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どうする?まったく知らないジャンルの取材

こんにちは。物語のアトリエの安藤です。

前回の記事では、最新の取材について振り返ってみました。そこで今回から数本にわたり、いまも記憶に残っている取材の振り返りをしてみようと思います。【ライティング:他者の話を聞いて書く】に関心がある人の、何かの参考になれば幸いです。

「私はまだ何も知らないんだ」という自覚を大切に。

時々、まったく詳しくないジャンルの取材をするのは怖くないのですか?と聞かれることがあります。答えはもちろん【怖い】です。でも、それ以上に新しい世界に触れられる【ワクワク】のほうが何倍も大きいです。

中途半端な知識があると、【それについて自分は理解している】と思いがちで、現場であたらめて【問う】行為を怠ってしまいます。これが、ライターにとって何よりも良くないことだと私は思っています。

なぜなら、同じ言葉であっても、そこに込められている【意味】は人により千差万別。ライターの仕事は、文字としての言葉を書き写すことではなく、その話者にとっての【意味】を理解し、意味が読者に伝わるようにすることだと思うからです。

親近感が湧くまで咀嚼した機械工学のライティング

私は説明するまでもなくド文系なので、数学や理科のジャンルは基本的に「ちんぷんかんぷん」です。しかし、フリーランスになって初めてのお仕事は、機械工学の研究室の広報誌でした。(ポートフォリオとして活用してOKとお許し頂いた案件だったので掲載します)

しかも、他の人が取材した音声を聞き取って、指定された文字量でまとめるというご依頼だったので、非常に難易度が高かったです。分からないことや知りたいことを自分で聞けないので、いざ文章にまとめようとしてもパズルのピースがなかなか揃わない……という壁に直面しやすいのです。

このような場合に私がとっている方法は、まったく知らない言語を話す人に話しかけられていると想像して、なんとか理解しようと、まっさらな気持ちで音声を聞くことです。

最初に聴いたときは、想像どおり「ちんぷんかんぷん」でした。

自動の文字起こしツールなどを使って音声を文字に変換するだけで良いなら機械でもできますが、それでは、読者にとってまったく意味の通らない文章になってしまいます。

そのため、いきなり音声を文字起こしすることはありません。ざっくりした流れをつかんで、頻繁に出てくるキーワードや、話者が強調している部分、声色が変わった部分などに気をつけながら音楽のように聴いていきます。

そして、中でも特に「これって、どういう意味なんだろう?」「なぜ、この言葉を選んだんだろう?」など、自分の心に次々と浮かんでくる【問い】を主軸に文章を組み立てていくのです。

<自分の心に>というのが最大のポイントで、いくら聴いてもなんの問いが生まれないとしたら、それは<相手の話にまったく興味が湧かない>ということなので、文章の骨格を作るのはとても難しい作業になるかと思います。逆に、主観的な【問い】を文章の中心軸にすると、それに対する【答え】が話者の言葉から浮かび上がってくるので、音声データの何を取捨選択すれば良いかが見えてきます。

自分が納得できたプロセスを文章にする


この取材音声を聴いたときは、【間(ま)】【道具】という2つの言葉に強く惹かれました。どちらも、単語自体は誰でも知っている聞き慣れた言葉です。しかし、大切なのは、話者の文脈における「意味」です。

何度か音声を聴くうちに、【間】というキーワードが、人・自然・機械をつなぐ重要な要素として語られていることに気づきました。機械工学というと当たり前のように<機械>にフォーカスしがちですが、この研究室が大切にしているのは<機械>ではなく、人・自然・機械の<関係性>であり、目には見えない関係性=間をデザインすることが機械工学においてもっとも重要なのだというメッセージが浮かび上がってきたのです。

【道具】もまた、単なるモノではなく、【生の探求】の象徴(モチーフ)として語られています。【道具】という具体的な言葉の背後に、【生の探求】という抽象的な意味が込められている。音声になっていない背後の【意味】をつかんで自分なりに言語化できれば、文章の骨格が決まります。

日本人にとって、道具は単なる人工物ではありません。道具によって人間の可能性を教えられるこ ともある。人間としての生き方を探求し、生きる可能性そのものを拡げていくために「道具」は存在しているのです。

この記事は、上記の一文を背骨(文章全体で伝えたいメッセージの真髄)として組み立てました。その後に続く文章で、具体的な例を3つに絞り込んで紹介(インタラクティブ全身揺動システム、Qドラム、超軽量型ショベリングツール)。最後の段落で、もう一度、抽象的なメッセージに戻り、日本の文化・思想と絡めて補足するという流れです。

実際の音声では、このような順番ではまったく語られていません。盛り込んだ内容も全体の6〜7割程度です。話題に上ったトピックスをかなり大胆に取捨選択しています。機械で文字起こししたものと比較すると、まるで違う文章になっています。

それでも、ほとんど赤字修正なく納品できたのは、話者が読んでみて「そうそう、言いたかったのはそういうこと」と感じて頂けたからだと思います。

まとめ

まとめると、まったく知らないジャンルの取材で私がポイントにしている点は以下の3つです。

①私は何ひとつ知らないというまっさらな心で聴く。
②心に浮かんだ【問い】を主軸に文章の骨格を作る。
③一語一語の背景にある抽象的な意味を言語化する。

これまで怒涛のようにこなしてきた【文章を書く】という作業を、こうしてていねいに振り返ることで、初心に立ち返り、さらに文章力を磨いていけると良いなと思っています。

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