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【藤田一照仏教塾】道元からライフデザインへ(19/07)学習ノート③

(ここまでの7月一照塾)
6月一照塾からのhomeworkをシェアする「道元にさらに食い下がって問う」グループワークの模様は、学習ノート①にて。
一照さんによる「弁道話講話(十八問答のうち問答10~問答16)」の模様は、学習ノート②をご覧ください。

この「学習ノート③」では、ソマティックワーク"身体のムーブメント"について振り返っていきます。


1. オリエンテーションの優位性

今回のソマティックワークのテキスト「感じる力でからだが変わる -新しい姿勢のルール」(メアリー・ボンド著、春秋社刊)では、「グラウンディング(Grounding)」「オリエンテーション(Orientation)」という2つの重要なキーワードがあります。

身体は地面(大地)に向かって定位(オリエンテーション)していく方向性と、空間(スペース)に向かって広がって定位していく方向性の2つがあって、そのどちらも必要なのですが、人によって、グラウンディングが優位に定位する人もいれば、スペースに定位するのが優位な人がいる…ということがテキストに書かれています。

a. グラウンド(地面で定位する)タイプの人
生まれ持った身体の重さの感覚を使って動きます。強いダウンビートが特徴の歩き方で、重力との確固たる関係性から生まれる自信が身体に表れている。

b. スペース(空間を使って定位する)タイプの人
地面の上の足取りは軽く、ステップは途切れることなく連続します。緊張させて重力に完全にゆだねないようにしているので、スペースの人たちには身体の重さの感覚がほとんどない。
(テキストp.305)

私はこの部分を読んでいて、アメリカの東海岸の人たちはグラウンドタイプで、カリフォルニアの人たちはスペースタイプだな、と思いました。
東海岸のマサチューセッツ州にずっと住んでいて、初めてサンフランシスコに行った時に「人々の歩き方が全然違う!」という感じがしました。
西海岸の人たちは、姿勢がまず違うんですよ。「軽やか~」に宙に浮いているような感じです。一方、東海岸の人たちはHeavyな感じがします。

日本人はどうなんでしょう、両方いるんじゃないですかね?
今日この塾に来ている人たちは、わりと"空間型"の人が多い気がするね(笑)。

"どうしてオリエンテーションのタイプが2つに分かれるのか?"は「分からない」と書いてあります。

遺伝的にプログラムされているのかもしれないし、生まれる前にお腹の中で母親の動きから学習しているのかもしれません。文化によって影響を受けることもあるでしょうし、トラウマ的な出来事への反応として生まれるものもあるかもしれません。
どのような場合でも、私たちの定位行為は、環境に対する原始的な反応に由来し、脳の皮質下領域で行なわれています。ですから優先して使うオリエンテーションを変えようとして、意識すること、つまり皮質で考えて、別の定位手段を命じることはできません。
(テキストp.306)

しかし、一方が過剰に優位で、他方が手薄の場合は、弱いほうを訓練することで過剰なバランスの偏りを是正することができる…と書かれています。

(塾生aさんのコメント)
私はアフリカンダンスをやってるんですけれど、西アフリカに関してはグラウンドタイプだと思います。ビートやステップが全部下なんですよ。
クラシックバレエもやっていたのですが、バレエはかなり上ですね。


■ 言語のリズムと身体のオリエンテーション

(塾生bさんのコメント)
身体のオリエンテーションのタイプが分かれることは、言語の違いとも関係があると思うのですが、例えば日本語のリズムは、一拍一拍を踏みしめるよな「ストンピング・リズム」と言われていて、アフリカの一部の地域の言語もストンピング・リズムです。一方、英語を話すリズムは。ボールが弾むような「バウンシング・リズム」と表現されています。
日本人が英語が苦手なのは、日本語がストンピング・リズムの言語で、バウンスする英語のリズムと合わないからと考えられています。


2. 瞑想①

(一照さんinstruction)
きょうは、まず坐ってから始めましょうか。

ひざの上に手をそっと置いて、腕の重さをひざで感じてください。ひざを通して手で床に触れている感じ。これで、手の定位ができます。
坐骨は、座布団を通して床へ定位していきます。

