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理工系学部の女子枠創設に思う、大学での多様性の役割〜リケジョな子育てVol.12〜

noteマガジン『東工大飛び級ママの「リケジョな子育て」』/第12号です。
このnoteマガジンは、発行人・福所しのぶが日経xwoman Terraceブログに投稿したオピニオンのうち、「子育て・教育」テーマのものをピックアップし、一部再編集してお届けしています。

今回は2023年1月30日の投稿から。元の投稿は、日経xwomanに掲載された記事『東工大学長 理工系の女子学生増えると大学どう変わる?』(下記リンク)を受けて、感じたことや気づきをシェアさせていただいたものです。
では、どうぞ!

※以下の本文中、「参照記事」とあるのは上記リンクの記事を指します。


理工系学部の女子枠には賛否両論ありますね。
母校の東工大は導入に踏み切って運用を開始していますが、中には創設を見送る大学もあります。

受験は男女ともに同じ試験を受けるわけなので、すでに男女平等のはず。だから女性枠を設けたらレベルが下がるのでは、という懸念。

一方で、水面下では「女性は理数系科目が苦手」「女性は理系の仕事に向かない」といったアンコンシャス・バイアスによって理系キャリアへの興味やモチベーションを削がれているケースがある。この場合は理系大学を目指すスタートラインにも立っておらず、理系女性の少なさの一因となっている。この状況は果たして社会全体として平等といえるのか、という立場。

本当の意味で多様性が確保され、男女ともに道が開かれていることの難しさをはらんでいるように思います。

参照記事では、東工大が「何のために」あえて女子枠を創設したのか、その長期的な視点が興味深く、筆をとった次第です。

こちらの記事を読んで初めて知ったのは、文部科学省が、入学者の多様性を確保することを求める通知を2021年に出していること。その中で、多様性確保のための具体的な対象として「理工系分野における女子学生」を挙げているということです。

大学の多様性がなぜ大事なの?と思われるかもしれません。

もしかしたら、文系・理系を含めて様々な学部のある大学でしたら、さほど実感されないことかもしれません。でも、理工系に特化した東工大にとってはこれは意外と切実な問題なのだろうなと思います。

私が東工大に入学したのは1994年なので、ちょうど30年。ジェンダーの失われた30年といいますから、私が入学したときと現在とでさほど状況が変わっていないと考えると少々驚きます。

(ちなみに、30年前といえばスマホもwi-fiもない。インターネットは使う時だけダイヤルアップ接続で、携帯端末といえばポケベルから少し携帯電話に切り替わってきた頃…と考えると、もはやどのように生活していたのか、というレベルですね)

その30年前、大学時代にどのようなことを経験したかというと…

まず、女性用のお手洗いの数が圧倒的に少ない(笑)。現在は校舎建て替えなどでだいぶ改善されているとは思いますが(非常勤講師をしていたときはそういった不便は感じませんでしたので)、当時は、学部生が利用する5階建ての講義棟に女性トイレは1カ所のみというところもあったと記憶しています。しかも、もともと男性用だったのを看板だけかけかえた状態、とか。

4年生以降の研究生活に入ると、研究分野にもよるかもしれませんが、連日長時間の実験、徹夜も当たり前。終電を逃して研究室の椅子を並べて眠ったことも数えきれません。研究や実験が好きだったからこその青春の1ページではありますが、若くて体力があり、学位取得という目標があったからこそできたこととも思います。

これを読んでくださっているみなさんは、理工系の実態ってそんな感じなの?と驚かれるでしょうか。

私にとってはけっこう普通です。「それってどうなの?」と思う余地もなく、そんなものだよねと受け入れてきたのです。

郷に入っては郷に従えという感じで、数が圧倒的に少ない状況では多数派のルールに合わせるが勝ち。なんかヘンかも?と思ったり、声を上げようという思考になりにくいのです。

裏を返せば、少数派が声を上げるには、多少の「数」は不可欠なんです。

先日、私の転機・キャリアチェンジの話が日経DUALの記事として掲載され、その中で「男性と変わらず働くことが女性の社会進出だと思っていた」ことなども語らせていただきました。いろいろな要因があるとは思いますが、専門性を身につけた大学という場での経験もそんな価値観の土台の一つとして大きかったと感じています。

結果的に、男性の多い業界の中でも専門職・管理職として、本当にいろいろな経験をさせていただいたので、その価値観を全否定はしません。

ですが、その男性側にしても、旧来の男性中心社会のしくみが窮屈だと声を上げる時代に入ってきていますよね。それなら、これからどんな社会にしていきたいのか。新たな仕組みを作り上げていくためにはもう一方の性である女性の視点が欠かせませんし、その視点を取り入れるには声を上げられるだけの「数」も必要だと思うのです。

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ちなみに、私の転機を取り上げていただいた日経DUALの記事はこちらです。『育児も仕事も限界を超え難病に 棚卸しで見えたものは』(2023年1月23日掲載)


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