見出し画像

個人の生きづらさと社会のトラウマ、共同体についてなど。

〇悩みや症状として表れているのは「個人」という氷山の一部〇

これまで大人や子どもへの心理セラピーをご一緒する中でさまざまなお悩みや困りごとを伺ってきました。

「子どもにトラウマを作ってしまったんじゃないか、と思うぐらい強い怒りが出てくる」そんなご自分を責めている方。長年のパニック障害やうつ状態から、普通の生活をもう一度送れるようになりたいという方。結婚したいけど相手を探すのに何かうまくいかないと焦りを感じる方。ここまで人生を送ってきたけど、やっぱり同じことを繰り返しているので自分の過去について取り組みたいという方。

お悩みの入り口は多様でも、現在のご状況に至るまでの過程についてお話をうかがう中で、多くの方に共通する二つのことが見えてきました。一つは「悩みにつながる行動や思考のパターンは個人の傷つき体験からきている」こと。もう一つは「個人の傷つきの背景に社会の傷つきがある」ということです。

これは言うまでもなく、今までも多くの専門家や研究者が示してきたことですが、臨床の場にいる中で改めて感じ、複雑に絡み合う問題の根っこのように思いました。

「悩みにつながる行動や思考のパターンは個人の傷つき体験からきている」というのは、今感じている悩み事は例えるなら氷山の一角としてたまたま表れている部分で。海面下にはこれまでの生まれて育つ中での体験やそこからの認知、考え方、世界や自身へのイメージ、身体の発育の状態、刺激(他者や世界)への反応パターンなどが幾層にも重なっていて、全体としてその人の現在の状態へとつながっているということです。

また、当たりですが身体も毎日代謝があり、外側の刺激(自然環境や人間関係)も日々変わっています。このように内で積み上げられてきたものがあり、同時に絶えず変化し続けている部分もあり、このように人は(私たちは)複雑で繊細な個人の歴史と環境との相互作用の中で影響を受けたり与えたりしながら過ごしています。

心理セラピーでは主に個人の内面に目を向けて、たとえばアタッチメントや認知的なテーマをみる、心身の調整力をつけていく、心のケガ(トラウマ)のケアをするなどしていきますが、目の前の一人の方の癒しに取り組むのは同時に、この方(当時のその子)がどのような状態、環境で過ごしていたのか。に目を向けることでもありました。

すると見えてくるのは不安や怒りを抱えた親や教師など、周りにいたトラウマ反応を持つ大人たちの姿であり、その当時の大人たちもまた、幼いころに周りの大人たちから言われてきたこと、されてきたことをしていたという恐怖や傷つきの連鎖でした。
(心や身体に必要なもの、言葉、エネルギーを与えてもらえないというのも同じ)

この家族間の連鎖もよく言われていることですが、家族という単位だけではなく、その先につながる人間関係としての会社や学校、国への相互的な影響があることは想像に難くないでしょう。

こういう意味で個人の生きづらさの背景には家族という一番身近な共同体であり、こどもにとっての最初の社会での体験があり。その家族のメンバそれぞれにも引き継がれてきた時代的な背景が関わるトラウマや、同時進行で起こっていた不寛容や無関心によるトラウマなど、多くの傷つき体験もくぐりながら生きてきました。逆にいうと、ここまでこうして生きてこられている知恵のある私たち、とも言えるかもしれません。

いつか【小児期逆境体験(ACE)を覆すカウンターACE“小児期順境体験/BCE”と共同体パワー!】について書きたいと思っているのですが、その前に共同体について思うことを。

=================================

「共同体」は家族から身近な町内会、サードプレイスまで様々かと思いますが、やはり個人の傷つきをケアする、防いでいくには個人ですること・できることに加えて、社会(環境)がすること・できることが必要かと思います。そんな視点をトラウマインフォームドケアを通して広くわかちあっていければ、他人事ではなく自分事としての気づきから、もっとたくさんの方が関心を寄せやすくなるのかな、なんて考えています。

他人事ではなく自分事として寄せて考える、関わる、というのはまさに小松理虔さんのおっしゃる『共事者』的意識で、私たち支援者も、一般の方も「トラウマがある人とそうでない人」の違いではなく、誰もがもっているものであり、それはヘンなことでも恥ずかしいことでもなく、ケアして慈しむ対象なのだ。という理解なんかを共有できたらな、とも思っています。

まとまりなくなりましたが、共同体の大事さと共事者意識でそこに居る、ことについて書いてみました。
(共同体といえば、岡檀さんの『生き心地の良い町』は本当に良い本だと思います!抗トラウマ要素満載で読んでいてめちゃ元気になりました。岡さんの対談もお勧めです。>>YOUTUBE 湯リイカ )

=================================

トラウマを学んでいると、その周辺にある心、身体、社会制度、環境、いのち、性と生、関りのアート、など本当に深い世界だなぁと感じます。言葉が適切かわかりませんが“有機的なものがもつ豊かさ”ということも思います。

ここで突然のお知らせになるのですが、12月23日に、そんないのちの関わりや響きあいについて示唆に富む言葉が詰まった映画「かすかな光へ」を観ながらトラウマやこれからの共同体について考えるワークショップを開催します。教育研究者 大田堯さんのドキュメンタリーですが、こどもと共育、遊び、自然と身体性、インクルーシブ教育など、大事なテーマが満載です。ご著書もたくさんありますので、もしご興味のある方は本などぜひご覧になってみてください。

ワークショップはお子さまのご同伴が無料となっていますので、お母さん、お父さん、ぜひお子様と一緒に足をお運びいただければと思います。
大人がわいわいしている中に子どもがいる風景ってなんだか好きな光景です。

詳詳細とお申込みはこちらをご覧ください>>

個人のトラウマの背景に社会のトラウマという視点から、なにができるか?を参加者の皆さまと考えていきたいです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?