眼は開いていてください。中央視と周辺視を均等に、ずっと遠くのほうを見るように、視線をクロスさせないように、平行なままで。はっきり見ようとしなくていいです。

頭頂部は、天井へ向かってリーチング(Reaching)していきます。
坐骨と両ひざは、床へ向かってプッシュ(Push)

音を使って身体を定位させていきます。いろんな方向から聴こえている音を"聞く"というよりは「迎え入れる」。
「自分の身体ではなく、鳥の声や車の音など、遠くの音に意識を向けてみましょう。もし閉ざされた空間でやっているのであれば、海の波の音や、町の向こうの教会の鐘の音など、はるか遠くの音を想像して聞いてみましょう(テキストp.302)。」
意識を向ける方向が姿勢に影響します。あまり身体にばかり集注すると、身体は閉じてしまうので。きょうはちょうど隅田川で花火大会があるそうなので、遠くのほうで花火がポンポンと上がっているのを聞いているのを想像してみてください。

遠くの音への定位を失わないようにして、自分の呼吸にも注意を向けます。肋骨の後ろ側に表現されている呼吸の感覚を、感じようとがんばる必要はない。そこへ注意を注いで待っていれば、その感覚を拾える時が来ます。

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3. 空間のオリエンテーション

今回のソマティックワークのテキスト「感じる力でからだが変わる」の英語原題は「The New rules of Posture (新しい姿勢のルール)」といいますが、何が新しいのかというと、「感覚ときちんと向き合う」ということだと思います。
今までの姿勢の教育は、目に見えるスタティックな外観、かたちに合わせて良い姿勢をとる…というようなやり方でしたが、この本の著者メアリー・ボンドさんは、姿勢を"運動"として捉えている
私も、「坐禅は"止まるという運動"である」と考えているので、非常に似ていると思います。

第1部「アウェアネス」、第2部「スタビリティ」、第3部「オリエンテーション」とこれまで取り組んできて、今回は第4部「ムーブメント」。

(1) アウェアネス
止まっている姿勢と動いている運動に共通して「感覚へのアウェアネス」が必要になってきます。感覚を手がかりに、良い姿勢を見つけていくというアプローチをとっています。まず身体に何が起きているのかに気づいて(aware)いないと、身体が変わっていく手がかりがないわけです。

(2) スタビリティ
その次はスタビリティ、坐禅でももちろん姿勢の安定性が重要になってきます。

(3) オリエンテーション
スタビリティを土台にして、世界に向かって関わっていく運動です。
坐禅も、世界から身を引いているわけではなくて、実は世界に出ていっている営みなので、ここでもメアリーさんと私とで考え方が共通しています。

(4) ムーブメント
いよいよ、動いていくことになります。
ムーブメントでメインになる動作は「歩く」ことですが、歩きだす前に、ひとつ実験をしてみましょう。

■ 空間のオリエンテーションの実験

楽に立って、片足を無理のない高さまで持ち上げます。
それから目を閉じて、バランスのコントロールに集中します。どのくらいグラグラするか、どのくらい筋肉が頑張っているか、バランスを取り続けながら観察してください。

少し休み、また同じ足で目をつぶってバランスを取ります。
今度は自分の身体ではなく、鳥の声や車の音など、遠くの音に意識を向けてみましょう。もし閉ざされた空間でやっているのであれば、海の波の音や、町の向こうの教会の鐘の音など、はるか遠くの音を想像して聞いてみましょう。

一回目と二回目の結果を比べてみてください。たぶん二回目のほうが安定していて、コーディネーションが取りやすかったのではないでしょうか。
聴覚を広げると、空間に対する知覚が重力の下向きの力と釣り合います。また聴覚を広げることで、バランスが皮質下中枢につながって、必要以上に筋肉で頑張らなくて済むのです。
(テキストp.302~303)

