。
 
そのため、仮に、あるリーダーが自身のチームで独自の(2)〜(4)を構築したとしても、中長期でみると経営者自身と幹部との間で体現されている(2)〜(4)のゾーンへ収束してしまうということです。
 
この4つの観点の元ネタであるケン・ウィルバーのインテグラル理論にフレデリック・ラルーが組織を当てはめた図では、(3)を組織文化と呼んでいますが、組織文化のみならず(2)も(4)も合わせた企業の環境と呼べる特徴の持続性は、経営者自身と幹部との関係性に大きく影響を受けるということなのです。
(大企業の場合は、(1)〜(4)の特にどれが影響力が強いかは異なると捉えています。)
 
この前提に立った上で、なぜ谷川クリーニングでは今なおティール的な特徴を有する組織運営が維持できているのかについて考えてみました。
 
その答えは実はシンプルで、谷川さんがご自身に対して「調子がいいときもあれば悪いときもある」「得意なこともあれば苦手なこともある」といった人間としての不完全さという完璧さを見出されているからではないでしょうか。
 
会社の転機となった大量退職が起こった際、谷川さんは現象を通じて今の自分の考え方・価値基準を突きつけられ、この結果を受け止めなければならないと思ったそうです。
 
その結果、自分の弱みを見せることができるようになり、周りの人を頼り、実際に助けてもらうことなどを通じて、変えるとか導くといったことじゃないなと思うようになったそうです。
 
これら一連の流れが谷川さんがご自身の見方を変えるきっかけとなり、同時に周りの人への見方が変化し、関係性も変わったのではないでしょうか。
 
そして、ご自身がそういった過酷な状況を乗り越えたという体験があるため、他人に対してもその可能性を信じることができるのではないでしょうか。
 
(もちろん、専務である奥様との関わりも欠かせないことだと思いますが、そのテーマについて伺っていないので推し量ることしかできません。)

さいごに

2020年の4月頃、ティール組織とは?についての仮説が浮かびました。
 
それは、ティール組織とは「洗練された母性がシステム化されたもの」という仮説でした。
 
洗練された母性って何?というツッコミが入るかと思いますが、子どもが転んだとしてもすぐに駆け寄って起こそうとせずに、立ち上がれる力を信じて見守っているおばあちゃんのイメージです。(だったら祖母性と呼べばいいじゃない!というツッコミが入りそう 汗)
 
当時の私に観えたティール組織像は決して甘いものではなく、自身のありのままが突きつけられるものである一方で、個としての生きる力が育つ環境だと思えたので、子どもに「生きる力」を育む関わり方ができる性質=洗練された母性としてみたのです。

ちなみに、母性と書いているからといって女性だけのものということではありません。性質なので、男女問わず備わっているもののことを指しています。

今回、自分なりに谷川クリーニングについて書かせていただく中で、改めてこのフレーズが浮かび「本当にそうかもしれない」という感覚が強まりました。
 
話が脇道に逸れてしまいましたが、実践を惜しみなく共有してくださった谷川クリーニングの谷川さん、麻美さん、ありがとうございました!!

おまけ

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