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2024年財政検証で示された5つのオプションと今後の年金制度

公的年金では制度の健全性を検証するため、少なくとも5年ごとに「財政検証」が行われています。

2024年に実施された財政検証では、当面、年金制度を大規模に変える必要がないことが示されています。

こちらについては「年金で財政検証を行う目的や結果についてわかりやすく!」という記事でお伝えしているので、よろしければご覧になってください。

ところで財政検証の報告書では、いくつかのオプションと、それに対する財政上の効果も示されています。

また、オプションは全部で5つ示されていますが、今後の年金制度に大きな影響を与えそうなものも含まれているようです。

この記事では、2024年財政検証で示された5つのオプションと、今後の年金制度への影響についてお伝えします。

2024年財政検証で示された5つのオプション

  1. 被用者保険の更なる適用拡大

  2. 基礎年金の拠出期間延長・給付増額

  3. マクロ経済スライドの調整期間の一致

  4. 在職老齢年金制度の撤廃

  5. 標準報酬月額の上限引き上げ

被用者保険の更なる適用拡大

厚生年金などの被用者保険については、これまでも加入者を多くするための施策が行われてきました。

今回示されたオプションは、さらに加入者を増やすためのもので、具体的には4つの段階が示されています。

ここでは、簡単にその内容をお伝えします。

① 被用者保険の適用対象になる企業規模要件を廃止するとともに、5人以上個人事業所に係る非適用業種の解消を行う。(①で被保険者約90万人の増加)

② ①に加えて、短時間労働者の賃金要件の撤廃又は最低賃金の引き上げにより同等の効果が得られる場合。(①と②で被保険者約200万人の増加)

③ ①②に加え、5人未満の個人事業所も適用事業所とする。(①②③で、被保険者約270万人の増加)

④ ①②③に加え、週10時間以上のすべての被用者を適用する。(①②③④で、被保険者約860万人の増加)

被用者保険の適用拡大はこれまでも行われてきましたが、今回のオプションはそれをさらに拡大するものです。

被用者保険の適用拡大については、賛成の意見もあれば反対の意見もあります。

それは仕方のないことだとしても、ここでは被用者保険の適用拡大のメリットをお伝えします。

厚生年金に加入すると厚生年金保険料を支払います。

その厚生年金保険料の中には、65歳から受け取る老齢厚生年金だけでなく、老齢基礎年金の保険料も含まれています。

また厚生年金保険料は労使折半なので、厚生年金に加入する人が支払う保険料は抑えられています。

自営業など第1号被験者や、第2号被保険者の被扶養配偶者である第3号被保険者の方が、65歳になって受け取るのは老齢基礎年金だけ。

一方、被用者保険に加入すれば、65歳からは老齢基礎年金だけでなく老齢厚生年金も合わせて受け取ることができます。

人生100年時代と言われるようになって久しいですが、老後が長くなる可能性が高いことを考えると、現役の内に少しでも年金を増やしておきたいところです。

おそらくですが、2024年の財政検証で示されたオプションの中では、一番実現性が高いのが被用者保険のさらなる適用拡大ではないかと思われます。

①から④までを一度に実施することは考えにくいとしても、時間をかけて少しずつ適用拡大を図っていく可能性がある、あくまでも私見ですがそのように思っています。

基礎年金の拠出期間延長・給付増額

現在、国民年金の強制加入期間は20歳~59歳の40年間です。

オプションで示されたのは、20歳~64歳までの45年間にするものです。

加入期間が伸びれば支払う国民年金保険料も多くなります。

一方、支払う国民年金保険料が多ければ、65歳からの老齢基礎年金も多くなります。

ここでは、2024年度の金額で試算をしてみます。

2024年度の老齢基礎年金は年額81万6,000円(満額)で、これは20歳から64歳までの40年間、すべて国民年金保険料を支払った方に支給される金額です。

したがって加入期間が5年長くなった場合、満額は816,000円÷40年×45年=918,000円と102,000円増えます。

一方、2024年度の国民年金保険料は月額16,980円で年額換算では203,760円、5年間で支払う保険料総額は203,760円×5年=1,018,800円になります。