これ、おもしろいですよね!
バランスを取るために集中するとグラグラして、気持ちを遠くのほうへ飛ばすと安定する。そして、グラウンディングとオリエンテーションが釣り合うと、バランスが取りやすくなるということですね。これは「counter-intuitive (直観に反した)」なことだと思いますね。


4. 歩き出すときのオリエンテーション

自分の前に畳2枚分くらいのスペースを確保して、まず自然に立って、それから畳1枚分くらいの距離を、普通に歩いてみてください。
一旦ストップして、また歩き出します。リセットして、スタート。
止まってから、歩き始めの一歩が出る瞬間、誰かに名前を呼ばれて一歩前に出るような時の身体を感じてみましょう。
これからいろいろなワークをして、歩きが変わるか変わらないかを見ていきますので、いまの感じを覚えておいてくださいね。

■ 歩き出すときのオリエンテーション

足を出す前に、身体が骨盤と脚に沈み込む感じがしますか?
それともまず胸を上や前に持ち上げていることに気がつきますか?
オリエンテーションの知覚は、身体内部の繊細な活動に表れます。それに気づくことで、自分が足元の地面から安定を得ているのか、それとも周囲の環境を使っているのかを知ることができます。身体の緊張パターンは、どの
オリエンテーションを好んで使っているかによって形成されるので、地面にしても空にしても、習慣化したオリエンテーションは、何かしら姿勢を固めてしまう原因となります。
(テキストp.308)

ここで、先ほど話した「オリエンテーションの優位性」が分かれてきます。
足を出す時に、身体が沈んでいく感じがまず知覚される人か、胸から先に身体が出ていくのを感じる人かで、オリエンテーションが「下が優位(グラウンディング指向)」か、「上が優位(スペース指向)」かに分かれていくということでしょう。

姿勢そのものというよりは、動き出す直前に身体の中で起こる微細な活動が、その人が使いやすいオリエンテーションを決定づけているのです。
(中略)
自分のオリエンテーションの癖が分かれば、あまり使っていない方の感覚を養うことで、姿勢を圧迫から解放できます。こういったやり方で皮質下脳を働かせて、意識では成し遂げられない変化を起こしましょう。
(テキストp.309)

「身体内部の微細な活動が、姿勢と動きを決定づけている」という観点は、私たちにはあまり馴染みがないですが、非常に大事なことです。
自分のオリエンテーションの癖というのは、皮質下脳、つまり表面よりは下の脳で起こることなので、意識では直せないということです。


5. フライング・テーブルの応用

これから、先月のhomeworkとしても皆さんに取り組んでもらった「フライング・テーブル」をやりますが、これから行なうフライング・テーブルのバージョンは、今まで学んできたことが全部入っていて、「一つの瞑想のようにまとめて練習できます」と書いてあります。

プッシュとリーチのオリエンテーションの動作、姿勢ゾーンのチェック、健康的な歩き方に必要な筋肉を使う練習をしていきましょう。エクササイズの流れは第5章のフライング・テーブルと同じですが、細かい点を加えることで、より包括的でパワフルなエクササイズになります。
(テキストp.316)

「プッシュ」というのは下へ向かう、「リーチ」は外へ向かうオリエンテーションの動作です。「姿勢ゾーン」というのは、スタビリティに関わる呼吸筋、腹部、骨盤底、オリエンテーションを助ける手、足、頭…という身体の6つのゾーンのことでしたね。

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四つん這いの姿勢になり、手首は脇の下の真下に、膝は股関節の真下に来るようにしてください。足首が硬くて床につかない人は、畳んだ毛布を足首の下に入れましょう。ゆっくり、穏やかに、下部肋骨を使いながら鼻で呼吸します。骨盤底の後ろ側の三角をリラックスさせます。目は手の30センチくらい先の床を見ますが、同時に周辺視野が周囲の景色を取り込むのを許してください。
(テキストp.316)

下部肋骨に意識がいくと、身体のコアの部分に「インナーコルセット」が活性化します。「骨盤底のダイヤモンド」のうち、肛門がある側の三角形を緩めます。目をあまり凝らさないように、固めないようにして、周辺も見れるようにします。

脇の下の後ろ側を、床に向けるようにして前に引っ張ると、前鋸筋が活性化します。床とのコンタクトや、脛、足首、足の甲の皮膚にあたる毛布(畳)の感覚を味わいましょう。両手と両脛の感覚を均等にします。四本の「テーブルの脚」すべてで、均等な皮膚のコンタクトを見つけます。
(テキストp.317)

いきなり動かないで、まず今の感覚を味わうのが大事なのですね。四つん這いの姿勢で、背中が丸くなっている人がいますが、この姿勢で身体をリラックスさせると、背中はたわみますよね。前寄りでも後ろ寄りでもない、右寄りでも左寄りでもない、四肢で均等に身体を支えます。

床をプッシュする感覚を保ったまま、体重を右足以外の三肢に慎重に移したら、右足で上方、後方にリーチします。敏感な足指の裏側で、何かに触れに行くようなつもりで脚を動かしましょう。三肢でプッシュして、一肢でリーチしている状態です。プッシュとリーチの感覚が同じくらいになるように、力加減を調節します。
(テキストp.318)

「脚を伸ばした先に壁があって、それに触りに行くつもりで動かす」…というのがオリエンテーションですね。息を止めないで、落ち着いて呼吸します。

滑らかに体重を二肢のサポートに移しながら、左手で前方にリーチします。指の腹の皮膚が心から何かに触れたがっている、と想像しましょう。今は、四肢のうちの二つがリーチして、あとの二つは(床を)プッシュしています。力加減を調節して、同じくらいのエネルギーでプッシュとリーチを感じられるようにしてください。目はリーチした手のもっと先を見てください。そのまま1、2回呼吸したら、ゆっくりコントロールしながら最初のポジションに戻ります。反対側の腕と脚でも同じことを繰り返します。
(テキストp.318)

「プッシュに支えながらリーチ」しないと、大変な運動になってしまいますね。ここでわざわざゆっくりした動作で行なっているのは、丁寧にするためです。

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では、2人組になって、パートナーの人はエクササイズする人がきちんと四つん這いの姿勢になっているかチェックしてあげてください。そして、リーチする時に手先と足先を「トントントン」と触って活性化してあげてください。その感覚に導かれて、腕と脚がスーッと伸びるかどうか、試してみてください。腕と脚を伸ばそうとするあまり、床をプッシュする感覚が疎かになってはいけませんよ。

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6. 股関節の回旋

次のエクササイズは立って行います。
股関節は「ボール&ソケット」という構造になっていて、360°動けるようにできているわけですが、私たちは脚を前後に動かすようにしか使えていません。このテキストによると、歩く時には股関節が内旋と外旋をしながら脚を前に送り出しているということです。

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たいていの人は骨盤を固めて大腿を屈曲させて歩くので、骨盤の回旋を利用して脚を前に送ることができていませんが、実は大腿と骨盤の間では、歩く時にカウンターローテーションが起きています。
(テキストp.322)

このテキストでは、著者のメアリー・ボンドさんは「歩く」という動作について、身体の様々な部分が総合的に統合されている動きで、それは一つひとつを意識でコントロールできないのだけれど、様々な種類のエクササイズによって感覚を目覚めさせて、その上で全部忘れて歩くと、皮質下の脳のはたらきですべてが統合されて、歩き方の質が変わることが期待される…と考えています。
これは坐禅についても同じように、「割り稽古」的に様々なことをバラバラやっておいてから、それを全部忘れて坐るという考え方を私は持っているので、この本を読んだ時にはメアリーさんのことを「仲間だな、先輩だな」と思ったものです。


7. 股関節を開くストレッチ

次に歩きに入っていきますが、その前に、「股関節を開くストレッチ」というのがあるので、それをやってみましょう。

股関節が硬く、骨盤の動きがあまり感じられない人は、股関節を開くための何かが必要です。ヨガでも股関節のストレッチはたくさんあります。ここでは簡単に始められるものをご紹介します。
・仰向けに寝てひざを曲げる。
・両脚を平行に並べて、足裏は床につける。
・右の足首を左のひざに掛けたら、左腿を両手で抱えて、ひざを胸に引き寄せる。
・右の股関節が伸びるのを感じたら、そのままゆっくり落ち着いて8呼吸ストレッチ。
・骨盤底や肩、喉、顎を固めないように気をつけて、両側で2、3回ずつ繰り返す。(テキストp.325)