5年間の支払総額は1,018,800円、増える年金額は102,000円なので、1,018,800円÷102,000円=9.99年。

65歳から老齢基礎年金の受け取りを開始した場合、約10年間で元が取れる(支払った保険料を回収できる)ことになります。

人生100年時代、長い老後を過ごす方が多くなることを考えると、基礎年金の拠出期間延長・給付増額は決して悪い話ではないと思われます。

しかし実際には批判が多いようで、今回、基礎年金の拠出期間延長・給付増額は見送りになっています。

マクロ経済スライドの調整期間の一致

かつて、毎年度の年金額は物価や賃金の動向で見直しされていました。

しかし少子高齢化が進展。

少子化で年金保険料を支払う人が少なくなり、高齢化で年金を受け取る人が多くなることで、年金財政がひっ迫することが予想されました。

そこで導入されたのが少子高齢化の影響を数値化したマクロ経済スライドで、物価や賃金が上がってもマクロ経済スライドで年金額の伸びを抑制することになりました。

マクロ経済スライドは、年金財政を安定させるための措置なので、安定化が実現すればなくなります。

ただし、国民年金と厚生年金は別のお財布で運営されているので、年金財政が安定する時期が異なっていて、マクロ経済スライドをいつまで続けるかも国民年金と厚生年金では異なっています。

今回のオプションで示されているのは、国民年金と厚生年金の調整期間を同じにするというものです。

もっとも、マクロ経済スライドがいつまで続くのかというのはわかっていませんし、調整期間を同じにするためには制度設計を変える必要もあるようです。

マクロ経済スライドの調整期間の一致は、年金財政上は大切なことですが、個人に影響が及ぶことはそれほどないように思われます。

在職老齢年金制度の撤廃

老齢厚生年金は、大前提として老後の所得保障という考えがあります。

在職老齢年金は、老齢厚生年金を受け取っている人が、厚生年金に加入して一定以上の賃金を受け取っているのであれば、老齢厚生年金を減額しても差し支えないだろうという考えに基づいています。

しかし、働いて高い賃金を得ても年金が減額されるのであれば、働きたいという意欲が削がれるのも無理のないことなので、在職老齢年金という仕組みを撤廃しようという意見があります。

こちらについては、老後の所得保障という大前提を大切にするのか、働く意欲を阻害しないようにするのか、どちらになるのか現時点ではわかりません。

在職老齢年金を撤廃すると、働く年金受給者に対する給付が多くなります。

一方、年金財政の立場で考えると、その分のしわ寄せがこれから年金を受給する人に及び、年金の給付水準が低下する可能性もあります。

ただ、在職老齢年金で年金が減額されている人はそれほど多くないので、これから年金を受給する人への影響も限定的だと思われます。

標準報酬月額の上限引き上げ

厚生年金保険料は、標準報酬月額×厚生年金保険料率で算出されます。

現在、標準報酬月額の上限は65万円なので、月100万円の報酬がある方でも厚生年金保険料は上限の65万円で計算されることになっています。

オプションで示されたのは標準報酬月額の上限を引き上げるもので、具体的には75万円・83万円・98万円の3案が示されています。

もっとも、現時点で65万円の標準報酬月額の対象となっているのは、全体の6.2%と決して高くありません。

標準報酬月額を引き上げれば、上限に該当する方が支払う厚生年金保険料は引き上げられ、その方が受け取る老齢厚生年金の額も多くなるものの、年金財政への影響はそれほど大きくはありません。

まとめ

この記事では、2024年財政検証で示された5つのオプションと、今後の年金制度に対する影響についてお伝えしました。

5つのオプションの中で、基礎年金の拠出期間延長・給付増額は見送りが決まっています。

マクロ経済スライドの調整期間の一致・在職老齢年金制度の撤廃・標準報酬月額の上限引き上げについては、仮に実施されてもそれほど大きな影響はないように思われます。

それに対して、被用者保険の更なる適用拡大は対象者が最大で860万人にもなるということで、かなり大きな影響を及ぼす可能性が高いようです。

2024年の財政検証では、年金財政そのものはある程度の安定性を保っているようです。

しかし、さらなる安定性を図るために示されたのが5つのオプションで、とりわけ実現する可能性が高いのが被用者保険の更なる適用拡大です。

被用者保険のさらなる適用拡大は、私たちの生活にも影響する大きな問題だけに、今後の動向に注意していきたいところです。

なお、財政検証に関連して「30歳前後の方必見!年金の2024年財政検証でわかったこと」という記事を書いています。よろしければ合わせてお読みになってください。

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