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8. カウンターローテーション

先ほどのワークで、股関節がちょっと開いてきている状態なので、今度は歩いてみますね。まずは両脚で均等に立って、それからゆっくりと右脚に体重を乗せます。

骨盤を右の股関節に休めます。左足は受動的に床に触れさせておきます。右手をお尻の上、ちょうど右の股関節の後ろあたりに軽く載せてください。次に、左脚は使わずに、骨盤を二本の脚の上に戻しましょう。右の腿が逆向きに回旋し(外旋)、左の股関節を前に送り出します。この動きを起こすのは、右のお尻の奥深くにある筋肉です。手の下でその動きが感じられたかもしれません。
(テキストp.324)

......何だか"ウォーキングのレッスン"を受けているみたいだね(笑)。
西洋のボディワークは、ワークをする前の歩き方と、ワークした後の歩き方の違いを見るものが多いですね。歩き方に運動の効果が最もよく現れるということです。

■ 筋肉と話せるおばさん
私はアメリカで坐禅指導をしていた頃、「筋肉と話ができるおばさん」というボディワークの人がいて、身体の調子が悪い時に行って見てもらうと、私の両側から「Oh!good!Beautiful!」とか言うんですよ。
「オレがBeautiful?」と聞くと、「いや、あんたじゃなくて、筋肉。あんたは何もしなくていい」って言うんですよ(笑)。
それで、ひと通りやってもらったら、「廊下を歩いてみなさい」と言われるんですね。その時は、背が高くなった感じとか背筋が伸びた感じとか、身体が軽くなった感じがしたものです。でも、すぐまた戻ってしまうんですけどね。


9. 骨盤のジャイロスコープ→瞑想②

もう一つのエクササイズは、「股関節と骨盤にアウェアネスを向ける練習」です。

■ 骨盤のジャイロスコープ

両脚に均等に体重をかけて、楽に立ってください。

頭のてっぺんが空からぶら下がっていて、さらに仙骨が頭からぶら下がっているのを想像してください。
(テキストp.327)

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「頭がぶら下がっていて、さらに仙骨が頭からぶら下がっている(ホワイトボード右の図)」、これはおもしろいですね!皆さん、マジでこれをイメージしてくださいね。

次に、尾骨の先端を魔法のクレヨンだと思って、まわりのスペースに絵を描いてみましょう。単純な円から始めます。
(テキストp.327)

これは、うちの坐禅会でもよくやります。野口体操でもよく行なう運動です。尾骨の先端をピンポイントで触ってみてください。ちょっと内側へ入っています。最初は、尾骨の先端に指を添えたまま円を描いてみてください。

尾骨が小さな円を描く動きは、全体でみると骨盤が円を描く運動になります。骨盤がボール&ソケットの股関節の上に、どんなふうに載っているのかを感じてみてください。
お尻で動きをコントロールしないように、骨盤底の後ろの三角を緩めておきましょう。クレヨンを動かすのに握りしめる必要はありません。手、顎、目もリラックスさせましょう。
心地よく感じられる範囲で、ゆっくり、なめらかに、きれいな円を描いてください。ゆっくりにすればするほど、習慣化されたコーディネーションを抑制しやすくなります。
(テキストp.327)

骨盤で動かすのではなくて、尾骨の先端のピンポイントで描いた結果として、骨盤が丸く動くということです。
例えば、「なぜ太極拳はゆっくり動くのか」というと、「クセが出ないようにするため」です。どの点を通っても正しいポジションで行なうのが大事で、早くやってしまうとクセで動いてしまうのです。ここでもゆっくり丁寧に円を描いてください。急いでやってごまかさないようにしてください。

逆に、完璧な円を描こうと頑張ってしまうと、爬虫類脳が新しい動きを統合するのに適さない意識状態になってしまいます。動きを気持ちよく感じましょう。下は足まで、上は背骨をつたってあなたの笑顔にまで、動きが伝わります。
(テキストp.327)

逆に丁寧にしようとし過ぎると、人間的な脳ですべてをコントロールしようとすることになるわけです。リラックスして、全身運動として行なってください。

1、2分水平面で円を描いたら、今度は前後や上下で円を描いてみましょう。渦巻き模様や八の字など想像力が許す限り、いろんなものを描いてみましょう。
(テキストp.327)

野口体操では、この運動をやってから、同じように尾骨の先端を使って「自分の名前をひらがな、カタカナ、アルファベットで書く」というのをやります。皆さんも自分の名前を書いてみてください。

■ 瞑想②
では、これまで股関節のワークをたくさんやったので、この状態で一度坐ってみましょう。今度は脚を組める人は組んで坐ってください。

まず、床へのオリエンテーションを意識します。両膝と坐骨、骨盤を通して床に体重を預けます。それから、空間へのオリエンテーションも意識します。前半でやった「遠くの音へ気持ちを向ける」のもやってみてください。

坐禅では手は伸ばしませんが、架空の手を前後左右に伸ばしてみてください。その意識を保ったまま、手を足の上に「法界定印」で置いてください。前回学んだ「皮膚のインテリジェンス」を思い出して、法界定印の右手と左手が互いに触れ合っている感覚を味わってください。

10. 一照さん、前期全4回を振り返る

(仏教塾"ゼミ長"桜井さんからの問いかけ)
「弁道話」を皆で講読し、また様々なソマティックワークに取り組んだ前期全4回を通して気づいたこと、学びの中で大切だと思ったこと、またはこれからさらに深めていきたいことを、3~4人ずつのスモールグループでシェアしてみてください。同じ問いかけについて、後ほど一照さんにもコメントしていただきます。

〔一照さんコメント〕
まず一つは、ソマティックワークのテキストとして、この「感じる力でからだが変わる」を選んで良かったなと思っています。この本を読んでワークに取り組んで、"動きを説明するボキャブラリー"が増えたと思います。
私は、「ソマティックな坐禅へのアプローチ」というのを手探りで考え続けてきていたのですが、そういう私の考え方と共通する立場や表現のしかた、注目しているポイントというのが、何となく直感で選んだこの本の中にけっこうたくさんあって、非常に励まされ、応援してもらったという感じがしています。

今年の仏教塾の「道元からライフデザインへ - Institute of Dogen and Lifedesign」というテーマについて。
道元さんは、今から800年くらい前に生きた人で、私たちから遠い昔の人の著述が今に伝わって、私たちはそれを読むことができているわけですが、書かれた時代も、誰に向けて書かれたのかという対象も全然違うのですが、時代を越えて私たちに届いているメッセージがこの中に見つかるはずだ…と思っているわけです。そこで問題は、私たちがそれをどのように見つけて読み取るかにかかっている。

今回の塾には、お坊さんも何人かいるけれど、お坊さんではない人たち、しかも社会の中で、大事なポジションで現役でバリバリ活躍している人たちにとって意味のあるようなメッセージがあって、それをどうやって読み取って現代の言葉で語り、言語化してかたちにするのか…という"課題"が、私自身の中にもあるわけですが、それを皆さんと一緒に取り組んでみたかったといいうのが「Institute of Dogen and Lifedesign」というタイトルに込めた思いでした。
そういう思いをもって前期全4回を行なってみて…「そんなに簡単なことではなかったな」という感じがしています。
時間が短かったということもあるし、毎月1回の全4回で読み込むには「弁道話」はちょっと分量が多かったかなという感じがしてますが、「道元さんの"熱さ"」みたいなものが伝わったかなという手応えを感じています。

「弁道話」を書いた当時の道元さんの周りには、まだ2、3人くらいしかいなかったし、仮寓(仮の住まい)で暮らしていて、このあと20年あまり生きて53歳で亡くなるわけですが、この間には永平寺を建立したし、その後の時代には、曹洞宗は浄土真宗に次ぐ2番目の日本仏教教団としていまだに続いているわけです。
これは道元さんひとりの功績ということではなくて、その後に続いた人たちが教線を張って全国に広げていて、これからも当分の間は曹洞宗は続いていくはずなので、そういう長い伝統の原点のところに道元さんという人がいたわけです。道元さん本人は、自分のしたことが後の世にこんなふうになるとは想像もしていないと思います。

ものすごく大きな河の源流を辿っていくと、その始まりのところは水がチョロチョロと流れている小さな沢だったりするわけで、いまこの時点でやっているささやかなことが、後の世にどんなことになるのかは誰にも分からない…道元さんのしたことがその一つの実例です。
仏教を始めたブッダにとっても同じことが言えますよね。自分が生きた時の2500年も後になって、世界の片隅の日本でこんなに大きな教団になっている、その最初のところに自分がいる…ってブッダがあとから知ったらビックリすると思いますけれど、そういうものなのですね。

皆さんがそれぞれの場所でやっていることも、そういう「種子」という点ではまったく同じこと。道元さんの一生とその後の展開を私たちは知っているので、それに励まされながら、皆さんがそれぞれの持ち場でやっていることに何らかの火を灯す火種が、この4回で植えられたのなら嬉しいなと思っています。

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前期全4回を通しての"気づき"としては、このソマティックワークのテキストもそうだし道元さんの著作を読んだりすることもそうですが、ひとりで考えたり他の参考書を見ながら勉強したりする時よりも、こうやって皆さんの熱い眼差しを受けながら、準備のノートとかも何も持たずに出てきて、何かしゃべらなきゃいけない、という「土壇場状況」で話すときには、今まで言ったこともない表現や、考えたこともなかったメタファーが出てくるので、私にとっては非常に"お得な時間"を与えてもらったなという感じがしています。

■ 2019年度後期の展望
後期は京都に場所を移して、新しい環境と新しい人たちの中で心機一転行ないます。
後期は「学道用心集」という道元さんの著作を講読します。

"学道(仏の教えを学んで仏道を修する)の用心"というわけですが、私たちの仕事の用心、人生の用心というように拡張してそのメッセージを理解できると思うので、その路線で私は話をしようと思っていますが、またそこで新しい読み方ができたらいいなと思っています。
ソマティックワークは、引き続きこの「感じる力でからだが変わる」を基に、前期の経験を活かして取り組んでみたいと思います。

■ 塾が終わって今後の長いスパンで取り組むhomework
「弁道話」は道元さんの初期の著作で、道元さんのメタフィジカルで哲学的な著述というのはその後に書かれていくわけですが、道元さんの「話のネタ」というのはほとんどこの中に入っているので、これをしっかり読んで、表現や全体の流れとかをもう少し細かく見て、他の参考書なども手掛かりにしながら、「弁道話」くらいの分量の古文を最初から最後まで自分で読んでみるという経験をしていただければ、少しは頭の体操になるかなと思います。
「弁道話」を読んでみておもしろいなとおもったら、「正法眼蔵」の次の巻、「現成公案」でも何でもよいので、今は参考書もいろいろ出ていますので、そういうものの助けを借りながら読んでみてください。でも原文を読んでくださいね。解説書や参考書は「原文を読むために」使います。

もう一つは、「瞑想を日課にしてもらいたい」ということですね。
種類はどんなものでもいいと思います、ヨガ的なものでもいいし、坐禅でもいいし、公案をもらっている人は公案を練るのでもいい。

瞑想や坐禅を「日常化」できたら、大したものだと思います。
しない理由なんていくらでも見つかるのに、やる理由はというと「えっと…」という感じですよね。でも、それをやる。
それと合わせて、この塾でやったような自分の身体を丁寧に、ソマティックに知る実践…「動いて、それからじっと坐る」というのが良いコンビネーションだと思いますので、毎日の基盤(daily basis)として導入してもらえたらと思います。

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